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事業報告

2002年度事業報告

  2002年度の研究所の取り組みは広範多岐にわたっているが、その概要を以下12点にわたって報告する。

(1)

  人権擁護法案が、2002年3月に閣議決定され、第154通常国会に上程された。しかしながら、その内容が、真に部落差別をはじめとする差別の撤廃や人権侵害の防止、さらには救済に役立つものとなっていないこと、さらには国内人権機関の設置に関する原則(パリ原則)を踏まえたものではないことから、各方面から抜本修正が求められた。研究所としては、マイノリティ研究会を中心に、このための研究会を開催するとともに、『緊急出版人権擁護法案・抜本修正への提案どこを、どう、変える?』の編集を行った。また、研究所の役員や会員に署名やコメントを要請し、66名の署名と11名のコメントを得た。

  さらに、国際的な連帯活動として、国連人権高等弁務官事務所特別顧問のブライアン・バーデキンさんとの懇談会で人権擁護法案の問題点を説明するとともに、タイ人権委員会のスティン・ノーパケッさんや韓国人権委員会のパク・キョンソさんを招いた講演会に積極的に参加し、研究会を開催した。この他、人権擁護法案の英語訳化に参加した。

  なお、人権擁護法案は、現在開かれている第156通常国会で継続審議となっているが、抜本修正を求めた取組を引き続き強化していく。


(2)

  2003年4月24日で、朝鮮の被差別民衆「白丁」に対する差別撤廃運動であった衡平社が創立されて80周年を迎えた。また、2003年は、研究所が創立されて35周年の年でもある。

  これらを記念して、韓国・慶尚大学の社会学部教授の金仲燮さんの著書『衡平運動』の翻訳出版に取り組んだ。訳者は高正子さん(国立総合研究大学院大学博士課程在学)で、監修は姜東湖さん(慶尚大学名誉教授)。

  また、衡平運動研究会を開催し、韓国における衡平社に関する研究動向や衡平社と水平社との関係等に関し討議を行った。さらに、2003年3月に開催した研究所第57回総会に、作家の鄭棟柱さんを招聘し「衡平社と姜相鎬先生の生涯、そして、その思想との関係」と題した記念講演会を開催した。

  この他、パネル「朝鮮の被差別民衆『白丁』・衡平運動」の日本語と韓国語版、「日本の部落差別歴史・現状・課題」、「インドのダリット(被差別カースト)歴史・現状・課題」のハングル版・英語版を作成するとともに、4月23日から28日まで「韓国人権ツアー」を募集した。なお、このツアーは、晋州での学術会議(慶尚大学統一・平和・人権センター、衡平運動記念事業会と研究所との共催)等への参加、天安での独立記念館見学、ソウルでの韓国・国家人権委員会訪問等が基本日程であった。

  今後、金仲燮著・高正子訳『衡平運動』の普及・宣伝と、パネル「朝鮮の被差別民衆『白丁』・衡平運動」の各方面の活用が求められている。


(3)

  「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」(「人権教育・啓発推進法」)に基づく「人権教育・啓発基本計画」ならびに「人権教育のための国連10年(1995年1月1日〜2004年12月31日)」に関する調査、研究、提言を部落解放・人権教育啓発プロジェクトチームを中心に行った。特に、後者に関しては、第1次10年の総括を踏まえた第2次10年が取り組まれるための討議を開始した。

  なお、「国連識字の10年(2003年〜2012年)」と「人権教育のための国連10年」に関する国連文書を翻訳し、ホームページ等で公開した。

  今後、第2次の10年が取り組まれるよう各方面への働きかけを強化していく。


(4)

  啓発企画室の自主事業としては、部落解放・人権大学講座(第73期〜76期、177名の受講、175名修了)、第15回人権啓発東京講座(52名受講、修了、聴講生300名)、第33回部落解放・人権夏期講座(8月21日〜23日、和歌山県高野山、2,050名)、第27回部落解放・人権西日本夏期講座(7月11日〜12日、鳥取県倉吉市、3,800名)、第23回人権・同和問題企業啓発講座(第1部10月3日、2,222名、第2部11月6日、1,867名、いずれも大阪厚生年金会館大ホール等)、第17回人権啓発研究集会(2月27日〜28日、三重県伊勢市他、3,556名)、社会啓発連続学習会(5月15日〜7月5日までの間で10日間、2001年度各地で制作された啓発映画・ビデオ27本を上映)に取り組んだ。

