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事業報告

 1999年度事業報告

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  1999年度の世界の人権状況は、厳しい出来事が相次ぎました。たとえば、コソボにおけるアメリカやNATO軍による爆撃、チェチェン共和国に対するロシア軍の爆撃、オーストリアにおける極右政党の政権への参加などです。このような厳しい人権状況のなかでも、内外の世論の支援を受けて東チモールがインドネシアから独立への歩みを開始したことは特筆に値する快挙でした。


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  日本国内においても、人権状況は厳しいといわねばなりません。多くの人びとや団体が疑問を投げかけているにもかかわらず、国旗・国歌法、通信傍受法(盗聴法)などが次々と制定されました。また、衆議院と参議院のもとに憲法調査会が設置され、日本国憲法の主権在民、戦争放棄、基本的人権の尊重という基本理念までもが問われようとしています。さらに総理大臣の私的諮問機関として教育改革国民会議が設置されていますが、教育基本法の「改正」も視野に入れた論議を実施するとの報道がなされています。


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  部落差別撤廃・人権確立に関しても、1999年度は厳しい局面が続きました。99年7月8日、多くの人びとが証拠開示や事実調べなどを求めているにもかかわらず、これらに応えることなく、東京高裁第4刑事部の高木裁判長は、狭山事件の第2次再審請求を棄却しました。また、7月29日には、人権擁護推進審議会から、今後の教育・啓発に関する答申が出されましたが、行財政的措置の必要性にはふれたものの、国の責務を曖昧にし、法的措置にまで踏み込んだものではありませんでした。


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  しかし、日本の地においても、草の根レベルでは、部落差別撤廃と人権確立にむけた取り組みは前進しており、そのことは人権条例が2000年4月13日現在で、10府県(11条例)、625市町村で制定されていることに象徴されています。また、99年4月時点で、22の府県で、「人権教育のための国連10年」にちなんだ推進本部が設置され、行動計画が策定されています。さらに、与党・人権問題等に関する懇話会や民主党、社民党などの野党の間で、人権教育・啓発を推進するための法律の必要性について本格的な議論が積み上げられてきています。この他、日本は昨年6月、国連が採択した拷問等禁止条約に加入しました。


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  以上に象徴されるような人権状況の下で、部落解放・人権研究所は、多くの人々に支えられて、多面的な事業を実施してきました。以下、主な事業を16点に整理し報告します。

  1.   部落解放・人権教育啓発プロジェクトチームを、3回にわたって開催し、人権擁護推進審議会による教育・啓発に関する答申がよりよいものになること、さらには、「人権教育のための国連10年」にちなんだ取り組みが、地方自治体をはじめ各方面で行われるよう研究と提言を行いました。
      とくに、人権擁護推進審議会に対しては、パブリックコメントを送付する取り組みを実施しました。また、「人権教育のための国連10年」にちなんだ取り組みとしては、『あらゆる分野で人権文化の創造をこれからどうする「人権教育のための国連10年(1995〜2000)」』の編集を担当しました。人権教育・啓発に関する法律の制定実現の可能性が高まってきている状況を踏まえ、更なる研究と啓発が求められています。

  2.   大阪府、大阪市、部落解放同盟大阪府連など各方面との協議、理事会での論議をふまえ、2000年2月に開催した第51回研究所総会において、研究所の研究機能の強化、若手の人材養成、理事体制の拡充等に関し、新たな方向をうちだしました。今後、この方向を推進していく必要があります。

  3.   部落解放・人権大学講座(61期〜64期)、第12回人権啓発東京講座、第30回部落解放・人権夏期講座(高野山)、第24回部落解放・人権西日本夏期講座(福岡)、第20回人権・同和問題企業啓発講座、第14回人権啓発研究集会(群馬)など、一連の講座を成功裏に開催しました。
      とくに部落解放・人権大学講座に関しては、昨年が25周年にあたるため、記念集会、記念レセプション、記念出版(『自分を見つめ解き放つ』)等に取り組みました。今後、人材バンク構想の具体化など、3000名を越す修了生の積極的な活躍の場の確保等をはかっていく必要があります。また、人権啓発研究集会については、群馬の地での初めての開催で、全体会や分科会の会場面での問題がありましたが、群馬県や水上町、さらには部落解放同盟群馬県連等の献身的な支えのもとに成功裏に開催することができました。

