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2005.07.11

2005年度事業計画

第61回総会承認

1 情勢
(1)世界

2005年は、第2次世界大戦終結60年という大きな節目の年にあたっています。

この機会に、60年の歴史を振り返り、今後の世界の方向を考察していくことが必要です。

第2次世界大戦に対する反省の中から国際連合が創設され、1948年12月10日、第3回総会で「差別を撤廃し、人権を確立することが恒久平和に通じる」ことを基本精神とする世界人権宣言が採択されました。その後、人種差別撤廃条約や国際人権規約に代表される27にも及ぶ国際人権諸条約が制定されてきています。

第2次世界大戦後、米・ソ対決を軸とした冷戦構造の下で軍拡競争が激化し、核戦争の危機が深まりましたが、世界的な平和運動の広がりもあってこれを回避してきました。

90年代に入り、ソ連の崩壊とともに冷戦構造は崩壊しましたが、アメリカの一極支配のもとでグローバル化が進行してきています。この結果、世界的に貧富の差が拡大し、地球規模で環境破壊が進行してきています。また、アメリカの意向に逆らう国には力を行使してでも言うことをきかせる一方で、アメリカに従う国に対しては不正義が行われていても大目に見るという二重基準外交が露骨になってきています。

このような事態が進行する中で、世界各地で民族紛争やテロが頻発し、2001年には、「9・11同時多発テロ」が生じました。これに対してアメリカのブッシュ政権を中心とする勢力は、武力と戦争による押さえ込みを図っています。しかしながら、このような方法では、事態が解決に向かうどころか更なるテロを生み出し、泥沼的な状況が生じてきています。このことは、昨今のイラク情勢に象徴されています。

アメリカの一極支配に対抗する動きとして、EUに代表される地域的国家連合の形成が進行してきています。また、国際刑事裁判所の設置に代表される国際基準の設定と国際的な履行の確保に向けた仕組みの構築が行われてきています。

近年、中国やインドの経済成長は著しいものがあり、両国とも、面積や人口等の面で世界有数の地位を占めていることから、今後の世界の動向に対して与える影響は大きなものがあります。

アメリカのブッシュ政権による一極支配に対抗する平和、人権、環境の擁護を求める世界的な運動のネットワ-ク化と高揚を作り出すことが、今日ほど求められている時期はありません。日本は、このためにこそ積極的な役割を果たしていくことが求められています。

(2)日本

日本にとっても、本年はアジア・太平洋戦争での敗戦から60年の年にあたります。この機会に、この60年を振り返り、今後の日本の方向を真剣に考えていくことが求められています。

日本は、先の戦争の反省の中から戦争放棄、主権在民、基本的人権の尊重を基本精神とした新しい憲法を1947年5月3日に施行しました。

その後、中央集権・上意下達型社会の下で、ひたすら経済復興、経済成長を追求し、今日日本は世界第2の経済力を持つ国になっています。

しかしながら、1990年代に入り、日本は政治、経済等あらゆる面で制度疲労が表面化し、全ての面で改革が迫られてきています。

政府・与党は、「規制緩和」、「自己責任」の名の下に公的責任を放棄し、強者の利益を優先する一方で社会的弱者に犠牲を強いようとしています。この結果、6年間にわたって自殺者は3万人を超え、悪質な差別事件や人権侵害事件が多発してきています。

国際的な課題についても、日本はアメリカ追随路線を取り、近年その中でより積極的な役割を果たそうとしています。小泉首相は、A級戦犯を合祀している靖国神社参拝を強行するとともに、武力行使まで踏み込んだ自衛隊の海外派兵をもくろむところとなっています。

当然のこととして、この路線は、周辺のアジア諸国との関係を悪化し、国内からの不満の高まりを惹起せざるを得ません。

このため、国内からの不満の高まりを抑えるために、「愛国心」や「国を守る国民の義務」等を強調し、「非常事態関連法」を整備することによって国民の基本的人権の制限を画策しています。この延長線上に日本国憲法の「改正」、教育基本法の「改正」が提起されてきています。