  大阪府の受託事業として、<1>人材養成プログラム等開発整備事業に取り組み「中間報告書」を作成した(15回の検討会議を開催)。<2>また、人権教育・啓発相談事業を実施した。このため、講師、教材、文化に関する情報を集めた相談ツールを作成した。なお、総相談件数は、173件である。<3>さらに、人権研修の手引き(JINKENBOOKLET)・第19集『採用における自由と公正』、竹下政行(弁護士)執筆に編集・発刊に取り組んだ。

  大阪市の受託事業として、人権啓発推進員リーダー養成講座(人権啓発推進員リーダー養成研修事業)を開催した。具体的な内容としては、1期生・2期生交流会(16名)、フォローアップ研修(21名)、応用編講座(15名)、入門編講座(40名)を開催した。

  この他、大阪府、大阪市、堺市との共同事業として視聴覚教材「『私』のない私〜同調と傍観〜」(30分)を制作するとともに、解放出版社からの受託事業として『部落解放・人権入門2003』(部落解放・人権夏期講座報告書)の編集・発刊に取り組んだ。した。


(5)

  研究部関係の自主事業としては、第2次地域教育システム構築に関する調査研究事業(2002年度〜2003年度)に取り組み、報告書として『教育コミュニティづくり〜学校発・人権のまちづくり』、『私たちの学校、私たちのまちづくり〜貝塚市立北小学校校区を舞台に』を発刊した。

  第L期近現代身分制及び身分の国際比較調査研究事業(2001年度〜2002年度)については、8年間にわたった調査研究の最終年度として7回の例会を開催し、その内容を研究所のホームページ等に紹介するとともに単行本を発刊する予定である。

  人権条例等の収集と比較研究及び提言プロジェクト(2001年度〜2002年度)については、6回の例会、8自治体への訪問調査を実施した。これらの内容についても、ニュースを発行、研究所のホームページへ掲載するとともに単行本を発刊する予定である。

  企業とコミュニティと人権・部落問題に関する研究(2002年度〜2003年度)については、5回の研究会を開催するとともに、報告書『企業倫理と人権・部落問題』を発刊した。

  食肉業・食肉労働に関するプロジェクト(2001年度〜2003年度)については、資料収集、聞き取り調査、現地視察等に取り組んだ。

  国際人権規約と国内判例研究(2001年度〜2002年度)については、6回研究会を開催し、現在報告書を作成中である。

  インターネットと差別に関する研究会(2001年度〜2002年度)については、3回研究会を開催した。

  大阪市の受託事業として、人権教育・啓発プログラム開発事業をテーマに、以下の3つの研究に取り組んだ。その一つは、差別意識の構造分析と解消のプロセス(結婚差別)に関するもので、報告書として『部落マイノリティ(出身者)に対する結婚忌避・差別に関する分析』(内田龍史執筆)を発刊した。

  二つ目として、無関心からの気づき、共感のプロセス(自尊感情と偏見)に関するもので、報告書としては『反差別に結びつく意識の形成要因』(益田圭・妻木進吾執筆)を発刊した。

  三つ目は、自己実現・社会参加への誘導要因(人権教育・啓発事業などのケーススタディ)に関するもので、7回に及ぶ研究会を開催し、報告書『自己実現・社会参加への誘導要因〜効果的な成人教育の企画・運営のためのケーススタディ』を発刊した。

  また、部落問題、人権問題に関する情報を収集し、定期的に提供した。

  紀要『部落解放研究』については、145号から150号まで、6冊編集・発行するとともに、『研究所通信』を毎月一回発刊した。

  ホームページの充実にも取り組み、月3万人の固定的なアクセスがあった。

  この他、『全国のあいつぐ差別事件2002年版』、『私たちがめざす集団づくり』、『地域史のなかの部落問題〜近代三重の場合』(黒川みどり著)、『18人の若者たちが語る部落のアイデンティティ』(松下一世著)の編集発刊に取り組んだ。


(6)

  図書資料室関係の取り組みとしては、2002年度として1,005名、2,270冊の貸出業務を行った。相談業務としては、学生、教員、研究者、行政、企業、マスコミ、各地研究所、運動団体など各方面から499件対応した。

