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事業計画

2003年度事業計画

Jはじめに

(1)

 「21世紀は人権の世紀である」と言われている。しかしながらこのことは、21世紀になれば人権が自然に守られるようになるということではない。すべての人々が力を合わせて人権を守っていかなければ、21世紀に人類が滅びかねないという意味で言われているのである。世界的には、一昨年の「9・11同時多発テロ」、国内的には4年連続で自殺者が3万人を超しているという深刻な事態が、このことを象徴的に物語っている。

 折しも本年は、世界人権宣言が国連で採択されて55周年という記念すべき年にあたっている。この年に、「差別を撤廃し人権を確立することが恒久平和を実現する道である」という世界人権宣言の基本精神に立ち返り、部落の完全解放とあらゆる差別の撤廃、人権実現社会の構築をめざした取り組みを強化していくことが求められている。


(2)

 世界の人権状況を見たとき、積極面としては、以下の2点を上げることができる。

 一つは、2001年8月末から9月初旬にかけて、南アフリカのダーバンで、国連主催の「反人種主義・差別撤廃世界会議」が開催され、政府間会議とNGO会議の双方で「宣言」・「行動計画」が採択されたことである。この会議には、全世界から1万人を超す政府代表・NGO関係者が参加したが、日本からも政府代表だけでなく部落解放同盟や部落解放・人権研究所を始め関係NGOの代表が参加した。

 政府間会議とNGO会議の双方で採択された「ダーバン宣言・行動計画」は、21世紀の世界を差別が撤廃され平和な世界とするための戦略を明らかにした重要なもので、今後各国内での普及・宣伝と国内行動計画の策定等具体化が求められている。(政府間会議とNGO会議の双方で採択された「ダーバン宣言・行動計画」は、『反人種主義・差別撤廃世界会議と日本』〔『部落解放』2002年502号増刊号〕に翻訳して収められている。)

 二つ目として、国際刑事裁判所(ICC)設立規程が2002年7月1日に発効したという点である。ICCが裁くのは、<1>特定の民族や宗教集団などの壊滅を狙った集団殺害(ジェノサイド)、<2>一般住民の虐殺やレイプなどの「人道に対する罪」、<3>捕虜の取り扱いなどを定めた戦争法規違反(戦争犯罪)等を犯した個人である。

 ICCは、上記の犯罪を裁く義務を負う国家が、裁く能力や意志を持たない場合に補完的に裁判を行うこととなっている。裁判権を行使できる「管轄権」は、2002年7月1日以降に起こった事件に限られるが、時効はない。原則として、被告が締約国の国籍を持つか、締約国内で起こった犯罪でなければならない。ただし、国連安保理が付託した事案については、全国連加盟国に対して管轄権を持っている。

 ICCの目的については、条約の前文に「20世紀に数百万人が想像を絶する残虐な行為の犠牲になった」ことを教訓に「犯罪の実行者を不処罰のままにしておく状態を終わらせ、犯罪の予防に寄与する」と謳われている。

 2003年1月時点で、139カ国が署名、88カ国が批准を済ませているが、日本は、署名も批准もしていないという問題がある。


(3)

 人権をめぐる世界情勢の否定面としては、つぎの2点がある。

 一つは、2001年勃発した「9・11同時多発テロ」と、その後の一連の事態である。一瞬にして3000名にも及ぶ人びとの命が奪われた「テロ」行為は、いかなる理由があったとしても許されるものではない。「テロ」に関わった人びとは、国内法や国際法に基づき厳正に処罰される必要がある。

 しかしながら、「テロ」に対する報復を口実に、アメリカを中心とした勢力がアフガニスタンに対する報復戦争を繰り広げ、民衆に少なからぬ被害を与えていることや、アラブ系の人びとに対する人権侵害がアメリカ国内をはじめ世界各地で多発してきていることも容認することはできない。さらに、イラクやイランを「ならず者国家」と一方的に決めつけ、武力攻撃も辞さないブッシュ政権の姿勢は、世界を泥沼的な戦争に引きづり込みかねない危険なものである。

 大切なことは、「テロ」を生み出す温床である、貧困や長期間継続されている不正義(この典型的な事例が、国連決議を無視して占領を続けているイスラエルによって引き起こされているパレスチナ問題である)を克服していくことである。

