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事業報告

2000年度事業報告

(1)

  部落差別撤廃・人権確立の観点から2000年度を振り返ったとき、最大の成果は昨年11月に人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(「人権教育・啓発推進法」)が制定され、12月6日に公布・施行されたことです。これは、1985年5月に部落解放基本法制定要求国民運動が本格的に開始されて以降積み上げられてきた粘り強い取組が獲得した最大の成果です。

  この取り組みの一翼を部落解放・人権研究所が担えたことを皆さんとともに喜びたいと思います。この法律の制定にむけ、研究所としては部落解放・人権教育啓発プロジェクトチームの会合を積み上げ積極的な提言を行うとともに、法律の制定を受けて『人権の21世紀創造にむけて〜「人権教育・啓発推進法活用の手びき」』の編集を担当しました。しかしながら、「人権教育・啓発推進法」は、いわば枠組みを定めただけの法律ですから、今後、衆・参両院の法務委員会での附帯決議等を活用して、地方自治体や国に「基本計画」や「年次報告」の策定を求めていくことが必要です。


(2)

  また、昨年11月28日、人権擁護推進審議会から「人権救済制度の在り方についての中間取りまとめ」が公表され、パブリックコメントや公聴会での意見聴取が行われました。これに対して研究所としても積極的に対応し、とくに本年1月22日、大阪で開催された地方公聴会では友永健三所長が、実効性のある救済を行うためには悪質な差別については法的規制を行う必要があること、新たに設置される「人権委員会」は国家行政組織法第3条に基づく独立委員会とすること、国のみでなく都道府県・政令都市にも設置する必要があること、人選にあたっては被差別の当事者をはじめ多様性を確保する必要があることなどの意見表明をしました。

  去る5月25日審議会から「人権救済制度の在り方について答申」が出されました。この「答申」の内容は、「中間とりまとめ」に対する41,835通にも及びパブリック・コメントや公聴会等で出された意見を一定反映したものとして評価することができます。しかしながら、悪質な差別行為に対する法的規制の必要性や都道府県・政令都市単位に設置される「人権委員会」(仮称)を基礎としたものでなく中央集権的な「人権委員会」(仮称)構想が提起されているなどの問題があります。「審議会」は、7月から人権擁護委員制度の在り方について審議を開始しますが、これへの働きかけとともに、「規制・救済法」の制定にむけた政府・国会への要請が今後重要な課題となってきます。


(3)

  去る3月20日、国連・人種差別撤廃委員会は日本政府の第1・2回報告書の審査を踏まえた「最終所見」を採択しました。この中で、委員会は部落問題が、人種差別撤廃条約のdescent(政府公定訳では「世系」、研究者の訳では「門地」)に含まれることを明確に指摘するとともに、この条約の規定を踏まえた差別撤廃のための取組を行うこと、次回の報告書には被差別部落出身者の人口や実態、さらには「地対財特法」期限切れ後の部落差別撤廃にむけた戦略を含むことを求めています。

  また、「最終所見」は、日本政府に対して、差別宣伝や差別扇動さらにはこれを目的とした団体の結成や加入などを犯罪として処罰することを求めた4条(a)(b)項に対する留保を撤回するとともに、この条約を受けた差別禁止法の制定を求めています。部落解放・人権研究所は、1970年代後半からこの条約の批准運動に積極的に参加し、研究会や講演会の開催、出版物の発行等を実施してきました。

  とくに、今回の日本政府の第1・2回報告書に対抗して反差別国際運動日本委員会(IMADR-JC)によって取りまとめられたNGO共同レポートの作成に参加するとともに、3月5日から12日まで人種差別撤廃委員会への要請行動のためにスイス・ジュネーブに代表を派遣しました。今後、この「最終所見」の誠実な実施が求められています。


(4)

  世界中に人権文化を創造することを目的として実施されてきた「人権教育のための国連10年」も2000年で6年目に入ったことから、前半の5年間を総括し後半の5年の課題を明らかにするために各方面で様々な取組が行われました。研究所としは、独自の行動計画を策定するとともに、大阪府の後期行動計画や大阪市の後期重点計画の策定等にも参加しました。