しかしながら、これは、再び日本を戦争に引きづりこむ破滅の道です。日本に求められていることは、国際紛争を武力によって解決するのではなく、話し合いによって解決する道です。このための仕組みを作り上げるために積極的な役割を果たすことです。

このためには、国連の民主化と強化、国際刑事裁判所への積極的な参加、アジアとりわけ(北)東アジアでの話し合いの仕組みづくりに積極的な役割を果たしていくことが求められています。このためにも、先の戦争での戦争責任を明確にし謝罪と補償が必要です。

また、国内においては、失業をなくし、福祉や教育を充実し、人権と環境を守っていくために、地方分権を推進し、NGO、NPO等民間の自発的な取り組みを積極的に支援していくことが必要です。

(3)21世紀の特徴

この機会に、20世紀と比較した21世紀の特徴を明らかにしておくことが必要です。

20世紀は、国家中心の世紀でした。21世紀においては、国家はなくなりはしないものの、その役割は相対的に低下するものと思われます。

その反面、国際的には、国連をはじめとした国際機関、EUに代表される地域的な国家連合の役割は増大します。これに伴って、国際NGOの役割は大きくなります。

国内においては、自治体の役割、地域社会の役割、NGOやNPOの役割が増大します。

また、企業、とりわけ国際的な規模で活動する企業の社会的責任が大きく問われてくることとなります。

今年から「国連持続可能な開発のための教育の10年」が開始されますが、この中で、「3つの公正」を実現していくことの重要性が提起されていることに注目する必要があります。

第1は、「同じ時代に生きている世代内の公正」です。このためには世界的には南北格差の是正、一国内においては貧富の格差拡大の是正が必要です。

第2は、「現在生きているものと将来生まれてくるものとの世代間の公正」です。このためには、後世の世代に過大な負担を強いる膨大な赤字財政の解消と地球環境の破壊をくい止めなければなりません。

第3は、「人間と他の生物、自然との公正」です。このためには、他の生物との共生、自然保護が重要です。

以上に紹介した「3つの公正」を実現し、持続可能な平和、人権、環境が守られた21世紀を創造していくことが求められています。

(4)部落解放運動

戦後60年という節目に、60年に及ぶ部落解放運動を振り返り、部落問題の解決に向けた今後の展望を明らかにしていくことが必要です。

敗戦後間もない1946年2月、部落解放運動は、部落解放全国委員会として再建されました。これは、戦前の全国水平社時代の最高の運動形態であった部落委員会活動を継承するとともに、広範な人びとの結集をめざしたものでした。

部落解放全国委員会は、日本国憲法の制定に際して差別の撤廃に役立つ規定を盛り込むことを求める取り組みを行いました。その働きかけもあって14条に「社会的身分又は門地」という差別事由が、24条に「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」するとの規定が盛り込まれました。

1951年10月、『オールロマンス』差別事件が生起しました。この事件に対する糾弾闘争の中から、部落と部落民の置かれている劣悪な実態は、行政の怠慢、差別行政の結果であることが明らかにされ、その後各地で行政闘争が広がっていきました。

この結果、部落解放運動へ参加する人びとが次第に拡大し、1955年8月、部落解放同盟へと名称が改称され大衆団体としての発展がめざされました。それから、本年は、50年を迎えます。

その後、国策樹立を求める請願運動が展開され、1965年8月、内閣同和対策審議会答申が出されました。答申では、部落問題の解決が「国の責務であり、同時に国民的課題である」ことが明らかにされました。この答申から、本年は40年にあたります。

同対審答申を受けて、1969年7月、同和対策事業特別措置法が制定され、その後2002年3月末まで33年間、一連の「特別措置法」に基づく施策が実施されてきました。この結果、住環境の改善を中心に部落差別の実態は、一定改善されてきました。

1963年5月、狭山差別事件が生起し、予断と偏見によって部落出身の石川一雄さんが逮捕され、一審では死刑、2審では無期懲役、最高裁では上告が棄却されました。これに対して、差別裁判の取り消しを求めた運動が粘り強く続けられ、1994年12月には石川さんの仮出獄が実現し、再審を求めた運動が継続されています。この運動を通して1975年12月、部落解放中央共闘会議が結成されました。

