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法律・狭山部会・学習会報告
2003年6月10日
国際人権条約と国内判例研究

武村二三夫(弁護士)

不二越挺身隊員等賃金等請求訴訟

 本件は、第二次世界大戦中韓国人を使役した企業に対して、未払賃金の支払、国際人権法上の不法行為・債務不履行に基づく損害賠償、及び謝罪広告の掲載を請求した戦後補償訴訟の一つである。地裁・高裁段階でいずれも請求が棄却されたものの、消滅時効の起算日や、国際法上の損害賠償請求権の成立に関して重要な判断が示された。

(1)損害賠償請求権の消滅時効について

日韓国交回復に伴って締結された請求権協定は、協定締結日以前に発生した財産権について、「いかなる主張もできない」とし(第2条第3項)、同協定実施に伴う財産権に対する措置に関する法律は、日本国又はその国民に対する債権も、締結日もって消滅するとしていた。しかし、1991年8月27日の政府答弁は、当該協定は国家の外交的保護権を放棄したにすぎず、個人の請求権を消滅させたものではないとした。

  本件第一審判決は、その答弁まで、原告らの個人的事情を越えた客観的・一般的状況により、債権行使が期待し得なかったので、消滅時効起算日を当該答弁の日とした。だが、第二審判決では、経済状態や地理的条件といった事実上の障害は時効期間進行を妨げる事由にはならないとして、起算日を1945年とした。日韓国交回復時をもって起算日と解しうる余地があるとしたが、第一審の判断について、法的安定性の面から相当ではないとして否定した。第二審の評価としては、敗戦以後の国交断絶状態を単なる地理的条件と解している点で問題である。

  また、政府答弁の評価についても、立法上個人の請求権を否定するかのように規定し、かつそのように政府も解してきたところ、実は請求権行使が可能であったとするのは、国家によるだましうちを容認することとなり、不当である。

(2)国際法上の損害賠償請求権と除斥期間

第一審で原告は、慣習法上の奴隷禁止等違反に基づく損害賠償請求を主張したところ、第一審判決はかかる請求権の成否については検討することなく認容し、第二審においても否定されていない。従って国内裁判所において国際人権法違反の損害賠償請求が可能であることになる。

  しかしながら、かかる請求権の原因たる違法行為を、国内法上の不法行為と「本質を同じくする」として、法令の適用により、日本法を準拠法として除斥期間経過による消滅の対象となるとした。しかし、国際法上の請求権と国内法上のそれとを安易に同一視する点で、論理の飛躍がある。消滅時効や除斥期間が不明瞭である点で座りが悪いにせよ、国際法上かかる制度の存否については別途検討すべきであろう。

(3)民法上の損害賠償請求権と除斥期間

さらに、心神喪失・禁治産宣告を受けた場合に、除斥期間の適用が排除される余地が認めれているが、本件でも、訴訟提起ができない、又は期待できないという意味では、本質的な相違があるとはいいがたく、当該規定の効果を否定する「特段の事情」があったとする余地があるのではないか。

 なお、本件訴訟については、原告側による米国でのクラス・アクション提起の動きを受けて、訴訟の長期化を嫌った被告側の意向により、2000年に最高裁段階での和解が成立している。

(李 嘉永)