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2003.10.15
部会・研究会活動 <法律・狭山部会>
 
法律・狭山部会・学習会報告
2003年9月12日
国際人権条約と国内判例研究

(報告)奥村秀二(弁護士)
養父知美(弁護士)

〈第一報告〉大麻取締法違反・関税法違反事件

  本件において裁判所は、刑事訴訟上被告人に裁判の様子を理解させるための通訳については、成文上の根拠がないにもかかわらず、長く法廷慣行として行われてきたものであるが、日本の法制上自動執行力を有する自由権規約第14条第3項(f)において成文上の根拠を持つに至ったと判示した。

  また、かかる条項においては、「無料で」との文言があり、被告人の資力如何にかかわらず、本来被告人の負担すべきものでないことを示しているとし、以上を総合して、自由権規約第14条第3項(f)に規定する「無料で通訳の援助を受けること」の保障は無条件かつ絶対的のものであって、被告人に通訳に要した費用を命じることは許されないと判断した。

  当該判決における判旨の意義として、第一に、規約上の文言から、率直に通訳を受ける権利を認めた点であり、第二に、自由権規約の自動執行性を肯定している点である。他方、問題点として、法廷における証人の通訳費用、弁護士の接見にかかわる通訳費用は、規約上その射程に含まれるかという点がある。

(在留無資格婚姻外国人女性国民健康保険訴訟)

  いったん離婚して在留資格を喪失した外国人たる原告が、後に別の日本人と婚姻し、在留特別許可申請中に、国民健康保険被保険者証の交付を申請したところ、在留資格がないことを理由として、国民健康保険法第五条にいう「住所を有する者」に該当しないとして交付しないとの処分を行った。本件は、これを不服として、当該処分の取消しを求めた事案である。

  本件における主たる争点は、原告が、同法第5条に定める「住所を有する者」に該当するか否かである。ここで問題となるのが「住所」の意味であり、この点につき裁判所は、地方自治法の「住所」と同義であり、各人の生活の本拠(民法第21条)、となる場所をいうとした。

  他方、外国人に関しては、憲法上日本での在留を要求する権利を保障されているわけではなく、在留資格に関して諸般の事情を考慮する必要があるとした。しかし、かかる事情は、住所認定の際に考慮されるべき事情の一部に過ぎず、客観的生活状況や定住意思をも勘案すべきとした。その上で、一考慮要素に過ぎない在留資格を、「住所を有する者」に該当するための一律の要件とする解釈を導くのは妥当性を欠くとした。

  原告は、本件処分が、自由権規約第26条、社会権規約第2条第1項、第2項、及び第12条に反する旨主張していたが、裁判所はその判断においてかかる規約規定の解釈問題には一切言及していない。しかしながら、在留資格の有無は住所認定における一考慮要素に過ぎないとして、住所概念に付き日本人との格差を縮減したことは極めて重要であり、黙示的にかかる条項の趣旨を勘案したと解しうる。

〈第二報告〉再入国不許可処分取消等請求事件(崔善愛事件)

  協定永住資格を有する在日韓国人である原告は、指紋押捺拒否を理由とした再入国不許可処分を受けたまま出国した。その後日本への上陸を申請したものの、日本における在留資格喪失により上陸条件不適合を認定されたため、自由権規約第12条第4項「自国に戻る権利」があるとして異議を申し立て、上陸特別許可を受けた後、在留特別許可等により、在留していた。本件は、当初の処分を不服として、法務大臣に対し再入国不許可処分取消しと、国に対する永住資格確認及び国家賠償を求めたものである。

  本件訴訟のいずれの判決においても、不許可処分の取消の訴えに関しては、そもそも再入国許可を得ずに出国した以上、従前有していた協定永住資格は消滅したので、当該処分が取り消されたとしても、かかる資格のまま再入国を認める余地はないとした。第一審及び上告審では、この点から訴えの利益を欠くとして訴えそのものを不適法とし、却下した。

  他方控訴審においては、「被公訴人法務大臣が適法に再入国許可をしていれば、公訴人は、出国によっても協定永住資格を喪失していなかったものであるから、不許可処分が違法として取り消されたとしても、現に在留資格を有していない公訴人に対し再入国許可をする余地がないと被公訴人法務大臣において主張することは、信義誠実の原則に反する」として、訴えの利益喪失についての法務大臣の主張は採用できないとした。その上で、本件不許可処分は、原告に対し余りにも過酷な処分として比例原則に反しており、その裁量の範囲を超え又は濫用があったとして、その取消しを免れないと判示した。

  国際人権法との関連においては、いくつかの論点があるが、再入国不許可処分の適法性に関わって、自由権規約第12条4項にいう自国に「定住国」が含まれるか否かが最も重要である。かかる論点に付き、上告審では何ら言及がないが、地裁・高裁とも、条約法条約上の解釈規則を援用して当該文言を検討した。

  自国とは「国籍国」を通常意味するのであって、「定住国」を含めることは「特別の意味」を付与することとなるから、当事国がそのように意図していたと論証すべきところ、起草過程において定義付け等を行った証拠はないから、「自国」に「定住国」の意味を与える意図があったとは認められないとした。

  しかしかような解釈については、概ね次の点で妥当性を欠くように思われる。すなわち、条約法条約に基づく「自国」の解釈は、後に生じた実行という解釈要素を検討しておらず、また、特別の意味に関する推論において、論点先取りの誤謬を犯している。すなわち、「自国」概念において特別の意味として「定住国」が含まれるのか、通常の意味としてであるのか、若しくは含まれないのかが論証すべきであるにもかかわらず、論証する以前に「特別の意味であるはずだ」と性質決定している。

  なお、その後原告は平成11年(1999年)の外国人登録法の一部を改正する法律附則第13条により、特別永住者の地位を回復した。

(文責:李嘉永)