 二つ目の問題点は、ヨーロッパを中心とした極右勢力の台頭である。2002年4月フランスで実施された大統領選挙で、公然と外国人排斥を叫ぶ国民戦線(フロン・ナショナル)のル・ペン党首が第2位の得票を獲得し、フランスはもとより世界を震撼させたことは記憶に新しいところである。このような事態はフランスだけではない。ヨーロッパ各国において極右勢力の台頭が見られ、いくつかの国では与党の一角を占めるまでになっている。


(4)

  つぎに、人権をめぐる日本の国内情勢の積極面を4点あげておく。

 第1点は、永年求め続けられてきた人種差別撤廃条約に日本が加入したということである。(1995年12月加入、96年1月発効)この条約は、ネオ・ナチ勢力の台頭を芽の内に封じ込め、人種差別を撤廃するために1965年に国連で採択された重要な条約である。この条約で定義された「人種」の範囲は広範で、狭義の人種差別や民族差別はむろんのこと日本の部落差別のような「身分差別」をも対象としたものである。

 日本政府は、この条約の対象は、あくまでも人種や民族の違いを理由とした差別で部落差別のような社会的地位までは含まれないとの見解を持っているが、この条約に基づき設置された人種差別撤廃委員会は、2002年8月、この条約第1条で規定されたdescent<門地・世系>に関する一般的勧告を採択し、カースト制度やこれに類似する世襲的な社会的地位に基づく差別も、この条約の対象であることを明確にした。(2001年3月に行った日本政府報告書の審査でも、人種差別撤廃委員会は、同様の見解を示している。)

 この条約では、差別を撤廃するために、<1>差別を法律で禁止すること、<2>差別の被害者を効果的に救済すること、<3>差別されている人びとが置かれている劣悪な実態を特別措置で改善すること(ただし、目的が達成されれば特別措置は廃止する)、<4>差別的偏見を教育・啓発によって撤廃すること、<5>隔離や同化を排し連帯・共生を構築すること、の5つの方策を採ることを締約国に求めている。

 この5つの方策は、部落差別や民族差別などを撤廃していくための基本方策を明らかにしたもので、極めて重要な意味を持っている。1985年5月に取りまとめられた部落解放基本法案も、この基本方策をふまえたものである。今後、人種差別撤廃条約ならびに委員会のdescentに関する一般的勧告等の普及・宣伝と国内法整備が求められている。

 第2点は、2000年12月に、人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(「人権教育・啓発推進法」)が公布・施行されたことである。この法律は、15年に及ぶ部落解放基本法の制定を求めた運動が獲得したもので、部落差別を始めあらゆる差別を撤廃し人権が確立された社会を構築するために、あらゆる場所で人権教育・啓発を推進していくことを求めたものである。

 このため、この法律は、国、自治体、国民の責務を定め、とくに国に対しては、基本計画の策定と年次報告の策定を義務づけている。今後、この法律を活用し、各自治体においても、自治体の特色をふまえ基本計画を策定し年次報告を出すことが求められている。

 第3点は、2000年4月から「地方分権一括法」が施行されていることである。明治維新以降、この法律が施行されるまでのこの国の構造は、中央集権的・上意下達型の社会であった。国に多くの権限と財源が集中し、国が決めたことが都道府県におろされ、都道府県が決めたことが市町村におろされ、市町村が決めたことが市民におろされるという形を採ってきた。

 けれども2000年4月以降、法律的には、国と自治体は対等の関係となり、国が持っていたいくつかの権限は、自治体に委譲されることとなった。なお、税や財政面での地方分権と、人権の社会作りを基本に据えた市町村合併が今後の課題となっている。

 「地方分権一括法」が施行され、様々な権限が自治体に委譲された結果、部落差別の撤廃をはじめとする人権確立の課題も含め、自治体の果たす役割は大きくなってきている。その点では、2003年1月現在、部落差別撤廃・人権条例や人権の社会づくり条例が753制定され、宣言が955採択されていることは、大きな意義がある。今後、条例の拡大と計画の策定、人権のまちづくりの推進など具体化が求められている。

 第4点としては、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護に関する法律(児童買春、児童ポルノ禁止法)が1999年に、高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)、児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)、ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)が2000年に、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV法)が2001年に、ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(ホームレス自立支援法)が2002年に、それぞれ施行されてきていることである。