  4.   研究所の支持基盤、財政基盤を強化するために法人会員の拡大に取り組みました。このため、部落解放同盟大阪府連合会、大阪市同和事業促進協議会や大阪同和問題企業連絡会、大阪企業同和問題推進連絡協議会等の全面的な協力を得て、理事長を先頭に統一要請行動を実施し、82件の新規加入を実現しました。
      今後、法人会員との連携をさらに緊密にしていく方策の検討が求められています。なお、99年度研究所の個人会員は902名、法人会員は394件(393法人)です。

  5.   大阪府・大阪市の助成を得て実施している研究プロジェクトの内、大阪における解放教育のあり方研究事業については、研究成果を『大阪発・解放教育の展望』として発刊しました。また、子どもがエンパワーする人権教育に関する研究事業については、研究成果を『子どものエンパワーメントと教育』として発刊しました。さらに、大阪府のジャンプ活動助成金を得た調査研究事業として、ジェンダーと部落差別についての中学生の意識調査を実施し報告書を作成しました。
      この他、大阪府高等学校同和教育研究協議会の協力を得るなかで、研究所の高校部会として人権教育の教材作成に取り組みました。今後、これらの研究成果を広く関係方面へ広めていくことが求められています。

  6.   第21回全国部落解放研究者集会については、「変容する部落の実態と今後の課題」をテーマにシンポジウムを開催しました。また第5回全国部落史研究交流会については、「弾左衛門支配の構造と性格〜在方の実態を踏まえて」、「部落史認識の現在〜近代・現代の社会変革と部落」等をテーマに東京で開催され、活発な議論が交わされました。

  7.   情報化社会の到来に対応し、研究所のホームページの充実に取り組みました。研究所のホームページには、研究所の案内、最新情報(日程や部落差別撤廃・人権条例一覧含む)、図書資料室の案内、啓発活動、ビデオ、出版・販売(新刊案内含む)、国際活動、大阪の部落史通信、世界人権宣言大阪連絡会議ニュース、さらには、英語のページ等によって構成されています。
      99年度までは8万件を越すアクセスがありました。なお、ホームページのさらなる充実を図るために、論文や新聞記事などのデータベース作成にむけた検討も行いました。(注.研究所のホームページアドレスは、http://blhrri.orgです。)

  8.   図書・資料室では、「人権教育のための国連10年」や国際高齢者年にちなんだ図書資料の収集を行うとともに閲覧を行いました。また、整理棚を設置し、資料室の整理に精力的に取り組みました。さらに、三輪嘉男先生が集められた住環境整備・まちづくりにかかわる各種資料が研究所図書・資料室に寄贈されました。
      しかしながら、運動関係から寄贈された資料を中心に未整理の資料があり、早急に整理が求められています。なお、99年度の新刊図書の受け入れは1356冊、定期雑誌の受け入れは171種類、ニュースレターの受け入れは240種類でした。

  9.   編集としては、定期的刊行物として『ヒューマンライツ(No.133〜144)』、『部落解放研究(No.127号〜132号)』、『部落解放・人権年鑑1999年度版』、『新聞でみる部落問題2000年版』、『全国のあいつぐ差別事件1999年版』を予定通り発刊しました。また、単行本としては、中野陸夫・長尾彰夫著『松原市立布忍小学校21世紀への学びの発信ー地域と結ぶ総合学習ぬのしょう、タウンワークス』、レア・レビン著、平沢安正訳『世界人権宣言ってなに?第3版』、布引敏雄著『隣保事業の思想と実践ー姫井伊介と労道社』、川越利信、井上明共著『モノ・都市・情報のバリアフリーー人権をかたちに』等を発刊しました。
      さらに、人権ブックレットとしては、人権ブックレット55『人権社会のシステムをー身元調査の実態から』(北口末広著)、同56『人が主役のリサイクルー人権と環境を結ぶ試み』(森住明弘著)を発刊しました。これらの出版物の普及・宣伝、販売の拡大と、発行時期が年度末に集中する傾向の克服が求められています。

  10.   大阪の部落史編纂事業の取り組みとしては、『大阪の部落史』第7巻(史料編現代1)が編集・発刊されました。この中には、1945年〜60年までの、160点余にのぼる原史料が収録されていますが、この本の普及・宣伝が求められています。
      引き続き『大阪の部落史』第8巻(史料編現代2)の編集、近代や前近代の史料収集が精力的に行われています。なお、大阪の部落史編纂事業の進捗状況を広く関係者に知らせるために『大阪の部落史通信』(No18〜21)が発刊されています。