1975年11月、部落地名総鑑差別事件が発覚しました。それ以降今日までの究明活動の中で、法務省の発表によっても8種類の地名総鑑が存在し、200を超す企業が地名総鑑を購入していたことが判明してきています。本年は、この部落地名総鑑差別事件が発覚して30年になります。この事件に対する糾弾闘争を経る中で、東京や大阪をはじめ各地で部落問題をはじめとする人権問題に取り組む企業の会が結成されてきました。また、大阪では、1985年3月、部落差別調査等規制等条例が制定されましたが、本年は、それから20年を迎えます。

1979年8月、第3回世界宗教者平和会議(アメリカのニュージャージー州にあるプリンストン大学で開催)の席上で、日本の宗教界を代表して参加していた人物による差別事件が生起しました。この事件に対する糾弾闘争の中から、『同和問題』にとりくむ宗教教団連帯会議が形成され、宗教界においても部落問題をはじめとする人権問題への取り組みが広がっていきました。

一連の「特別措置法」に基づく事業が実施されることによって、住環境面を中心に部落差別の実態は一定改善されていきました。しかしながら、差別意識は依然として根深く存在し、差別事件が後を絶たないという差別の現実を直視することの中から1985年5月、部落問題の根本的な解決を目的とした「部落解放基本法」の制定を求める運動が本格的に開始されました。本年は、それから20年を迎えます。

この間、部落解放基本法の制定そのものは実現していないものの、基本法案に盛り込まれていた「教育・啓発法的部分」が2000年12月、「人権教育および人権啓発の推進に関する法律」(「人権教育・啓発推進法」)として公布・施行されています。

その後、基本法案に盛り込まれていた「規制・救済法」部分の実現に向けた取り組みが展開されています。

「特別措置法」期限後、一部の行政機関において同和行政の大幅な後退が見られます。又、この間の失業者の増大や中小零細企業の倒産の増加などもあり、部落差別の実態は厳しくなってきています。今後、一般行政を活用(創設、改善含む)し、今日の部落差別の実態の改善を図っていくことが必要です。これは、人権・同和行政を創造していく重要な取り組みです。

2000年4月、「地方分権一括法」が施行されました。このことによって、部落問題の解決についても都道府県や市町村の占める比重が高くなってきています。このため、今日、780を超す部落差別をはじめあらゆる差別の撤廃をめざす条例や人権尊重の社会づくり条例が果たす役割は大きくなってきています。とりわけ、これらの条例を活用した人権のまちづくりが今後の部落問題解決の中心テーマとなってきています。

政治の右傾化、反動化とともに部落解放運動に対する攻撃が強まっています。その一環として部落解放運動の社会的評価をおとしめるキャンペーンが繰り広げられています。これに対して、部落解放運動が日本と世界における差別撤廃と人権確立に果たしている大きな役割をとりまとめ、紹介していくことが求められています。

1970年代の後半に入り、部落解放運動は、国連の人権活動との連帯を本格化させ、国際人権規約の批准運動に取り組み1979年6月に批准を実現しました。その後、人種差別撤廃条約の批准運動にも取り組み1995年12月に加入を実現しました。その後、これらの条約を活用し部落問題をはじめとして、日本に存在する差別問題、人権問題の解決に向けた取り組みを強めてきています。

1988年1月、全世界から一切の差別を撤廃することをめざして反差別国際運動(IMADR)が結成されましたが、その際、部落解放同盟とともに部落解放研究所(当時)が大きな役割を果たしました。

反差別国際運動を始めとする国際人権NGOの活動によって、今日、日本の部落差別は、インドをはじめ南アジア各国に存在しているダリットに対する差別、さらにはアフリカにも存在する同様の差別とともに「世系(descent)に基づく差別」あるいは「職業と世系に基づく差別」として把握され、これらの差別が国際人権法によって禁止される差別であることが明らかにされてきています。

