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<部落解放・人権教育啓発プロジェクト>
 
部落解放・人権教育啓発プロジェクト
2003年5月26日
『2002年度版 人権教育・啓発白書』(2003年3月)及び「人権教育のための国連10年に関する国内行動計画の推進状況」(2003年1月)の問題点について

友永健三(部落解放・人権研究所)
森 実(大阪教育大学)
上杉孝實(龍谷大学)


全体的な問題点(友永)

(1)「人権教育・啓発白書」の問題点

 人権教育及び人権啓発推進法第8条の「政府は、毎年、国会に、政府が講じた人権教育及び人権啓発に関する施策についての報告を提出しなければならない」という規定に基づく報告書である。運動によって獲得した法律に基づく「白書」であり、各方面で、批判的に分析し、問題点を明らかにしていく必要がある。以下にその問題点を列挙する。

  1. 「人権課題」として10数課題を挙げているが、欠落している人権課題(沖縄、セクシャルマイノリティ、婚外子、被拘禁者、入管、ホームレス等)がある。
  2. 日本において人権問題が生じてくる背景を「概説」で「…より根本的には、人権尊重の理念についての正しい理解やこれを実践する態度が未だ国民の中に十分に定着していないことが上げられている」との基本認識を示している。しかし、この間、明らかにされてきた問題点は、他でもない、公権力に従事している人々こそが人権を理解していないということであったはずである。
  3. 「人権教育」の内容を「心の教育」「思いやりの心」に関する教育として「理解」している。しかしながら、人権教育とは、何よりも人間の尊厳の尊重、エンパワメントのための教育である。
  4. 法務省の目玉施策「人権の花運動」について、「各地において人権尊重思想を浸透させる上で顕著な啓発効果をあげることができ…」と評価しているが、本当にそうか説明がない。
  5. 女性差別を撤廃するための体系ができつつある。日本の人権課題の中で最も先進的に進められていると評価できる。ここでおこなわれている施策を他の分野にも適応すべきである。しかし、マイノリティの女性の視点が欠落している。
  6. 「子ども」の項においても、マイノリティの子どもの視点が欠落している。「いじめ・暴力・不登校」等の問題への対応について、この問題の原因をもっと掘り下げ、根本的な方策を確立する必要がある。
  7. 「高齢者」についても、マイノリティの高齢者の視点が欠落している。
  8. 「同和問題」の項では、差別事件についての言及が弱い。実態調査、基本計画・基本方針、政府の総合調整・企画立案機能を持った機構の設置の必要性について指摘がない。総じて、「人権課題のひとつとしての同和問題」としての位置づけに後退してきている。
  9. 「外国人」については、まず民族教育の必要性の指摘が欠落している。また、民族学校等に対する大学受験資格の差別的取扱いについての指摘がない。
  10. インターネットによる人権侵害について、内容分析が弱い。必要な方策についても弱い。公的な相談機関の設置や罰則規定が必要になるのではないか。
  11. 「人権に関わりの深い特定職業に従事する者に対する研修等」について、それぞれの職業分野について担当を決め、分析する必要がある。名古屋刑務所事件や入国管理関係職員による人権侵害に代表されるような問題がなぜ生じたのか。事実を突きつけ批判していく必要がある。
  12. 「総合的かつ効果的な推進体制等」について、
    • 実施主体の強化として「人権擁護法案に基づく人権委員会の設置」を挙げているが、人権委員会の独立性、実効性、教育・啓発機能について担保されていない。
    • 総合調整・企画立案機能を法務省と文部科学省の共管から内閣府への移管する必要がある。
    • 地方法務局に取りまとめ機能を持たせるのではなく、地方自治体、地方人権センター、地方人権委員会に持たせる必要がある。
    • 人権擁護委員の抜本的改変が必要。
    • 人権教育啓発センターを真に政府から独立したものにすることが必要。

(2)「国連10年に関する国内行動計画の推進状況」の問題点

 今回の報告書は、2001(平成13)年度の実施状況を中心にまとめられたものである。

「人権教育のための国連10年国内行動計画」についても、運動側からの働きかけで策定されたものであり、推進状況に関する報告を批判的に分析する必要がある。

 問題点は、基本的に「人権教育・啓発白書」の問題点と同じであるが、違う点を以下に列挙する。

  1. 「国連10年」の場合、人権教育に啓発も含まれている。
  2. 「企業その他一般社会における人権教育の推進」が含まれている。
  3. 「国際協力の推進」という項目がある。
  4. 「地方公共団体の取組状況」についても調査され報告されている。
  5. 「評価と今後の課題」が記述されている(一部を除き評価になってはいないが)。
  6. 事業名と予算、その概要が添付されている。
  7. とりまとめが内閣官房内政審議室によっておこなわれている。


第二報告
学校教育についての問題点(森)

(1)評価

  1. 日の丸・君が代強制、有事立法、教育基本法改正の動きなど政治の右旋回が明瞭ななかで、人権教育・啓発推進法の制定などにより、様々な事業の新設や学習指導要領への記述、教職員の研修や人権侵害に対する懲戒の強化などを含め、人権に関わる教育施策の前進が見られる。
  2. 既存施策の「落ち穂拾い」的な面もあるとはいえ、新たに予算化された施策とあわせて、人権教育関連施策がまとめられ、点検や分析をしやすくなった。
  3. 学習指導要領をはじめカリキュラム全体の(抜本的な)見直しがなく、付加的に事業をおこなうにとどまっている。
  4. 人権教育と道徳教育や心の教育との関連が未整理なまま融合的に位置づけられており、しかも後者の予算が文字通り桁違いに多い。
  5. それぞれの重要課題に焦点を合わせた学校教育施策がほとんどない。