 これらは、遅々とした歩みであるが、日本においても悪質な差別を明確に法律で規制するとともに、差別撤廃のための具体的な施策の実施が義務づけられるようになってきている。


(5)

 つぎに日本国内の人権状況の否定面を2点指摘しておく。

 まず第1点は、長期に及ぶ経済停滞とそれにともなう企業倒産、リストラの強行の結果、4年連続して自殺者が3万人を超し、失業者も5.4パーセント(近畿地方7.6パーセント)に達し、野宿生活者も3万人を突破しているという事実である。

 第2点としては、政治の右傾化、国権主義の台頭、差別の強化が見られることである。この点の典型的な事例が、2000年4月、石原慎太郎・東京都知事が、陸上自衛隊練馬駐屯地での創隊記念式典で「今日の東京を見ますと、不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪をですね、くり返している。もはや東京における犯罪の形は過去と違ってきた。」「こういう状況を見ましても、もし大きな災害が起こったときには大きな大きな騒擾事件すらですね想定される。そういう状況であります。こういうものに対処するためには、なかなか警察の力を持っても限りがある。」「ならばですね、そういうときに皆さんに出動願って、都民のですね災害の救援だけでなしに、やはり治安の維持も、一つ皆さんの大きな目的として遂行して頂きたいということを期待しております。」などと、在日外国人、とりわけ在日韓国・朝鮮人や在日中国人を敵視した差別演説をしたことである。

 昨年9月以降、朝鮮民主主義人民共和国の政府関係者による日本人拉致問題が明るみになってきた。このような行為は許し難い行為であり、当然のことととして、真相究明並びに実行者の処罰と謝罪等を求めていく必要がある。しかしながら、「拉致問題」を口実に、日本で暮らす在日韓国・朝鮮人に対する様々な嫌がらせ行為が多発していること、さらには、1910年以降日本が朝鮮を植民地支配し、強制連行や「従軍慰安婦」問題等を引き起こしたことを不問に付す傾向が強まっていることを許してはならない。

 なお、政治の右傾化、国権主義の台頭、差別の強化は、憲法改正や教育基本法改正、有事法制論議はもとより人権教育・啓発推進法に基づく「人権教育・啓発基本計画」や人権擁護法案にも影響を及ぼしている。たとえば、「人権教育・啓発基本計画」では、いたずらに「中立性」が強調され、人権教育・啓発を国家統制の下に置こうとする傾向がみられるし、人権擁護法案にはメディア規制の条文が盛りこまれている。


(6)

 つぎに21世紀の特徴とこれを踏まえた日本の課題を指摘しておく。

 21世紀の特徴は、国家の役割が相対的に低下するという点である。20世紀は、何事につけても国家の役割が中心的な位置を占めていた。これに対して21世紀には、国家の役割はなくなることはないが、その役割が相対的に低下し、国際的には国連をはじめとした国際機関、EU(ヨーロッパ連合)に代表される地域機関の役割が増大する。また、国内的には、自治体や企業、NGOやNPO、さらには自覚した個人の果たす役割が大きくなる。

 上記に指摘したことは、日本においても、同様に当てはまるが、日本の場合、アジア、とりわけ北東アジアとの関係構築が重要であり、自治体やNGO・NPOの果たす役割が大きくなる。この内、北東アジアとの関係について言えば、この地域は、歴史的にも地理的にも日本と最も近い地域である。

 しかしながら、明治維新以降第2次世界大戦で敗戦するまでの過程で日本が植民地支配をし、侵略戦争で多大な被害を与えた地域でもあある。21世紀の日本の平和と人権の確立を考えたとき、この地域での信頼醸成と平和構築は不可欠である。

 また、日本では、近年、家庭や企業が持っていた社会保障的な機能が低下してきている。たとえば、家庭を見たとき、従来の3世代同居世帯が大幅に減少し、核家族が増加しているし、離婚も次第に増えてきている。また、企業を見ても、終身雇用制は次第に崩れてきていて、大企業といえども一生そこで働き続けられる保証はなくなってきている。

 セイフティネットの代替え機能を持っていた家庭や企業の社会保障機能が低下してきた結果、自殺者、失業者、野宿生活者の増加を生み出しており、児童虐待の深刻化をもたらしている。今後、公的な社会保障の整備とともに地域においてNGOやNPOによって諸困難を抱えている人びとを支えていく必要がある。