こうして、部落解放運動は、戦前の糾弾闘争を中心とした全国水平社の運動(第一期)、部落差別の実態の改善を求めた戦後の行政闘争(第二期)の経験を踏まえながら、1980年代の中葉から、部落問題の根本的な解決と国内外の差別撤廃をめざす共同闘争を軸とする第三期の運動を展開してきています。そして、21世紀に入った今日、部落問題の解決は、全国民的な課題であるのみならず、国際的な課題としても注目されるところとなってきています。

2 基本課題

以上の情勢把握、時代認識を踏まえ、2005年度の研究所事業の基本課題を8点提起します。

(1)「職業と世系に基づく差別」の撤廃にむけた取り組み

 2000年8月以降、日本の部落問題や南アジアに存在しているダリットに対する差別問題、さらにアフリカにも存在している同種の差別問題は、国連・人権促進保護小委員会(人権小委員会)で「職業と世系に基づく差別」として捉えられ、これらの差別が国際人権法で禁止された差別であり、これらの差別が存在している国は差別撤廃の取り組みを実施する必要があることが指摘されるところとなってきました。

 また、あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)の実施を監視する人種差別撤廃委員会においても、これらの差別は「世系」に基づく差別として認識されるところとなってきました。こうして、今日、部落問題の解決は「国際的責務」ともなってきています。今後、部落問題研究と部落解放運動の成果を国際的に発信していくとともに、南アジアにおけるダリットに対する差別に関する研究や解放運動、さらには国連の関係機関における勧告や提言から学び、日本の部落差別撤廃に活用していくことが求められています。また、アフリカにも存在している同様の差別問題に関する研究が必要となってきています。

 最新の動向としては、昨年8月、国連人権小委員会は「職業と世系に基づく差別」に関する特別報告者を任命し、2007年8月に包括的な報告書を提出することを求めた決議を採択しました。今後、この決議が2005年4月の国連人権委員会で承認されることが必要です。また、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)の第5回日本政府報告書、人種差別撤廃条約の第2,3回政府報告書に関わる取り組み等にも参加していきます。

 これらの課題を遂行していくために「職業と世系に基づく差別に関するプロジェクト」(2005年~2007年)を立ち上げ調査・研究、提言活動に取り組みます。

(2)「人権教育のための世界プログラム」に連動した取り組み

 1995年1月にスタートした「人権教育のための国連10年」(「10年」)も、2004年12月末で終了しました。人権文化を世界中に構築することを目的としたこの取り組みは、一定の成果を上げてきたものの、内外の人権状況を直視したとき、いまだに「10年」の目的が達成されていないと言わねばなりません。ここで「10年」が終了してしまえば、せっかく盛り上がってきた人権教育の取り組みすら後退しかねない状況があるため、研究所として「10年」に連動した第2次行動計画を策定するとともに、世界人権宣言大阪連絡会議等と連携し、第2次「10年」が取り組まれるよう日本政府や国連等へ働きかけてきました。

 この結果、昨年12月10日、国連総会は、2005年1月から「人権教育のための世界プログラム」(「世界プログラム」)に取り組んでいくことを求める決議を採択しました。また、「世界プログラム」の第一段階を2005~2007年までの3カ年とし、初等・中等教育における人権教育の推進に重点を置くこととする行動計画を提起しています。

 また、国連は、昨年の国連総会で2005年から「持続可能な開発教育のための国連10年」(「持続可能な開発教育の国連10年」)に取り組むことを求める決議を採択しています。この「10年」の目的は、<1>同一世代間の公正、<2>世代間の公正、<3>人間と他の生物、自然との公正を確保するために持続可能な地域社会と世界を構築していくことを目指しています。

 研究所としては、「部落解放・人権教育啓発プロジェクト」を中心に、「世界プログラム」や「持続可能な開発教育の国連10年」に関する調査・研究、提言活動に取り組んでいきます。また、制定後5年目に入った「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」の活用に向けた調査・研究、提言等にも取り組んでいきます。さらに、研究所としての行動計画の見直しを行います。

