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2003.09.09
部会・研究会活動 <法律・狭山部会>
 
法律・狭山部会・学習会報告
2003年7月23日
国際人権条約と国内判例研究

(報告)在間秀和(弁護士)
幸長裕美(弁護士)

〈第一報告〉在留期間更新不許可処分取消請求事件

 本件は、離婚訴訟継続中にした法務大臣による在留期間更新不許可処分につき、その取消を求めた行政訴訟である。その最も重要な争点は、事実上の婚姻破綻が、入管法上規定される「日本人の配偶者等」たる地位を否認しうるに足る法的効果を持つか否か、であった。

 本件判決は、かかる争点につき、「日本人の配偶者である者として在留資格が付与されるべき者については、日本人との婚姻が法律上有効な者であれば足りる者としていると解される」とした。さらに判決は、「夫婦として相手方に対して負う義務のうち、主要なものは、同居及び協力・扶助の義務であるが、夫婦において、仮にその義務が尽くされていない状態があったとしても、それが故に夫婦が夫婦でなくなるものではない。」とし、更に、「民法は、配偶者から悪意で遺棄された場合でも、裁判所が一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することもできるとしている」とした。

 結論として、法務大臣は、「その裁量権の行使に当たり、当然考慮すべき事項を考慮しなかったため、その結果が社会通念上著しく妥当性を欠くものとなった場合には、その裁量権の行使方法に誤りがあった」として、本件処分を取り消した。

 国際条約との関連では、原告側は、自由権規約第23条の「締約国は、婚姻中及び婚姻の解消の際に、配偶者の権利と責任の平等を確保するため適当な措置をとる」との規定を援用し、本件処分が同規約に反すると主張した。判決はこの主張につき何ら言及していないが、論旨において、内容上かかる主張を肯定するものと解される。

 ただし、2002年10月14日判決において、最高裁は、かかる判断を覆した。すなわち、入管法上「配偶者」とは、単に法律上有効な婚姻関係にあるだけでは足りず、外国人が日本において行おうとする活動が日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当することを要するとして、事実における婚姻、とりわけ共同生活の実態の有無を重視し、かかる実態を欠き、回復の見込みが全くない状態に至ったときは、もはや社会生活上の実質的基礎を失っているというべきとして、在留資格更新不許可処分取消の請求を斥けた。

 かかる判断の枠組みは、日本人配偶者の有責性をなんら加味することを得ず、「配偶者」の理解に付き、身分法的観点を全く欠いている点で、不当であろう。

〈第二報告〉賃借権確認等請求事件(大阪地裁)・損害賠償請求事件(静岡地裁浜松支部)

 前者は、原告がマンション賃貸借の申込みに際して外国人であると明らかにした後、契約に関わる手続を進めていたところ、家主が後日日本国籍を有しないことを理由として入居を拒絶したため、賃借権の確認・建物引渡し、不法行為に基づく損害賠償請求、さらに大阪府に対して宅建業法等に基づく監督義務違反を理由として損害賠償請求を行った事例である。

 本件判決は、自由権規約・憲法における平等規定等を援用したところ、かかる法文書は、私人間の法律関係に直接適用されるものではないとして採用しなかった。ただし家主に対しては、契約締結の拒否理由は原告が在日韓国人であることと認定し、かかる事情は何ら合理的な理由とはなりえないとして、信義則違反により、契約締結を期待して被った損害について賠償義務を認定した。

 また、大阪府の監督義務違反の主張については、国籍を理由とする取引拒否が、宅建業法上の「取引の公正」を害する行為とはいえないとして、権限不行使の違法はないとした。当該判決については、国際条約の直接適用は認めなかったものの、信義則違反の認定に当たって、拒否理由の合理性判断につき条約・憲法の趣旨が加味されたものとして評価すべきである。

 但し、私人間の適用を排斥した場合、何ゆえ大阪府の監督義務違反の認定に当たって国際条約に全く言及しなかったのか、合理的な説明ができないのではないか。

 後者の事案において、原告ブラジル人女性は、宝石点に入店したところ、被告から出身国を質問され、ブラジル出身であることを伝えたところ、入店を拒否された。その後警察官等を交えた話し合いでも店主らが誠実な対応を欠いたため、原告は慰謝料・弁護士費用の支払を請求した。

 本件判決は、かかる不法行為責任の認定にあたり、人種差別撤廃条約の地位について次のように述べて、間接適用を認めた。つまり、人種差別撤廃条約は、憲法優位の下で国内法としての効力を有し、その実施に関して外務省が「新たな立法措置(略)を必要としない」とする以上、個人に対する不法行為責任に基づく損害賠償請求の場合には、同条約の実体規定が不法行為の要件の解釈基準として作用する、として、上記の事実は原告の名誉を著しく傷つけるものとして、請求額について満額の支払を命じた。

 本件判決は、極めて率直に人種差別撤廃条約の裁判規範性を認めたものであるが、しかし規範論理的にはあくまで民法上の不法行為責任の認定において判断基準とするものであり、いわゆる条約の間接適用にとどまる。しかしながら、前者の事案との比較したとき、法的発展が見られるというべきである。

(文責・李嘉永)