第60回総会(2004/6/23)承認
J.2003年度の取り組みの概括
2003年度は、衡平社創立80周年、世界人権宣言が採択されて55周年、研究所創立35周年という節目の年にあたっていた。このため、研究所としては、これらの節目の年にふさわしい事業を中心に多面的な事業を実施した。
以下その概要を15点にまとめて報告する。
1.衡平社創立80周年を記念した取り組み
2003年4月で朝鮮において衡平社が創立されて80周年という記念すべき年を迎えた。このため、部落解放・人権研究所として以下の取り組みを実施した。
- パネル『朝鮮の被差別民衆「白丁」・衡平運動』(日本語版、韓国語版)、『日本の部落差別歴史・現状・課題』(韓国語・英語版)、『インドのダリット(被差別カースト)歴史・現状・課題』(韓国語・英語版)の作製と韓国・晋州衡平運動記念事業会への寄贈。
- 韓国人権ツアーの実施(2003年4月23-28日、39名参加)
- 慶尚大学での国際学術会議、晋州でのフィールドワーク、国立晋州博物館でのパネル展と講演会、晋州五広大保存会による創作仮面劇「白丁」公演などに参加。
- 独立記念館、韓国国家人権委員会を訪問。
- 慶尚大学で実施された国際学術会議の報告書を『グローバル時代の人権を展望する日本と韓国の対話衡平運動80周年記念国際学術会議から』として編集・発刊。
1988年から開始された、研究所と韓国における衡平運動記念事業会等との交流を一層深めることができた。今後とも交流連帯を継続し発展させていく必要がある。
なお、昨年の晋州訪問の成果として、本年4月23日から27日まで晋州五広大保存会一行を大阪の地に招聘し、大阪市住吉人権文化センターと和泉市立人権文化センターにおいて創作仮面劇「白丁」が上演されたが、研究所としてもこの企画に全面的に協力した。また、5月4日衡平運動81周年を記念して韓国・晋州で開催された人権音楽会が成功裏に開催されたが、これを後援した。
2.世界人権宣言55周年を記念した取り組み
世界人権宣言55周年を記念した取り組みとしては、「人権教育のための国連10年」(「国連10年」)をテーマとした取り組みを実施した。周知のように「国連10年」は1995年1月から開始され、2004年12月で修了することとされている。このため、これまでの取り組みを総括し、今後の方向を明らかにすることが求められていた。
そこで、研究所としては、「部落解放・人権教育啓発プロジェクトチーム」を中心に研究会を積み上げると共に、研究所独自の「国連10年」に関する行動計画を総括し、第2次行動計画をとりまとめた。また、昨年12月の世界人権宣言大阪連絡会議による世界人権宣言55周年を記念した集会とシンポジウムにも積極的に参加すると共に、単行本『これからの人権教育をどう創造するのか』を編集・発刊した。
なお、2004年4月21日、国連人権委員会において、「国連10年」終了後、2005年1月より「人権教育のための世界プログラム」として引き継いでいくとした決議が採択された。今後、この決議が国連経済社会理事会、国連総会で採択されるための取り組みと、日本でこれに連動した計画の策定等が求められている。
3.研究所35周年を記念した取り組み
昨年は、研究所が創立されて35周年という節目の年でもあった。このため、『ヒューマンライツ』の特集号として記念誌を発刊した。この記念誌には、「激動の5年間を振り返り、今後の課題を考える」とのタイトルの下に研究所の今後の方向が提起されると共に、理事並びに各部局からは「抱負」が、各方面から「期待」が寄せられた。
また、6月27日には、研究所創立記念シンポジウムとレセプションを開催した。とくに、記念シンポジウムは「国際的な視点から部落問題を考える」とのテーマで、3名のパネラーからの報告がなされたが、近年国連等においても部落問題をはじめとした身分差別に対する関心が高まっている中で、時宜にかなった企画となった。
なお、研究所の今後の方向に対応した理事・職員体制の在り方につての検討会と、若手研究者を育成するための研究会が開催されている。
4.啓発企画室を中心とした取り組み
啓発企画室を中心とした取り組みとして、以下のような多面的な事業が実施された。
- リーダー養成
- 部落解放・人権大学講座(77-80期)166名修了。修了生の総数3,740名。
近年受講生が減少傾向にあり、拡大方策を検討する必要がある。また、2004年度は、解放大学開講30周年にあたるため、記念集会等を企画する必要がある。
- 第1期ゼミナールコースの開催(部落解放・人権大学講座修了生を対象に部落史をテーマに実施)19名修了。
- 第16回人権啓発東京講座56名修了。聴講生のべ407名。
- 各種講座