(3)「人権侵害救済法」(仮称)の制定にむけた取り組み

 「人権擁護法案」は、一昨年10月の衆議院解散で廃案となりました。この法案については、<1>人権委員会が法務省の外局となっていて独立性がないこと、<2>中央レベルでのみ人権委員会が構想されていて実効性がないこと、<3>マスメディアの取材や報道まで特別救済の対象となっていて報道の自由を脅かすおそれがあること等の点で問題があり、各方面から抜本修正が求められていました。

 今後、この間の論議や国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)を踏まえ、部落差別をはじめとするあらゆる差別の撤廃と人権侵害の救済に役立つ法制度の早期確立が求められています。この法律は、「部落解放基本法案」に盛りこまれていた「規制・救済法的部分」の具体化ともなる重要な課題です。研究所としても、引き続きこの法律の早期制定のための調査・研究、提言に取り組みます。また、鳥取県では、県レベルでの人権委員会を設置し、人権侵害の救済等に取り組むための条例が県議会に上程され制定がめざされていますし、大阪府や福岡県においても同様の動きがみられます。

 このような動向を踏まえ、都道府県レベルでの条例制定にむけた調査・研究にも取り組みます。

(4)今日の部落差別の実態を明らかにしていく取り組み

 2002年3月、「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」(「地対財特法」)が期限切れとなり、33年間続いてきた「特別措置法」に基づく特別施策は終了しました。しかしながらこのことは、部落差別が撤廃されたことを意味するものではありません。これまでの取り組みによって改善されてきたとはいえ、歴史的・社会的に脆弱な状況に置かれている部落と、部落に暮らす人びとの生活、教育、産業、職業の実態は、部落外と比較したとき依然として格差が存在しています。

 それのみならず、<1>これまでの取り組みによって一定所得が向上した人びとが部落外へ流出していること、<2>経済的に困難な層が部落に流入してきていること、<3>特別の施策が廃止されたこと、<4>不況の長期化によりリストラが進行していること、<5>公共事業の削減に伴い仕事が減少してきていること等によって、より深刻な状況が生まれてきています。

 このため、なによりもまず「特別措置法」終了後3年が経過した今日の部落と部落に暮らす人びとがおかれている実態を正確に把握するための調査を実施することが求められています。とりわけ、1993年以来本格的な調査を実施していない政府に対して強力に申し入れる必要があります。また、今日なお格差が存在し、それが拡大すらし始めている部落と部落に暮らす人々の実態を改善するために、一般施策の活用(改善、創設を含む)に向けた取り組みの強化が求められています。さらに、三位一体改革や指定管理者制度の導入が人権・同和行政に及ぼす影響を調査・研究し提言していくことが必要です。

 研究所としても、「三重県桑名市の部落生活実態調査」(受託予定)や「部落問題に関する意識調査研究」、調査部会や行財政部会の活動等を通して、こうした課題に関連する調査・研究、提言に取り組んでいきます。

(5)人権条例、人権のまちづくりにちなんだ取り組み

 部落差別は優れて地域に対する差別であるという特徴を持っています。従って部落差別を撤廃するためには、部落に暮らす人びとと周辺地域に暮らす人びととの間に交流・連帯を構築していくことが極めて重要です。このことは、33年間「特別措置法」に基づく特別施策によって部落と部落に暮らす人びとのおかれている実態が一定改善されてきたことに対する「ねたみ差別」を克服していくためにも重要な課題です。

 このため、これまでの取り組みによって獲得されてきた成果(人権文化センター、保育所、青少年会館、老人センター、公営住宅等)を、周辺地域に暮らす人びとにも開放するとともに、部落が良くなるとともに周辺地域も良くなる「人権尊重のまちづくり」に取り組むことが決定的に重要な課題となってきています。その際、今日780を超す部落差別をはじめあらゆる差別を撤廃するための条例や、人権尊重の社会づくり条例を積極的に活用していくことが必要です。既に、福祉や教育等を軸に、各地でこうした取り組みが開始されていますが、研究所としても「人権条例・人権まちづくりプロジェクト」等を立ち上げ、これを収集、比較研究するとともに提言をしていきます。

