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2005.07.11
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事業報告
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第62回総会(2005/6/28)承認 |
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2004年度の取り組みの概括 |
2004年度研究所事業の概括を、以下15点にわたって報告する。 1.「人権侵害救済法」(仮称)の制定に向けた取り組み 部落差別をはじめとする差別の撤廃と人権侵害の救済のためには「人権侵害救済法」(仮称)の早期制定が必要である。とりわけ2005年1月から開催されている第162通常国会での制定が求められているため、研究所としても以下に列挙するような取り組みを行った。
政府が提案を予定している「人権擁護法案」に対して新保守主義勢力からの批判がでてきている現状を踏まえ、今後、マイノリティ研究会等での検討会の開催など「人権侵害救済法」(仮称)の早期制定の必要性に関する研究・宣伝に力を入れていく必要がある。 2.「人権教育のための国連10年」の総括と「人権教育のための世界プログラム」の創造に向けた取組み 「人権教育のための国連10年」は、2004年末で終了した。これまでの取り組みによって、一定の成果を上げてきたものの、国内外の人権状況は、依然として深刻なものがある。このため、国連総会は、昨年12月10日「人権教育のための世界プログラム」として引き継いでいくことを決議、その第一段階を2005年から2007年までの3カ年とし、「初等・中等学校制度における人権教育の推進」に重点を置くことを決定した。部落解放・人権研究所としても、これらの取り組みに積極的に参加したが、その主な取り組みを以下に列挙する。
引き続き部落解放・人権教育啓発プロジェクト等で「世界プログラム」を紹介し、具体化に向けた提言を行っていく必要がある。 3.「職業と世系に基づく差別」の撤廃に向けて 2000年8月以降、国連は、日本の部落差別やインドのダリットに対する差別等を「職業と世系に基づく差別」として捉え、その差別撤廃に向けた取り組みを開始した。とりわけ2004年8月の人権促進保護小委員会(人権小委員会)は、「職業と世系に基づく差別」に関する特別報告者を設置し、3年後に差別撤廃のための原則と指針を報告することを求めた決議を採択した。この決議は、2005年4月の国連人権委員会で承認され、いよいよ本格的な調査と提言に向けた取り組みが開始されることとなってきた。このため、研究所としても以下のような取り組みを実施した。
2005年度から「職業と世系に基づく差別」に関するプロジェクトを新たに立ち上げ、国連人権小委員会の特別報告者との連携を強化し、積極的な情報提供等をしていく必要がある。 4.啓発企画室を中心とした取り組み 啓発企画室は、加藤敏明室長から白井俊一室長へと人事異動があった。また、部落解放・西日本夏期講座、人権啓発研究集会が、地元自治体の助成金がないという厳しい条件下での開催となった。しかしながら、関係者の全面的なご支援のもとに基本的には成功裏にそれぞれの事業を実施することができた。なお、人権・同和問題企業啓発講座は、企画の遅れ等から参加者が大幅に減少した点は、今後の克服課題である。 大阪府からの受託事業である「人権教育・啓発相談事業」は、様々な工夫をこらした結果、昨年より相談件数が大幅に増加した。この他、大阪府、大阪市、堺市と研究所との共同制作事業である視聴覚教材の作成については、「今でも、部落差別はあるのですか? 〜 マイナスイメージの刷り込み」をテーマにビデオを作成した。以下、啓発企画室の主な取り組みを報告する。