  11.   原田伴彦記念基金は、基金創設以降昨年は、14年目にあたっていました。近年、預金利子が極端に低下していますが、天理教等各方面の寄付をいただく中で、99年度も3事業を実施することができました。
      一つは、原田伴彦賞で、5点の応募があり、小正路淑泰さんの『堺利彦と部落問題ー身分・性別・階級の交叉ー』が佳作に選ばれました。
      二つ目は、マイノリティ研究会への一部助成です。(マイノリティ研究会の取り組みについては、あとで報告しています。)
      三つ目は、国連人権小委員会の実状研究等のため若手の研究者を育成する目的で、スイスのジュネーブに大阪大学大学院生の李嘉永さんを派遣しました。なお、原田伴彦賞については、近年応募者が減少していることから、原田伴彦記念基金運営委員会との協議をふまえ、研究奨励制度への変更など今後のあり方を検討していく予定です。

  12.   国際交流としては、英文ニュース(BurakuLiberationNews)をほぼ2ヶ月に1回発刊(No108〜112)するとともに、マレーシアのダリット解放運動家、韓国の白丁研究者、中国のイ族との交流などに積極的に協力しました。
      また、米国雇用平等委員会の副議長であるポール・イガサキさん、カリフォルニア大学人類学部教授のジョン・オグブさん、パキスタンで活動するアフガン女性協議会代表のファタナ・ガイラニさんなどを囲んで研究会を開催しました。さらに、昨年9月に反差別国際運動日本委員会の主催で実施されたアメリカの「人権のまちづくり」を学ぶスタディー・ツアーに研究所より2名の代表が参加しました。
      この他、国際人権規約連続学習会は、第195回〜第205回まで開催され、151回〜200回までの連続学習会報告集として『差別撤廃と人権確立を求めて(4)』が、発刊されました。なお、韓国の地で自らが白丁出身であることを明かにし『朝鮮の被差別民衆』の著者でもあった金永大さんが99年2月に、不慮の死を遂げられましたが、研究所として追悼文を送りました。英文で部落問題を簡単に解説した冊子の改訂を予定していましたが、99年度では達成できなかったため、2000年度には実現する予定です。

  13.   『部落問題事典』の改訂にむけた取り組みは、1996年度より開始され、5年を迎えています。2000年4月現在、全項目2646項目の内90パーセントの項目の校正を終え、まとめ組(全項目を50音順に並べ、写真・図版を組み込む)をする段階まできています。現時点では、本年9月頃に、『部落問題・人権事典』として発刊する予定です。
      『部落問題事典』を大幅に改訂したもので、これまでの事典を上回る活用がなされるよう、各方面に広く働きかけていく必要があります。

  14.   国際人権大学院大学の設置にむけた動向として、大阪府・大阪市によって設置されていた人材養成機関等検討委員会によって「国際化時代における人権問題に関する高等教育機関等のあり方について」と題した報告書がとりまとめられました。
      その中で、とくに「第5章まとめー高等研究機関実現に向けたプロセスの提案」では、<1>国立の高等研究機関設置への働きかけ、<2>既設高等教育機関の拡充による実現に向けたとりくみ、<3>既存人権関係機関や大学等のネットワーク化による実現への取り組み、<4>夜間大学院(大学)設置の取り組み、と4つの可能性が示されています。今後、大阪府・大阪市をはじめ広く関係方面との連携を強化し、提言実現に向けて取り組みを強化することが求められています。

  15.   研究所が事務局を担っているマイノリティ研究会(代表・武者小路公秀フェリス女学院大学教授)については、99年度3回の研究会が開催されました。その一部を紹介しますと、48回研究会では「岐路に立つダリット運動」をテーマに国立民族博物館の押川文子さんに、49回研究会では「反人種主義世界会議をめぐる動向」をテーマに武者小路代表に、第50回研究会では「人種差別撤廃条約実施についての日本政府報告書の検討」をテーマに大阪大学の村上正直さんに報告をしていただきました。(なお、本年1月、人種差別撤廃条約加入に伴う第1・2回日本政府報告書が国連に提出されましたが、部落問題については触れていないという問題があります。)
      いずれも、タイムリーなテーマのもとに最先端の研究報告を頂きましたが、今後1回から50回までの研究会のニュースの合本版の発刊が期待されています。

  16.   この他、大阪人権博物館、アジア・太平洋人権情報センター、反差別国際運動、同日本委員会、部落解放基本法制定要求国民運動中央実行委員会、同大阪連絡会議等の提起する諸活動に積極的に協力しました。
      なお、研究所の個人会員、法人会員、各地研究所等との日常的な連携を確保するため、『研究所通信』を月1回(No248〜259)発刊しました。