(6)戦後60年に及ぶ部落解放運動の成果と今後の課題を明らかにしていく取り組み

 2005年は、第2次世界大戦終結60年という大きな節目の年にあたります。同時にこの年は、部落解放運動にとっても、部落解放同盟への改称50年、内閣同和対策審議会答申40年、部落地名総鑑発覚30年、部落解放基本法制定要求国民運動開始20年等、様々な意味で節目の年にあたっています。

 研究所としても、これにちなんでパネルと冊子『写真でみる戦後60年部落解放運動の歩み』を作製・発刊しましたが、この普及・活用に取り組みます。また、昨年より実施している「人物で見る戦後部落解放運動史」研究会を引き続き開催し、その成果を『ヒューマンライツ』等で紹介していきます。

(7)日本国憲法、教育基本法をめぐる論議に関する取り組み

 2005年はまた、日本国憲法の「改正」や教育基本法の「改正」をめぐる論議が大きな山場を迎える年でもあります。そこで、日本国憲法や教育基本法の改悪を許さず、人権、環境、平和が尊重される21世紀を創造していくために日本が積極的な役割を発揮していくべきだとの立場から「憲法問題プロジェクト」等で調査・研究に取り組み、提言をまとめていきます。

(8)研究所体制の在り方の見直しに関する取り組み

 部落解放・人権研究所も、本年で創立37周年を迎えます。当研究所にかけられた大きな使命に応えていくため、研究所35周年にちなんで提起した研究所の中長期方針を踏まえ、理事体制をはじめとする研究所の体制のあり方を見直していきます。また、研究機能の強化、若手研究者の育成に力を入れていきます。さらに運動、行政、組合、企業、宗教、大学、研究者、弁護士、マスメディア関係者等との連携を強化していきます。

 このための一環として、昨年9月理事会以降「研究企画委員会」を設置しました。この委員会の任務は、<1>プロジェクトの検討、<2>紀要の企画、<3>嘱託研究員の選考等とし、構成メンバーとしては、委員長は奥田理事、事務局長は中村研究部長とし、委員には研究部門の責任者、主任、研究部職員等とし取り組みを開始しています。本年は、研究企画委員会の取り組みを強化していきます。

 また、啓発・企画部門と編集・販売部門が研究所の独自財源を支えていることの重要性を考慮し、今後の中・長期のあり方を検討するための委員会を設置します。

2 各部室等の重点課題

1 総務部

  1. 正(個人)会員の拡大に取り組む。2005年度の最低目標は800名(2月22日現在767名、中・長期的には1000名を目標とする)
  2. 特別(団体)会員の拡大に取り組む。2005年度の最低目標は470口(2月22日現在444口、中・長期的には500口を目標とする)
  3. 理事会(年3回)、総会(年2回)を開催する。
  4. 関西学長、人権・同和問題担当者懇談会の開催(年2-3回程度)
  5. その他