5.研究部を中心とした取り組み 研究部を中心とした取り組みとして、大阪市、三重県名張市からの受託事業に取り組んだ。とくに名張市については、市民と職員の意識調査、外国籍住民の生活実態と意識調査を実施し報告書を作成した。また、大阪市の補助事業であるホームページについては、内容の充実を図り、着実にビジター数が増加してきている。研究所独自の研究会についても、活発に研究会を開催した。とりわけ、「企業の社会的責任と人権・部落問題」に関する研究会では、アンケートを実施し、その結果を紀要等で報告した。 「若年不安定就労者問題」に関する研究会では、研究会の成果を、単行本『排除される若者たち〜フリーターと不平等の再生産』として編集・発行した。また、部会活動についても、女性部会、宗教部会、産業部会等の部会活動を再開するなど活性化に努めてきている。なお、奥田均理事を責任者に研究企画委員会を設置し、紀要やヒューマンライツの内容充実に向けた検討を行っている。以下、研究部の主な事業を報告する。
6.図書資料室(大阪府補助事業) 図書資料室の事業は、大阪府の補助事業であるが、貸し出しや相談活動の充実を図り、いずれも件数が増加した。新刊図書、雑誌、資料の受け入れも系統的に行っている。この内、新刊図書の受け入れが昨年と比べて減少したため、2005年度はその克服に取り組む。 文献データベース、蔵書データベースの追加入力も着実に増加してきている。書庫の整理については、松本治一郎記念会館関係の資料整理を中心に取り組んだ。この他、2004年度から『人権年鑑2004』の編集を担当した。以下、図書資料室の主な事業を報告する。
一年間の新規図書の受け入れ冊数の目標は500冊を目標としているので、その目標は達成できたが、昨年より大幅に図書の受け入れが減少した。この点を反省し、『人権年鑑』の執筆者に新刊図書で図書室に備える必要のあるものを紹介して頂いたり、毎月の部屋会議で議論するなど工夫をしていく。雑誌については、定期的に発行されているものの受け入れ冊数は昨年と同様である。 ニュースレター/227種類(前年度比13種類増) ・資料 1,651冊(前年度比308冊減) 資料の受け入れ冊数が、昨年と比較して減少しているが、昨年度は、2000年に大阪で実施された実態調査の区市町村ごとの報告書が51冊、人権教育のための国連10年にちなんだ自治体の行動計画が84冊、桃山学院大学総合研究所の紀要・同所報が75冊等特別に収集された資料が多かったことによる。 ・書庫の整理 特に松本治一郎記念会館に保管されていた、松本治一郎、松本英一(敬称略)関係の資料の目録作成と資料整理
7.国際関係 2004年度研究所国際交流の特徴としては、韓国、中国、フィリピンなどアジア地域の人々との国際交流が活発であった点である。最近、国のレベルでは、韓国や中国との関係が悪化してきているなかで、人権を基礎にした国の枠を超えた交流は極めて重要である。 今後とも充実していく必要がある。また、昨年12月、スマトラ沖地震・津波が生起し甚大な被害をもたらしたが、反差別国際運動(IMADR)等と連携し、スリランカやインドの被災者支援活動に取り組み、多くの会員から支援カンパが寄せられている。引き続き支援活動を継続していく。なお、部落問題、部落解放運動への国際的な関心の高まりに応えるため、英文ニュースやホームページの英語部分の充実を図るための検討を開始している。以下、国際関係の主な取り組みを列挙する。
8.編集・販売部門を中心とした取り組み 編集・販売部門を中心とした取り組みとして、まず『ヒューマンライツ』をはじめとする定期刊行物は、定期的に発行することができた。単行本については、10点発刊した。そのうち、研究活動の積み上げの成果として発刊できたものとしては『アジアの身分制と差別』、『国際人権規約と国内判例』、『排除された若者たち 〜 フリーターと不平等の再生産』がある。 また、タイムリーな企画としては『写真で見る戦後60年 〜 部落解放運動の歩み』(パネルも作製)、『人権文化をみんなの手に 〜 「人権教育のための世界プログラム」スタート』、『必携 あなたもできる 企業の人権研修ハンドブック』がある。