(7)

 ここで、部落差別解消に向けた当面の基本課題についてふれておく。

 2002年3月末で、33年間続いてきた「特別措置法」時代が終了した。しかしながら、このことは部落差別が解消したことを意味するものではない。「特別措置」という手法を使った同和行政の時代が終了したということであって、これからは一般施策を活用して部落差別の解消がめざされることとなる。このためには、相談活動を充実させるとともに、一般施策の活用・改革・創造をすることが不可欠であるし、このための取り組みは、人権行政の創造と必然的に結びついている。

 また、部落差別は優れて地域に対する差別である。従って、部落差別を解消するためには、周辺地域との連帯を構築していくことが決定的に重要である。このため、被差別部落を中心に、周辺地域をも対象とした「人権のまちづくり」を推進していくことがきわめて重要な課題となってきている。すでに、この観点から各地で「人権のまちづくり」が開始されているが、今後これらの紹介と拡大が求められている。

 近年、インターネット上の部落差別宣伝、扇動が増大してきている。その内容を分類すると、<1>部落地名総鑑に類した情報、<2>部落人名総鑑に類した情報、<3>大量殺害を呼びかける情報、<4>凶悪犯罪の実行者を被差別部落出身者であると決めつける情報、の4類型に分けられる。このような悪質な差別行為に対しては、公的な苦情処理機関を設置し有効な対応を実施するとともに、法的な規制の整備が求められている。

 その点では、2003年1月20日から開会される通常国会へと継続審議となった「人権擁護」法案の抜本修正が極めて重要な課題となっている。

 さらに、本年は1933年に高松差別裁判闘争が本格的に展開されて70周年を迎える。この闘いは、戦前の水平社時代もっとも高揚した闘争であり、差別判決取り消しに勝利しただけでなく、その後部落委員会活動を生み出した点でも多くの教訓に満ちたものである。

 狭山再審を求めた取り組みが大きな山場を迎えるとともに、被差別部落をはじめとする地域住民の日常的な要求や相談を原点にした人権のまちづくりの取り組みを今後展開していく上でも高松差別裁判闘争から学んでいく必要がある。


(8)

 2003年8月で、当研究所が創立されて35周年を迎える。この機会に、部落解放同盟中央本部や大阪府連をはじめとする運動団体、大阪府、大阪市をはじめとする自治体、東京人権啓発企業連絡会や大阪同和問題企業連絡会をはじめとする企業、『同和問題』にとりくむ宗教教団連帯会議や同和問題にとりくむ大阪宗教者連絡会議をはじめとする宗教教団、さらには多くの研究者や会員の皆様に、35年間に及ぶ暖かいご支援に衷心より感謝の言葉を贈る次第である。

 部落差別の解消をはじめとする人権を取り巻く内外の情勢を直視したとき、当研究所にかけられている期待と使命は従来にも増して大きなものがあり、これに応えるためにこれまで以上に努力していく決意である。

 とりわけ、<1>部落差別解消と人権確立のためのシンクタンクとしての機能の強化、<2>各分野で活躍する人材養成機能の強化、<3>図書・資料室の充実、とりわけ土曜開室、<4>研究所ホームページの充実、<5>部落問題・人権事典の分野別事典の発刊やCD-ROM化の検討、<6>若手の研究者の採用と養成、<7>財政基盤の安定のために収入源の多角化、等に取り組むこととしている。従来にも増した、各方面のご支援をお願いする次第である。



K研究所事業の重点課題

  以上の、基本的な認識を踏まえ、2003年度研究所事業の重点課題を以下に提起する。

1.「人権擁護法案」の抜本修正を求めていく取り組みを実施する。

 「人権擁護法案」は2003年1月20日から始まった通常国会へ継続審議となった。この法案を真に部落差別をはじめとする差別の撤廃と人権侵害の救済に役立ち、国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)等の国際的原則を踏まえたものとするため、抜本修正を求めていく必要がある。

 このため、人権委員会の独立性、実効性を確保するための研究を実施するとともに、冊子『緊急出版人権擁護法案・抜本修正への提案ーどこを、どう、変える?』の普及・宣伝に取り組む。さらに、部落解放・人権政策確立要求中央実行委員会の要請に応え、署名活動等に協力していく。