  また、後期5カ年の取組を各方面で広めていくために『あらゆる分野で人権文化の創造を〜これからどうする?「人権教育のための国連10年(1995〜2004)」』の編集を行いました。「人権教育・啓発推進法の制定という有利な条件を活用し、「人権教育のための国連10年」の取り組みを大きく前進させる必要があります。


(5)

  本年1月、5年の歳月をかけた作業の結果、『部落問題・人権事典』が発刊されました。項目数は2636、執筆者数は712人に及ぶ本格的な事典です。この事典の完成にご協力いただいた執筆者をはじめ実務に携わっていただいた多くにみなさまに深甚なる感謝の意を申し上げたいと思います。おかげさまで、この事典は各方面で好評を博しており積極的に購入・活用されていますが、今後さらに、研究者のみならず、自治体、学校、企業、マスコミ等各方面で広く活用されるよう呼びかけていく必要があります。


(6)

  啓発企画室では、部落解放・人権大学講座(65期〜68期)、解放大学ステップアップ講座(新規)、第13回人権啓発東京講座、第31回部落解放・人権夏期講座、第25回部落解放・人権西日本夏期講座、第21回人権・同和問題企業啓発講座、社会啓発連続学習会などを成功裏に開催することができました。

  とくに、本年度新規に開催した解放大学ステップアップ講座は、啓発や研修に取り組む現場の担当者が研修教材やプログラムを求めており、これに応えるものとして好評を博しましたが、今後さらに充実したものにしていきます。また、企同連ブックレット人権研修の手引き・特集号『人権時代の企業−実践から学ぶ』、人権研修の手引き・第17集『企業倫理−企業と社会との関係を考える』(出見世信之)、『人権の学びを創る−参加型学習の思想』を編集・発刊しました。

  ビデオ制作としては、職場内研修の教材として『私自身を見てください−固定観念・ステレオタイプ』に取り組みました。この他、委託事業として大阪市人推協リーダー養成講座を開催しました。


(7)

  研究部では、大阪府と大阪市の補助を得て実施している調査研究事業として以下の事業を実施しました。

  1. 社会啓発調査研究事業(2000年度〜2001年度)として、差別意識・偏見の構造分析調査研究事業を実施していますが、2000年度は、8回のインタビューと3回の公開学習会を開催しました。
  2. 生活史聞きとり調査研究事業(1999年度〜2000年度)については、研究成果として『部落の21家族〜ライフヒストリーからみる生活の変化と課題』を発刊しました。
  3. 地域教育システムの構築に関する調査研究事業(2000年度〜2001年度)については、オープンの研究会、クローズの会議、合宿を開催しました。
  4. 第K期近現代身分制及び身分の国際比較研究事業(1998年度〜2000年度)については、第25回〜第30回まで6回の研究会を開催するとともに、報告書の発刊に取り組みました。

(8)

  部会活動をベースとした研究事業については、以下の事業を実施しました。

  1. 逵田良善文書復刻事業としては、和泉市の協力を得て「報告書」を発刊しました。
  2. 結婚に表れる人権・部落問題意識調査(1999年度〜2000年度)については、アンケート調査の「中間報告」を紀要『部落解放研究』第133号に、インタビューの内容を紀要『部落解放研究』第138号より連載しています。
  3. 中学生の意識調査(ジェンダー・部落差別)プロジェクト(1999年度〜2000年度)については、本年3月21日高槻富田解放会館において報告会を開催しました。このプロジェクトは、研究者、学校、地元、研究所の連携によって、ジェンダーと部落差別という複合差別の視点から意識の実態を数量調査したという点で極めて注目される取り組みです。
  4. 「都市下層社会と部落問題」研究会(1999年度〜2000年度)については、第3回〜第8回まで6回研究会を開催しました。なお、2001年度は、報告書の作成準備を行い2002年度に刊行予定です。
  5. 成人教育部会(準備会)(1999年度〜2000年度)については、第14回〜第19回まで6回準備会を開催し、『成人教育ハンドブック生きた学びを創る−人権時代をひらく地域成人教育』を発刊しました。
  6. 高校部会で、総合学習教材として『わたしのナビゲーション・メディア編』を作成しました。