さらに、広く人権・平和の課題を取り上げたものとしては『非暴力タンポポ作戦 〜 ひきわけよう あきらめない つながろう』、『金香百合のジェンダーワークショップ』がある。 この他、視聴覚教材は、この間「私」シリーズを作成し各方面で教材として活用されているが、2004年度も「今でも部落差別はあるのですか? 〜 マイナスイメージの刷り込み」を作成した。なお、販売状況としては、近年自治体関係を中心に書籍等の購入冊数が減少傾向にある。今後、定期刊行物や単行本等の内容充実、宣伝の強化、販路拡大等に力を入れていく必要がある。このため、編集企画委員会の設置を予定している。以下、編集・販売部を中心とした主な取り組みを報告する。
9.大阪の部落史編纂事業 2005年度からスタートした大阪の部落史編纂事業は、2004年度で当初目標であった10年目を迎えることとなった。この間、明治以降5巻に及ぶ史料集を発刊することができたが、残りの5巻を編集・発刊するためには4カ年の延長が必要となったため、大阪府、大阪市等に要請を行った結果、承認された。 2004年度の取り組みとしては『大阪の部落史 第一巻 史料編 考古、古代・中世、近世1』が編集・発刊された。この内容は、従来の部落史編纂では取り上げられてこなかった考古からの視点が盛り込まれたこと、さらには近世初頭の皿池村に関わった地図が収録されたこと等によって各方面から注目されることとなった。以下、大阪の部落史編纂事業の主な取り組みを列挙する。
10.国際人権大学院大学(夜間)構想の具体化に向けて 国際人権大学院大学(夜間)構想の具体化に向け、以下に列挙するように拡大事務局会議や総会、さらにはプレ講座に積極的に参加した。
11.マイノリティ研究会 マイノリティ研究会については、「人権侵害救済法」(仮称)や人間の安全保障、マイノリティの文化的権利や日本国憲法の「改正」などをテーマに3回開催した。 ・研究会を3回開催した。 人権侵害救済法、人間の安全保障、人身売買、マイノリティの文化的権利、日本国憲法の改正等、時々の重要テーマを取り上げた。 ・引き続き、時々の重要なテーマを取り上げていく。 12.原田伴彦記念基金 原田伴彦記念基金は、2004年度で19年度目を迎えたが、各方面の協力を得て本年度も以下に列挙する3事業を実施した。
13.個人情報保護法施行に向けた諸規程の整備 2004年4月より個人情報保護法が施行されることに伴い、研究所としても所内にワーキングチームを設置し諸規程等の整備に取り組んだ。その結果、以下の諸規程等を整備した。
今後、これら諸規程等の周知徹底と安全管理に向けた条件整備等に取り組んでいく必要がある。 14.その他の取り組み 日本国憲法を務ぐる論議が高まってきているため、部落解放・人権確立の観点からこの動向を分析し、一定の見解をまとめるため「憲法問題プロジェクト」を立ち上げ研究会を積み上げてきている。 また、本年3月16日、最高裁第1小法廷は、狭山第2次再審特別抗告審につき上告棄却の決定をした。公正な裁判の前提である、証拠開示や事実調べも行わない恣意的な判決に各方面から強い抗議の声が上がったが、研究所としても3月18日抗議文を最高裁に送付した。今後、法律・狭山部会等で棄却決定の批判、第3次再審にむけた討議を重ねていく必要がある。 15.組織の現状と機関活動 研究所の組織の現状としては、正(個人)会員が776名(2003年度762名)、特別(団体)会員446口(2003年度449口)である。正会員、特別会員とも、更なる拡大に向けて取り組む必要がある。また、機関の会議である総会、理事会等は、定期的に開催してきているが、とくに総会への個人会員の参加が少ないため工夫が必要である。 所内の主任会議、職員会議についても定期的に開催されてきているが内容を充実していく必要がある。なお、かねてより懸案であった新たな理事体制の構築に向けて、8回に及ぶ「研究所理事体制のあり方検討会」が開催され、一定の結論を見た。本理事会、ならびに6月の総会での承認をお願いしたい。
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