- 第27回部落解放・人権西日本夏期講座(7月10-11日、熊本県合志町)参加者3,018名
- 第34回部落解放・人権夏期講座(8月20-22日、和歌山県・高野山)参加者2,085名
とくに部落解放同盟和歌山県連合会、和歌山人権研究所の協力を新たに得ることができた。
- 第24回人権・同和問題企業啓発講座
第1部10月9日大阪厚生年金会館参加者2,016名
第2部11月11日同上参加者1,901名
- 研究集会
第18回人権啓発研究集会(2004年2月5-6日、香川県高松市)参加者4,149名
とくに香川から1,500名、鳥取から420名の参加を得ることができた。
- 受託事業
- 「人材養成プログラム開発事業」(大阪府の委託事業)
地域の人権リーダー養成のためのプログラムを開発し報告書を作成した。
この報告書を広く活用する方策を検討する必要がある。
- 「啓発・学習相談事業」(大阪府の委託事業)
件数152件
まだまだ知られていないので、広報に力を入れる必要がある。
- 「大阪市人権啓発推進員リーダー養成講座」(大阪市の委託事業)
第4期45名、第5期33名等を実施。
- 人権ブックレット人権研修の手引き・第20集『企業と部落問題』(小森哲郎著)の編集・発行(大阪府の委託)
- 『部落解放・人権入門2004』(部落解放・人権夏期講座の報告書)の編集・発行(解放出版社の委託)
- 共同事業(大阪府、大阪市、堺市、研究所の4者の共同事業)
視聴覚教材の制作
タイトル「そっとしておいた方が・・・寝た子を起こすなという考え方」(36分)
5.研究部を中心とした取り組み
研究部を中心とした取り組みも、以下のように多面的な事業を実施した。
- 受託事業
- 「人権教育・啓発プログラム開発事業」(大阪市委託)として、結婚差別問題研究会(2002-2003年度)を開催し、報告書の作成に取り組んでいる。
- 「人権関係情報の収集・提供事業」(大阪市委託)として、月一回、部落問題を中心とした人権問題関係情報を収集し、大阪市へ提供した。
- 三重県名張市部落実態調査の実施と報告書の作成(名張市委託)
- 研究所の独自プロジェクトによる研究
- 維新の変革と部落(2003-2005年度)1-10回研究会開催
- 長吏文書研究会(2002-2006年度)5-8回研究会開催
- 都市下層と部落問題研究会K(2002-2005年度)4回研究会開催
- 人権のまちづくりプロジェクト(2003-2004年度)1-5回研究会実施
なお、このプロジェクトは、自治労、部落解放同盟中央本部から支援をもらっているプロジェクトで、毎回ニュースを発行している。
- 企業とコミュニティと人権・部落問題4回研究会開催
紀要158号(企業特集)で掲載。
- 国際人権規約と国内判例調査研究事業7回(法律部会として開催)
報告書を近く単行本として発刊予定
- 教育コミュニティ研究会
大阪(茨木市三島小学校区、松原市布忍小学校区)、福岡(田川市金川小学校区)において、学校発・人権のまちづくりの具体的な取り組み調査
今後、大阪府大東市北条中学校においても調査を実施し、報告書の作成に取り組む。
- 若年就労者問題(2003-2004年度)
失業・フリーター状況にある青年40人への聞き取りを実施
2004年度で報告書の作成に取り組む。
- 食肉業・食肉労働に関するプロジェクト(2002-2003年度)
近く報告書を作成予定
- 「人物で見る戦後部落解放運動史」研究会(2003-2004年度)
2回聞き取りを実施
- 部会活動の開催
企業部会、啓発部会、マスコミ部会、反差別部会、国際人権部会、法律部会、識字部会、成人教育部会、歴史部会等は活発に開催されているが、他の部会はほとんど開かれていない。これは、研究所の研究活動がプロジェクトを中心に実施されていることにもよるが、今後、部会の再編も含め部会活動を強化していく必要がある。
- ホームページの充実(大阪市の補助)
利用状況を拡大するため、「入門コーナー」の新設、トップページの改訂等に取り組んだ。この結果、固定的なアクセスが月55,000人(2002年33,000人)、一日平均1,816人(2002年1,100人)と拡大した。
- 紀要『部落解放研究』と『研究所通信』の編集・発刊
- 紀要『部落解放研究』(151-156号)の編集・発刊
- 『研究所通信』(296-307号)の編集・発刊
6.図書資料室関係の取り組み(大阪府補助)
図書資料室としては、閲覧・貸し出しを中心に以下のような事業を実施した。
- 閲覧・貸し出しの実施
年間3,503人の来館、1,166人に対して2,660冊の貸し出しがあった。(2002年度は、3,224人の来館、1,005人に対して2,270冊の貸出)