(2)研究と実践に関わる提案

  1. 様々な人権課題が重要課題としてありながらも、具体的に取り組まれていない、もしくは有機的連関を持って取り組まれていない。このような現状にかんがみ、
    • 人権問題や人権教育に関連する市民団体との幅広い連携・協力を推進する。
    • 教育理論としても、諸課題を横につなぐ理論(例えば、多様性教育)を早急につくっていく必要がある。
    • 「人権教育と市民運動」といった本の出版が求められている。
  2. 教育政策・行政や教育内容のあり方全般を人権の観点に立って見直すことが必要だと説得的に示す教育理論を打ち出すべき。
    • これを進める上で学校現場との連携にはどのような可能性があるだろうか。
    • 依拠できる教育論などとしてどのようなものがあるか(例えば、多重知性論)。
  3. 研究指定校の冊子等を取り寄せて内容分析するとともに、研究指定校制度の改善のために提案をおこなう。
  4. 教育政策や教育行政、具体的事業などの面で具体的な目標設定をして、それに向けた研究活動を展開する。
    → 例えば、「道徳の時間を人権の時間に」
  5. 運動としての具体的な目標を設定し、それに向けた運動としての連携を進める。
    → アムネスティの人権教育や女性運動との連帯


第三報告
社会教育・啓発の問題点(上杉)

国のほうのとらえ方では、文部科学省が社会教育を扱って、法務省のほうが啓発を扱うという縦割りが見事に出来上がっているという印象を受ける。スペース的にも社会教育は少なくて、啓発に多くが割かれている。文部科学省が社会教育で具体的に何を取り組もうとしているのか、正直なところ見えにくい。国内行動計画のほうも、白書のほうも、トータルに言ってしまえば、いろんなことがやられていることを人権にひっかけて列挙したという印象が強いと言わざるをえない。つまり、本当に人権に焦点が当たった事業をそこに挙げているのではなくて、ちょっとでも関連していれば、あるいは無理にでも関連させて挙げているという印象が非常に強い。

  1. 社会教育における人権教育の推進
    • 「家庭教育のあり方を盛り込んだ冊子の配布」とあるが、人権教育としてやっているというよりも家庭教育の強化という点に重点がある。部分的に差別・偏見の問題に触れられている程度。
    • 「多様な学習機会の一つとして人権教育に関する講座も開設」とあるが、どれぐらい人権教育に関する講座が開設されているのかというデータが示されていない。
    • 「指導者の養成として社会教育主事講習での人権教育」とあるが、全国的にどのような状況か、その内容が示されていない。また、現職教育はどうなっているのか、触れられていない。
    • 「公民館等社会教育施設」では、合理化による職員引き上げが目立つ中で、人権教育の後退が懸念される。
    • 「人権教育総合推進事業」「人権感覚育成事業」等では、参加体験型の学習も取り入れられてはいるが、思いやりや心がけ中心になって、問題を掘り下げない結果になっていないか。
  2. 企業その他一般社会における人権教育等の推進
    • 「人権啓発活動ネットワーク協議会の構築」について、法務局・地方法務局の関わり、各自治体・地域における啓発組織との関係、構成団体における取り組みはどうか。
    • 「人権擁護委員等の研修」とあるが、すべての委員に研修の機会を提供しているのか。さらに、それが人権教育指導者として機能しているのか。
    • 「採用選考の適正化」に力点を置いて言及されているが、一方で職域の中での教育についての言及が乏しい。
  3. 特定の職業に従事する者に対する人権教育の推進
    • 矯正施設における問題等について言及がない。
    • 議員への言及なし、司法官については「白書」で言及している点は評価してよい。
  4. 重要課題への対応
    • 同和問題については抽象的。同和問題を人権教育・啓発において位置づけた取り組みになっているか。2001年度人権教育総合推進事業978事業のうち、同和問題を位置づけているのは、わずか60事業である。
    • さまざまな人権問題をどのように関連付けているのかが見えない。
  5. 地方公共団体がおこなう啓発活動
    • 自治体によっては男女共同参画など特定の啓発のみおこなっている。
    • 範囲は広がっても予算はほとんど変わっていない。(個々にいえば 減少している。)
  6. その他
    • 具体的な施策として掲載されているものが必ずしも人権教育・啓発との関連が明らかではない。
    • 識字など成人基礎教育等、「人権としての教育」のとらえ方が不足している。
    • 当事者の学習保障の問題
    • 国がもっと積極的に、実態調査をおこなう必要性。


今後の課題

以上の報告を受けて、友永研究所長より、今後の課題が次のように提起された。

  1. 各分野別、テーマ別分析が必要……そのためには体制を組む必要がある。
  2. 政府に対しても批判的な立場に立って、まとめる必要がある。その際の立脚点としては、国内的には、差別や人権侵害の実態を踏まえること、国際的には、人権条約に基づく委員会からの勧告がある。
  3. 評価が必要 → 成果、問題点、今後の課題を含むこと。
  4. 政府、自治体、企業、各種団体、メディア、民間団体等あらゆる分野の分析が必要
  5. 実態調査の必要性
    例:「人権擁護に関する世論調査」2003年2月調査
    → 外国人の人権擁護についての考え方に示された問題点。

       (文責・事務局)