  新刊図書・資料の収集受け入れとしては、図書1,103冊、雑誌定期受け入れ分138種類、不定期34種類、ニュースレター定期受け入れ分183種類、資料1,401冊である。

  文献データベース(新規分3,452件)、蔵書データベース(新規分8705冊)を作成し公開した。なお、蔵書データベースは大阪府立図書館の横断検索に2002年6月より参加した。

  図書資料室に寄贈して頂いた図書、資料について寄贈リストを毎月作成し『研究所通信』へ掲載した。また、新着図書情報をY1〜11,新着図書特集号をY1,2を作成し、関係方面へ配布した。

  『全国のあいつぐ差別事件2002年版』、『人権年鑑2002』の作成に向けた資料収集に協力した。

  書庫の資料の整理を実施し、ダブリ資料を各地研究所に寄贈した。

  第22回図書資料委員会を8月8日に開催し、人権情報に関わる図書・史料の取り扱いについて利用規定(特別閲覧・特別貸し出し)の改訂を行った。

  この他、対外的な連携として、人権資料・展示ネットワークに参加するとともに、日本図書館協会、専門図書館協議会に加盟した。

  なお、本年4月より、土曜日も閲覧室を開室しているが、各方面での活用を呼びかけたい。


(7)

  国際関係の取り組みとしては、国連人種差別撤廃委員会における、“descent”(「世系」/「門地」)に基づく差別についてのテーマ別討議にむけて、部落差別に関するレポートを委員会へ提出するとともに、テーマ別討議の責任者であるパトリック・ソーンベリー国連人種差別撤廃委員を大阪へ招聘し、部落視察や研究会の開催に取り組んだ。また、テーマ別討議の様子と部落差別に関する報告の内容を英文ニュースで紹介するとともに、テーマ別討議の結果採択された「世系」に関する一般的勧告の紹介を目的としたIMADR-JC講座を後援した。

  なお、「世系」に関する一般的勧告は、人種差別撤廃条約の第1条に規定された“descent”には、カースト制度やこれに類似した身分差別が対象として含まれることを明確にするとともに、差別撤廃のために締約国が採らねばならない基本方策を明らかにしたきわめて重要なものである。これは、2001年3月、日本政府の第1・2回政府報告書の審査をふまえた勧告の中で、人種差別撤廃委員会が、descentの対象に部落差別が含まれると指摘したことを、再確認したものでもある。

  こうして、近年、国連は、日本の部落差別やインドのダリットに対する差別などの「身分差別」に強い関心をしめるようになってきているが、国連・人権の促進及び保護に関する小委員会(国連・人権小委員会)においても2000年8月に、「職業と世系に基づく差別に関する決議」を採択して以降、系統的に「身分差別」に関心を払ってきており、2002年8月の人権小委員会に向けて、研究所として朝鮮半島とバングラディッシュにおける同様の差別に関する情報を提供した。

  この他、ネパールのフェミニスト・ダリット・オーガナイゼーションやルーテラン世界連盟から代表を招聘し、部落視察や研究会を開催した。

  国際交流事業としては、中華人民共和国国家事務委員会の招聘に応じて研究所代表5名が中国を訪問(5月26日〜6月2日、成都、西昌、北京)し、彜族や西南民族大学、中央民族大学や国家民族事務委員会のメンバーなどとの交流に取り組んだ。また、同委員会からの訪日(9月29日〜10月3日)に協力するとともに、研究所においても懇談会を開催した。

  英文ニュース“BurakuLiberationNews”については、Y122〜125号を発行した。一回の発送数は国内200部、国外65カ国、600部で、今日の同和地区の実態をデータとともに知らせるために、2000年大阪府実態調査の要約の連載を開始している。

  海外からの研究者の訪問、手紙やファックス、Eメールによる問い合わせに回答した。

  SOSトーチャー翻訳委員会の事務局として、「SOSニュース」をメールマガジンにて、月3回、合計36号発行した。取り上げた要請は146件で、毎号の平均アクセス数は、ホームページが240件で、メールマガジン定期購読者が305名である。