2.「人権教育のための国連10年(1995年-2004年)」、「人権教育・啓発推進法」、「国連識字の10年(2003年-2012年)」にちなんだ取り組みを実施する。

 「人権教育のための国連10年」も残すところ2年となった。全ての自治体等で行動計画の策定・改訂を求めていくとともに、これまでの取組を総括し、第2次10年に向けた提言を行っていく必要がある。また、「人権教育・啓発推進法」が施行されて2年になる。

 この法律を活用し、全ての自治体等で基本計画の策定を求めていくとともに、国及び自治体の取組の年次報告を求めていく必要がある。さらに、本年から「国連識字の10年」が開始される。この取組の普及宣伝と、日本国内での取組を盛り上げていく必要がある。これらの課題を、部落解放・人権教育啓発プロジェクトチーム等で実施していく。


3.「特別措置法」期限切れ後の同和行政、人権行政の方向、人権のまちづくりの方向を明らかにしていく課題に取り組む。

 昨年3月末で、33年間続いた「特別措置法」時代が終焉した。けれどもこのことは部落差別が撤廃されたことを意味するものではない。これからは、一般施策を活用・改革・創造し部落問題の解決を図っていく必要がある。このことは、同時に同和行政を発展させ人権行政を創造し、その重要な柱に同和行政を位置づけていくことにつながる。

 また、部落差別が優れて地域に対する差別であるという特徴に注目したとき、部落を含む周辺地域も含んだ人権のまちづくりが、今後最も重要な課題となってきている。その点では、750に達している部落差別撤廃・人権条例の制定は重要な意義を持っている。今後、この条例の拡大と具体化、人権のまちづくりとの結合を求めていく必要がある。すでに、各地で人権のまちづくりの実践が始まっている。このため、各地の実践の収集・比較研究を踏まえ今後の方向を明らかにしていく必要がある。


4.国連人権小委員会での「職業と世系(門地)に基づく差別」に関する取り組み、人種差別撤廃委員会の「世系(門地)」に関する取り組みの普及・宣伝等に取り組む。

 2000年8月、国連の人権の促進および保護に関する小委員会(国連人権小委員会)は、「職業と世系(門地)に基づく差別」に関する決議を採択し、この問題に関心を持っていくことを決定した。また人種差別撤廃委員会は、2001年3月、日本政府の第1・2回報告書の審査を行い、日本政府の見解とは異なり、部落差別がこの条約で規定された<descent>の対象になることを明確にし、人種差別撤廃条約を踏まえた部落差別をはじめとする差別の撤廃を勧告した。

 さらに、昨年8月、人種差別撤廃委員会は、<descent>に関するテーマ別討議を行い、一般的勧告を採択した。今後、これらの取組を普及・宣伝するとともに、日本政府に部落問題が人種差別撤廃条約の対象となることを認めさせ、人種差別撤廃条約を踏まえた国内法整備を求めた取組を実施していく。この他、インド、ネパールをはじめとする南アジアのダリットに対する差別、さらにはアフリカにおける身分差別等との比較研究に取り組む必要がある。なお、人種差別撤廃条約に関する日本政府の第3・4回報告書の提出期限が2003年1月となっているため、これに関わった取り組みを実施していく必要がある。


5.新たに6つのテーマの調査研究事業を進めるとともに、2名の若手の契約職員を採用する。

 新たな調査研究事業として、歴史関係では「維新の変革と部落」、「都市下層と部落問題(2)」、「旧長吏文書翻刻・復刻」、行政関係では、「人権のまちづくり」、教育関係では、「若年就労者問題―学校から職業への移行問題」がある。なお、「都市下層と部落問題(2)」については、2003年度科研費を申請している(基盤研究B.研究代表黒川みどり)。


6.各種講座の内容充実、解放大学のゼミナールコースの開講に取り組む。

 部落解放・人権夏期講座をはじめとする講座の内容充実と、新鮮で魅力的な企画が求められている。また、部落解放・人権大学講座については、より深い内容の学習、新たな参加者層の拡大を目的にゼミナールコースを土曜日に開講する。なお、人権・同和問題企業啓発講座については、参加者の多様なニーズに応えるために、第1部だけでなく第2部についても2会場で開催する。


