〈第一報告〉
児童扶養手当受給資格喪失処分取消請求事件(報告:竹下政行)
児童扶養手当法施行令第1条の2は、児童扶養手当法上の支給要件につき委任された児童の範囲を定めているが、当該規定第3号は、「母が婚姻(略)によらないで懐胎した児童」と規定し、かかる児童から「父から認知された児童」を除外している。この除外規定が、憲法第14条、及び自由権規約等の国際条約に反するか否かが争われた。
第一審(京都地裁判決)では、法律上支給対象児童を限定していないにもかかわらず、当該施行令は認知の時から受給資格を否定しており、かかる限定は法の委任の範囲を超える違法・無効なものであるとし、本件処分は取消を免れないとした。
しかし第二審(大阪高裁判決)では、政令制定権者たる政府は、児童扶養手当の受給対象について裁量により決定することができる。また、認知により児童は、父のいない状態から脱却することになるため、生活環境が好転する。それゆえ、憲法14条に違反しているとか、裁量の逸脱・濫用があるとはいえない。条約違反の主張についても、規約人権委員会の一般的意見には法的拘束力はなく、そもそも扶養手当は社会権であるから、直接的には社会権規約の問題であって、個人に対し即時具体的な権利を定めるものではないとし、当該規約に反するものではないとする。さらに子どもの権利条約・女性差別撤廃条約についても違反はないとした。
上告審では、本件除外規定が法の委任の範囲内にあるとの原審判断は是認し得ないとして、原判決を破棄し、被上告人の公訴を棄却した。
本件では、認知を理由とした除外の合理性が争われたわけであるが、認知による扶養義務が、現実の扶養とは直結しないため、かかる区別は法の委任の趣旨に反するとした。いうなれば、国内法令の解釈に基づいた判断だったわけだが、本研究の趣旨に照らせば、第二審の条約解釈が注目される。かかる推論は、日本の裁判例によく見受けられるけれども、国際的平面では、自由権規約第26条が、いずれの分野に関わりなく、法律上規定されるあらゆる法制度に適用されると解されるため、かかる議論は失当ということになろう。
〈第二報告〉
独居房遮へい板訴訟(報告:大川一夫)
本件では、東京拘置所旧舎独居房の窓の外側に設置された遮へい板が、自由権規約第7条(拷問等の禁止)、第10条第1項(自由を奪われた者の取扱い)、第14条第2項(無罪推定とそれにふさわしい処遇)、非拘禁者処遇最低基準規則を満たすか否かが争われた。
第一審(東京地裁)では、無罪と推定される権利(自由権規約第14条)から、拘禁関係に伴う必要かつ合理的な制約を除いて、人道的かつ固有の尊厳を尊重して処遇されるべきであるとし(自由権規約第10条、最低基準規則第48条2項)、必要かつ合理的な限度を超えて被拘禁者に危害を生じさせる危険性があるか否かを検討した。一般的には、かかる遮へい板を設置しないことが国際的基準により合致するといえるとしつつも、遮へい板がなければ、他の被拘禁者との不正連絡の可能性が生じるとし、罪証隠滅・逃亡防止という拘禁目的の達成に支障を来たすとする。また、採光及び通風にはそれなりに配慮しており、かかる理由から、勾留目的を達成するために必要かつ合理的な設備であり、違法ではない、と判断した。
第二審(東京高裁)では、原審での主張に加えて、規約第7条(拷問等の禁止)等違反の主張を追加したが、かかる国際文書を斟酌すると、肉体的又は精神的な苦痛を与える取扱いは禁じられるとしつつ、原審と同様の推論を展開して、かかる遮へい板は、視界を全く閉ざしている訳ではないから、かかる施設での拘禁が違法であるとはいえないとした。
本件に対する評価としては、一般論の部分は是認しうるけれども国際基準の適用の段階で、遮へい板設置の必要性・合理性については広く認め、被拘禁者の苦痛については軽減している。国際基準をより公正に適用すべきである、とした。また、不正連絡の可能性についても、原告に挙証責任があるかのような理由付け(「可能性」は「否定できない」)の問題性が指摘された。
〈報告書のまとめ方について〉
今回の報告を検討した結果、最高裁判決を別途記述することは、却って理解を妨げるのではないかとの意見が相次ぎ、一括して執筆することとなった。