更なる利用を呼びかけるための広報活動が必要である。
- 相談業務
年間234件の相談があった。(2002年度は499件)
この面でも、更なる利用を呼びかけるための広報活動が必要である。
- 図書資料等の受け入れ
- 図書1,230冊
- 雑誌定期108種類、不定期103種類
- 資料1,959冊
- 蔵書図書の遡及入力作業
5,606冊実施
蔵書データーベース総数63,814冊
年間189,874件のアクセス(月平均15,823件のアクセス)
- 書庫の整理
- 雑誌、資料類の重複を整理
- 貴重な書類の劣化対策を実施
- 重点を定めた資料展示を実施
11月10日-12月6日まで、大阪府内市町村発行の人権啓発冊子のコーナーを作り展示を実施した。
7.国際関係の取り組み
2003年度は、通常の事業の他に、衡平運動80周年、「人権教育のための国連10年」等にちなんだ取り組みをはじめ以下に概括するような活発な国際関係の取り組みを実施した。
- 衡平運動80周年にちなんだ取り組みを実施した。(上記1で報告済み)
- 「人権教育のための国連10年」にちなんだ取り組みを実施した。(上記2で報告済み)国際関係としては、とくに、国連の基本文書の入手と翻訳、国際会議への代表派遣、海外ゲストの受け入れ、アジア・太平洋地域の国内人権機関への要請等に取り組んだ。
- 国連の人権活動との連携に取り組んだ。
- 国連人権小委員会の「職業と世系に基づく差別を撤廃するための原則と指針」の策定に向けて、部落解放同盟中央本部とのしての提言のとりまとめに協力。
- 子どもの権利条約に関する日本政府の第2回報告書に対する民間団体としてのレポート作成に関して、部落の子どもの現状から見た問題点を報告。この結果、本年1月30日日本政府報告書の審査を踏まえて子どもの権利委員会が採択した最終所見に部落の子どもの人権に関する勧告が盛りこまれた。
- BurakuLiberationNewsの発刊(126-129号)
国内200、国外65ヵ国600部送付
発行が遅れがちな点を改めると共に、インターネットを活用した配布方法を検討する必要がある。
- 海外の団体との交流
- 中華人民共和国
国家民族事務委員会の代表受け入れに協力・交流(11月10日-17日)
中南民族大学訪日団の受け入れに協力・交流(11月25日-12月6日)
- インド
インド・ダリット研究所との連携
- インターンの受け入れ
台湾人権促進会のスタッフをインターンとして受け入れ(2003年12月-2004年1月の2ヶ月間)。
- 海外の研究者、メディア関係者の研究所訪問、メール等による問い合わせに対応
近年、海外からの部落問題に関する問い合わせが増加してきている。部落問題に関するきっちりとした英文の出版物が必要になってきている。
- SOSトーチャー翻訳委員会の事務局を担当
「SOSニュース]をメールマガジンで、月3回、計36号発刊
- 反差別国際運動(IMADR)、反差別国際運動日本委員会(IMADR-JC)、世界人権宣言中央実行委員会、世界人権宣言大阪連絡会議の活動に積極的に参加。
8.編集・販売部の取り組み
2003年度は、編集・販売部が一体化されて2年度目であった。定期刊行物、単行本等の発刊は順調であったが、販売額は昨年より下回った。
- 定期的発行物
- 『ヒューマンライツ』(181-192号)
- 『部落解放研究』(151-156号)<研究部編集>
- 『人権年鑑2003』
これは、法務省・文部科学省編『人権教育・啓発白書』に対する民間の立場から見たカウンターレポートとしての性格をもたせている。
- 『全国のあいつぐ差別事件2003年度版』<研究部編集>
- 『大阪の部落史第6巻史料編近代3』<大阪の部落史編纂委員会編集>
- 単行本
- 金仲變著・高正子訳『衡平運動-朝鮮の被差別民・白丁(ペクチョン)その歴史とたたかい』
- 小林丈広編『都市下層の社会史』
- 武者小路公秀著『人の世の冷たさ、そして熱と光-行動する国際政治学者の軌跡』これは、『ヒューマンライツ』に連載したものを基に単行本として出版
- ジェンダー・学び・プロジェクト編『めざめる女つぶやく男-富田林・発:ジェンダーエッセイ集』
- 竹内良著『人権の扉を開く-啓発担当者の想いから』これも、『ヒューマンライツ』に連載したものを基に単行本として出版
- 部落解放・人権研究所編『地域に根ざす人権条例人をつなげるまちづくり』
- 中尾健次、黒川みどり著『人物でつづる被差別民の歴史』
- 秋定嘉和著『部落の歴史近代』
- 金仲變・友永健三編著、高正子・安聖民・李嘉永訳『グローバル時代の人権を展望する-日本と韓国の対話衡平運動80周年記念国際学術会議から』
- 鍋島祥郎著『効果のある学校-学力不平等を乗り越える教育』<研究部編集>