7.ビデオ教材の作成、人材養成プログラム(地域編)の完成、啓発相談の充実に取り組む。

 近年ビデオ教材は好評を得ているが、利用者のニーズを分析し、それに応えるものを引き続き作成する。また、身近な人権リーダーを養成するために、2002年度から始まった人材養成プログラム(地域編)を完成する。さらに、さまざまな分野で実施されている教育・啓発活動を支援するために啓発・学習相談を実施しているが、相談用のデータベースを整備し、相談活動の充実を図る。


8.図書資料室の土曜日開室を実施する。

 2002年度から、広く府民に開かれた部落問題をはじめとする人権問題関係図書の専門図書館として図書資料室の事業を実施してきた。さらに一層の利用拡大を図るために、今年度より土曜日も開室する。


9.出版物の内容充実と自主財源確保に取り組む。

 定期刊行物、単行本などの出版物、視聴覚教材の内容の充実を図り、自主財源の確保に引き続き取り組む。同時に販売管理部門の整備を進め、効率的な業務を進めることによって、顧客対応の充実を図る。また、月刊『ヒューマンライツ』は、発刊15周年という節目の年であり、購読者のニーズに応えるためにこれまで以上に内容の充実を図る。

 さらに、衡平社創立80周年を記念した翻訳書『衡平運動』、『武者小路公秀回想録熱と光りを(仮)』、『被差別民の歴史―ジュニア版』、企業向けの出版物や研究プロジェクトの成果など、研究所の国内外を舞台にした多角的な活動の成果を出版していく。


10.『部落問題・人権事典』の普及・宣伝に取り組むとともに、『部落解放・人権事典』のCD-ROM化、『被差別民衆の歴史事典(仮)』や『人権教育事典(仮)』の発刊について検討する。

 昨年念願の『部落問題・人権事典』を発刊したが、今年度は引き続きこの普及・宣伝に取り組む。また、今日の情報化に対応するため『部落問題・人権事典』のCD-ROM化を検討する。さらに、個人の研究者の利用に供するために『被差別民衆の歴史事典(仮)』や『人権教育事典(仮)』の発刊について検討する。


11.国際人権大学院大学(夜間)の設立に向けた取り組みを実施する。

 2000年9月に結成された「国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議」に積極的に参加し、その実現をめざす。当面、プレ国際人権大学院大学講座開講に協力していく。


12.衡平社創立80周年記念事業を実施する。

 2003年4月24日で、衡平社創立80周年を迎える。これを記念して、研究会や講演会を開催するとともに、記念出版として金仲燮著・高正子訳『衡平運動』を発刊する。さらに韓国・晋州で開催される記念集会に代表を派遣する。なお、参加者を募り、記念集会に参加するとともに豊臣秀吉の侵略の跡や民族独立の記念の地、さらには韓国人権委員会などを訪問するツアーを実施する。


13.高松差別裁判闘争70周年にちなんだ取り組みの実施

 本年は、1933年に高松差別裁判闘争が展開されて70周年という記念の年にあたっている。この年に、大阪人権博物館(リバティ大阪)、香川人権研究所等と連携をとり、研究会や講演会の開催等に取り組む。


14.研究所創立35周年事業を実施する。

 2003年8月で、研究所が創立されて35周年を迎える。このため2003年1月から12月まで、研究所が主催して実施する主たる事業を研究所創立35周年記念事業として実施する。また、6月に開催予定の第58回総会終了後35周年記念シンポジウムとレセプションを開催する。


15.会員(個人会員、特別会員)の拡大に取り組む。

 引き続き、運動団体、自治体、各地研究所、各地人権センター、企業、宗教、大学、マスメディア、研究者等との連携を強化する。また、研究所の組織・財政基盤を拡充するため、個人会員ならびに特別会員の拡大に取り組む。具体的には、個人会員については900名、特別会員については470口を目標として設定する。


16.職場環境の整備と人材育成

 人権の視点から職場環境を整備するために、「セクシュアルハラスメントの防止等に関する指針・体制」、昨年度作成した「個人情報保護基本方針・規定」の具体化に取り組む。また、職員一人ひとりの能力を引き出し、自発的に資質の向上をはかるための支援システムについて検討する。