  反差別国際運動(IMADR)ならびに反差別国際運動日本委員会(IMADR-JC)の活動に積極的に参加した。とくに、反差別国際運動の第13回理事会(11月21日〜22日、東京)、第6回総会(11月23日)に村越理事長、友永所長等が参加した。また、世界人権宣言中央実行委員会ならびに世界人権宣言大阪連絡会議の活動にも積極的に参加した。さらに、アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)と連携し、7回に及ぶ国際人権部会を開催した。


(8)

  2002年度編集販売部は、従来の編集係と販売係を統合することとなった。仕事の内容としては、定期刊行物『ヒューマンライツ』、『人権年鑑2002』、単行本の編集、くわえて、販売管理、販売経理を担当することとなった。編集係職員2人、アルバイトのべ6日(週)、販売係職員1人、アルバイトのべ4日(週)の体制から、編集担当職員2人、販売担当アルバイト2人というスリムな体制でスタートした。

  編集販売部が発刊した定期刊行物としては、『ヒューマンライツ』(Y169〜180)、『人権年鑑2002』がある。この内、『ヒューマンライツ』で連載してきた『武者小路公秀回想記熱と光りを』、『ジェンダー・エッセイめざめる女つぶやく男』、竹内良『啓発担当者の想いから』については、2003年度に単行本として発刊する予定である。また、『人権年鑑2002』については、名称を従来の『部落解放・人権年鑑』から『人権年鑑』へ変更し、全体を3部構成にし、レイアウトも一新して読みやすくした。全国の自治体、図書館、学校、隣保館等での購入が望まれる。

  編集販売部で担当して単行本の新刊として発刊したものとしては、寺木伸明『部落の歴史前近代』、奥田均『データから考える結婚差別問題』、奥田均『「人権の宝島」冒険―「2000年部落問題調査」10の発見』、『緊急出版人権擁護法案・抜本修正への提案』、北口末広『人権の時代をひらく創造へのヒント』、金仲燮著、高正子訳『衡平運動―朝鮮の被差別民・白丁その歴史とたたかい』がある。

  この他、新しい試みとして、筆者と語る夕べを5回開催した。


(9)

  大阪の部落史編纂事業の取り組みとしては、『大阪の部落史』第五巻(史料編近代2)を第4回配本分として刊行するとともに、「史料編近代3」についても編集作業の具体的な流れが明らかになった。

  考古、古代、中世、近世の史料整理作業も一定進み、編集に着手できるようになった。収集史料が蓄積されてきていることをうけ、その整理、利用、保存にあたっての保管場所の確保、委員会外からの利用希望への対応などを検討する必要が生じてきている。

  なお、企画委員会、編集会議、事務局会議等を適宜開催するとともに、通信を年三回発刊した。


(10)

  国際人権大学院大学(夜間)構想の実現に向けた取組としては、プレ講座の開講に向けて7回に及ぶ事務局・プレ講座プロジェクト合同会議が開催されたが、これに積極的に参加した。国際人権大学院大学(夜間)の内容を普及するとともに、実現に向けた具体的なステップとして、プレ講座(社会学コース、法学コース)が2002年12月〜2003年3月にかけて12回開講され、17名の受講生があった。なお、9月30日に国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議2002年度総会・シンポジウムが開催され、団体会員は35件、個人会員は35名となっている。


(11)

  2002年度の原田伴彦記念基金の取組としては、国連・人権小委員会の実情研究に若手の研究者を派遣する事業として、上智大学大学院の野上典江さんを派遣した。また、マイノリティ研究会への一部研究助成を行った。

  第3回原田伴彦・部落史研究奨励金を募集したが、応募者がないという残念な事態となった。この問題については、関係者で検討を行っているが、今後、宣伝に力を入れる必要がある。なお、第17回運営委員会は、6月6日開催している。


(12)

  機関の会議としては、年2回の総会(第56回を6月28日、第57回を2月25日)、年3回の理事会(5月25日、9月8日、12月14日)、月1回の主任会議と職員会議を開催した。

  会員の状況としては、個人会員は808名にとどまった。2003年度は900名を目標に取り組んでいる。法人会員については423件(内、1件は二口会員)の参加を得ているが、日本経済の近年の厳しい動向の中で、毎年数件の退会が続いており、積極的な法人会員拡大に向けた取り組みが必要となっている。なお、2003年度は470件を目標にしているが、会員の皆様のご協力をお願いします。