(9)

  部会活動としては、企業部会、高校部会、伝承文化部会、成人教育部会(準)のようにプロジェクトとの関連を明確にして継続した取り組みを積み上げていくスタイル、教育・啓発の調査研究事業のように、調査研究事業と部会活動を関連させていくスタイルが定着してきました。今後こうしたスタイルの部会活動をさらに追求していく必要があります。

  第22回全国部落解放研究者集会は、昨年6月27日、新潟大学の山崎公士先生を招き「国内人権機関の構想について」をテーマに開催しました。第6回全国部落史研究交流会については、昨年8月3日、4日と大阪で、「畿内被差別民の存立構造」、「戦時下水平運動について」、「同和奉公会論」、「畿内の地域史研究と差別」をテーマに開催しました。


(10)

  この他、第15回人権啓発研究集会を、本年2月15日〜16日、京都において開催しました。参加者は4000名を突破し、京都大学名誉教授の上田正昭さんの記念講演「地域文化の再発見〜人権の観点からわたしのまちを見直そう」をはじめ講座コース、分科会コース、全国の人権・啓発センター交流会、ワークショップコース、フィールドワークコースなど多様な企画が好評を博しました。なお、紀要『部落解放研究』については、第133号から第138号を編集発行しました。また、『新聞でみる部落問題2001』を編集・発行しました。


(11)

  研究所のホームページ(http://blhrri.org)については、各部室の基礎的な基調データを定期的に更新し掲載しました。この結果、年間のアクセス件数は72,892(月間平均6,074)と増えてきています。また、非公開の会員専用ホームページを作成・運営していますが、これには、掲示板、文献・通信類・新聞記事・講座・講師等のデータベースが盛り込まれています。


(12)

  図書資料室としては、貸し出し、相談、新刊図書・資料の受け入れ、テーマを設定した展示、書庫の整理、文献データベース、蔵書データベースの作成・公開、新刊案内の作成等に取り組みました。この内テーマを設定した展示としては、「人権教育のための国連10年」および「平和の文化国際年」に関連した資料を収集し展示を行いました。

  また、書庫の整理としては啓発冊子(2000冊)等の整理に取り組みました。さらに文献データベースとしては4600件、蔵書データベースとしては4万件を完成させ、登録制のホームページで公開しました。この他、『全国のあいつぐ差別事件2000年版』、『部落解放・人権年鑑2000年度版』を編集・発行しました。


(13)

  国際関係の取り組みとしては、英文ニュースをNo.114〜No.119まで発行しました。また、反人種主義・差別撤廃世界会議に向けた日本の部落差別とインドのダリット差別をテーマにしたパネル(カラー)と冊子の制作に協力するとともに、同世界会議へ提出するための部落問題に関する報告書の作成にも協力しました。さらに、人種差別撤廃条約に関する日本政府の第1・2回報告書に対抗したNGOレポートのなかの部落問題と教育・啓発に関する部分の原稿作成、国連社会権規約委員会による第2回日本政府報告書の審査(2001年8月)に向けたNGOレポートとして「被差別部落出身者に対する差別に関して」の作成に取り組みました。

  この他、海外からの研究者やマスコミ関係者からの部落問題に関する問い合わせへの協力、海外のマイノリティとの交流に関する協力等に取り組みました。なお、国際人権規約連続学習会については第206回〜第216回まで11回開催されました。また、S0Sニュースについては、月3回合計36号を発刊し、160件の速報に取り組みました。(なお、昨年8月からSOSニュースを研究所のホームページに掲載するととも、メールマガジンでの配信を開始しています。)


(14)