- 部落解放・人権研究所編『これからの人権教育をどう創造するのか』<世界人権宣言大阪連絡会議編集>
- 筆者と語る夕べ、発刊をよろこぶ会等を開催
- 顧客データベースを一本化等の取り組んだ。この結果、販売状況・在庫の管理など本来の販売管理・販売経理業務環境が整備されてきた。
- 発刊点数は、昨年度並みであったが販売額は減少している。今後、発刊時期を早める、読者のニーズに応じた出版物を企画する、出版物の宣伝に力を入れるなどの工夫が必要である。
9.大阪の部落史編纂事業の取り組み
大阪の部落史編纂事業も、『史料編近代3』が発刊されたことにより、明治以降の5巻が出たことになる。残り5巻をこれから発刊していくこととなるが、当初の10年計画を4年間延長する必要がある。
- 『大阪の部落史第6巻史料編近代3』の編集・発行
- 考古、古代、中世、近世の史料整理作業が一定進展し、編集に着手できるようになった。
- 全10巻のうち、明治以降の5巻が出そろったので、学校教育や社会教育などの教材として活用していくための取り組みが求められている。
- 残された5巻を編集・発刊していくためには、当初の10ヵ年計画(1995-2004年度)を4年間延長する必要がある。このため、大阪府、大阪市等関係方面と協議をする必要がある。
10.国際人権大学院大学(夜間)構想の具体化にむけた取り組み
国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議の活動、事務局会議に参加した。また、2003年度プレ講座の企画・運営に協力し、職員も積極的に受講した。
11.マイノリティ研究会の開催
マイノリティ研究会は、1989年6月に第1回研究会を開催して以降、毎年2-3回例会を重ねてきている。2003年度は、「人権擁護法案」や「人間の安全保障」を中心に2回(60、61回研究会)の例会を開催した。
12.原田伴彦記念基金の取り組み
原田伴彦記念基金は、2003年度で18年度目を迎えたが以下の3事業を実施した。
- 第4回原田伴彦・部落史研究奨励金
6件の応募があり、以下の3名に支給
廣畑研二(東京)「水平社と部落民の海外移住」
山下隆章(香川)「香川県水平社創立八〇周年を迎えて」
駒井忠之(奈良)「1920年代、30年代の草履表の取引状況について」
- マイノリティ研究会への一部助成
- 国連人権小委員会等の実情研究に若手研究者を派遣
友永雄吾さん(桃山学院大学文学研究科博士前期課程)を派遣。
13.その他特徴のある取り組み
- この他、人権擁護法案が2003年10月衆議院の解散に伴い自然廃案となった。しかしながら部落差別をはじめとする差別を撤廃し、人権侵害を救済するための法律の早期制定が求められるため、部落解放・人権政策確立要求中央実行委員会の依頼を受けて『「人権侵害救済法」(仮称)法案要綱・試案』の取りまとめに協力した。
- 2003年の夏から秋にかけて識字部会では、狭山事件再審弁護団の要請を受け、2000年に大阪府内の被差別部落の識字学級の協力を得て部会として取り組んだ狭山事件脅迫状の書き取り調査とその分析をもとに、弁護団と共同で「筆記能力に関する意見書」(2003年9月27日)をまとめ、特別抗告申立補充書(2003年9月30日)の提出に協力した。
14.機関活動と会員の状況について
2003年度の機関活動を振り返ったとき、理事会、総会等は適宜開催された。会員については、個人会員が減少したが団体会員は増加した。
- 理事会・・・5回開催(内、臨時理事会2回)
- 総会・・・2回開催(58回、59回総会)
- 主任会議、職員会議・・・それぞれ月1回開催
- 正(個人)会員・・・762名(2002年度808名)
個人会員減少の原因としては、会員の高齢化、研究部会活動の停滞等が影響していると思われる。解放大学の修了生、プロジェクトへの参加者等へ働きかけを強化するとともに、部会活動の活性化に取り組む必要がある。
- 特別(団体)会員・・・449件(2002年度423件)
昨今の経済状況の中で、毎年10数件の退会がある。他方で、研究所の財源を多角化し安定を確保する必要があるので、470件を目標に団体会員の拡大を目的意識的に取り組む必要がある。
15.職員の研修支援と親睦について
研究所職員の研修支援と親睦に取り組んだ。
- 研究所職員の研修支援に取り組んだ。
具体的には、韓国人権ツアーへの参加や国際人権大学院大学(夜間)のプレ講座受講等を支援した。
- 研究所職員の親睦に取り組んだ
2004年1月24-25日一泊親睦旅行を実施(北陸方面)
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