  編集関係の取り組みとしては、月刊『ヒューマンライツ』No.145〜No.156を発刊しました。

  また、編集係が担当して新しく発刊したものとしては、『人権のまちづくり』、『部落史研究4弾左衛門体制と頭支配』、『地域の教育改革学校と協働する教育コミュニティ』、『学力と自己概念人権教育・解放教育の新たなパラダイム』、『多様性トレーニング・ガイド人権啓発参加型学習の理論と実践』、『人権の時代をひらく改革へのヒント』、『人権の21世紀創造にむけて「人権教育・啓発推進法」活用の手引き』、『成人教育ハンドブック生きた学びを創る人権時代をひらく地域成人教育』、『現代史を見る目戦争・差別・公害』、ブックレット57『はい、子どもの人権オンブズパーソンです兵庫県川西市の試みから』等があります。

  さらに『エンパワメントと人権』、『いま部落史がおもしろい』、『部落史の再発見』等の増刷に取り組むとともに、『リサイクル社会の21世紀へ大阪市同和衛生事業組合30周年記念誌』を委託を受けて編集・発刊しました。


(15)

  販売係の取り組みとしては、販売業務(受注・発送作業等)を一部委託し合理化を進めてきました。また、大阪府・大阪市・大阪府市長会等と一定の議論を積み重ね、書籍購入についてのこれからの調整をおこなっているところです。

  あわせて雑誌『ヒューマンライツ』については、財源確保の視点から、継続中ながら大阪市内企同連への購読拡大に取り組んできました。さらに解放出版社との共同事業である『部落問題・人権事典』の発刊に伴う販売促進に取り組むとともに、大阪の部落史委員会編集の『大阪の部落史』(第八巻)の販売活動を進めてきました。


(16)

  第14年度原田伴彦記念基金事業としては、第1回原田伴彦・部落史研究奨励金を募集した結果、4件の応募があり、3件に奨励金の支給が行われました。国際人権人材養成事業としては、4件の応募があり、中条オルガさんをスイスのジュネーブへ派遣し、国連人権小委員会等の実状視察に取り組むとともに紀要『部落解放研究』等へ報告書を提出していただきましたました。

  マイノリティ研究会(代表武者小路公秀フェリス女学院大学教授)に対しても引き続き助成を行いました。なお、マイノリティ研究会は2回開催されるともに、ILOの『雇用と職業における平等』を九州大学大学院の吾郷・横田ゼミの協力を得る中で翻訳出版に取り組みました。運営委員会は、2000年6月9日に開催されています。


(17)

  大阪の部落史編纂事業については、『大阪の部落史』第八巻(史料編現代2)が、本年3月発刊されました。この巻には、1961年から1974年までの重要な史料が、「高度経済成長期の生活実態」、「変貌する仕事と労働」、「部落の在日韓国・朝鮮人」、「生きつづける差別意識」、「多様な運動の発展」、「同和行政の展開」、「同和教育から部落解放教育の実践へ」、「広まる文化の営み」といった柱立ての基に収録されています。

  近代(第4巻〜第6巻)については史料収集に取り組むとともに、編集作業が開始されています。近世については、引き続き精力的に史料収集が取り組まれています。古代・中世についても文献史料からのチェック等が取り組まれています。『大阪の部落史通信』については、No.22〜No.25が発刊されました。企画委員会は昨年5月28日に開催されています。


(18)

  国際人権大学院大学の設立にむけた取組としては、昨年9月8日、大阪府の太田房江知事、大阪市の磯村隆文市長の参加も得た「国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議」(代表川島慶雄帝塚山大学教授)が結成されました。本年3月末時点で同府民会議には、35団体、35個人が参加しています。


(19)

  2002年3月末の「地対財特法」の期限切れ後をにらんで、大阪府等と一般予算への以降にむけた協議を精力的に実施してきました。基本的には、部落差別の撤廃と人権確立にむけた研究所の持つ情報収集・提供機能、人材養成機能、調査研究提言機能を如何に位置付けていくかという視点からの協議を行っています。


(20)

  2000年度末の個人会員数は904名、法人会員数は418件です。第52回総会は、昨年6月27日に、第53回総会は、本年2月13日に開催しました。理事会は、昨年5月20日、9月2日、12月23日と3回開催しました。顧問・参与会議についても本年3月15日開催しています。