2 啓発企画室

  1. 人材養成事業を実施する
    1. 自主講座事業
      1. 部落解放・人権大学講座の開催(すべて週1日コース×29日)
        1. 第85期2005年5月17日-10月26日
        2. 第86期2005年6月10日-12月2日
        3. 第87期2005年9月7日-2006年3月9日
        4. 第88期2005年9月26日-2006年3月22日
      2. 第30回部落解放・人権西日本夏期講座2005年7月21-22日大分県日田市
      3. 第36回部落解放・人権夏期講座2005年8月17-19日和歌山県高野山
      4. 第18回人権啓発東京講座2005年10月4日-11月25日12日間松本記念館
      5. 第26回人権・同和問題企業啓発講座
        1. 第1部2005年10月24日大阪厚生年金会館
        2. 第2部2005年11月9日大阪厚生年金会館
      6. 第20回人権啓発研究集会2006年1月24-25日徳島市
      7. 社会啓発連続学習会の開催計4日間2006年1-2月
    2. 自主講座事業(新規事業)
      1. 新 人権教育・啓発促進役養成講座計12日間2005年5-10月
        1. 地域・職域における人権啓発リーダー養成
        2. 国際人権大学大学院(夜間)大阪連絡会と共催
      2. 新 促進役バックアップセミナー年間3-4回
        1. 新作ビデオセミナーや各種啓発集会などにおいて、促進役の経験交流を実施
    3. 受託事業
      1. 人材養成プログラム等開発整備事業(大阪府)
        1. 職域研修リーダー養成プログラム(2ヵ年計画)
        2. 2年目、職域における人権リーダー養成プログラム最終報告書の作成
      2. 大阪市人権啓発推進員リーダー養成研修事業(大阪市)
        1. 2004年度修了生応用編計3日間2005年9-10月
        2. 2005年度入門編計4日間2006年1-3月
        3. 全修了生バックアップ1日研修2006年2月
        4. 全修了生経験交流会1日研修2006年3月
  2. 教材開発・作成事業の実施
    1. 視聴覚教材の制作(大阪府・大阪市・堺市との共同制作)
       *テーマ(仮題)「固まるから差別を受ける?-反部落分散論」
    2. 人権研修の手引き(大阪企業人権協議会人権ブックレット、委託)の編集
       *テーマ「未定」執筆/未定
    3. 『部落解放・人権入門2006』(部落解放・人権夏期講座報告書)
  3. 人権教育・啓発相談事業(大阪府受託事業)をさらに充実させる
    1. 広報・宣伝
    2. 相談用のデータ収集と講師照会用リストの整備
  4. 新 啓発企画委員会など企画のための仕組みを設置する。

3 研究部

  1. 受託事業に取り組む。
    1. 新 人権教育・啓発プログラム開発事業(大阪市)
    2.   テーマ:企業における労働者の個人情報保護と人権
    3. 人権教育啓発業務事業(大阪市)
    4. 新 部落生活実態調査(三重県桑名市)予定
  2. 補助事業に取り組む。
    1. 人権情報収集・提供事業:ホームページ作成(大阪市)
  3. 研究所独自の調査研究事業に取り組む。
       〈全体〉
    1. 新 憲法改正問題プロジェクト(2005年度)
    2. 人権教育啓発プロジェクト
    3. 若手研究者育成研究会
      〈歴史〉
    4. 維新の変革と部落(移行期研究2003-2005年度)
    5. 都市下層と部落問題研究会(2002-2005年度)
    6. 旧長吏文書研究会(2002-2006年度)
    7. 「大阪の部落史」普及版プロジェクト(2004-2005年度)
      〈啓発〉
    8. 企業の社会的責任と人権部落問題(2004-2005年度)
    9. 新 部落問題に関する意識調査研究会(2005-2007年度)
      〈人権〉
    10. 新 「職業と世系に基づく差別」に関するプロジェクト(2005-2007年度)
      〈調査・行政〉
    11. 新 人権条例・人権のまちづくりプロジェクト(2005-2006年度)
      〈教育〉
    12. 新 キャリア教育と人権研究会(2005-2006年度)
    13. 新 教育コミュニティ研究会(2005-2006年度)-第3次
    14. 新 若年不安定就労問題研究会(2005-2006年度)-第3次
  4. 研究企画委員会の開催
  5. 紀要『部落解放研究』(163-168号)の編集
  6. 『研究所通信』の編集(月1回)
  7. 嘱託研究員の委嘱
  8. 『全国のあいつぐ差別事件2005年度版』の編集
  9. 部落解放研究第39回全国集会(9/30-10/2、和歌山)の協力
  10. 第11回全国部落史研究交流会(8/6-7、徳島)への協力
  11. その他

4 図書資料室

  1. 図書・資料室機能の充実に取り組む
    1. 新刊図書・資料の収集、受け入れ(分類、バーコード・ラベル貼り、配列)
    2. 2000冊の受け入れを行う。重点を設定して図書・資料を収集する。
    3. 蔵書・資料の整理(分類、バーコード・ラベル貼り、配列)
    4. 5000冊の遡及入力・受け入れを行う。
    5. 府民への閲覧・貸出業務の実施
    6. 図書室の宣伝を強化する。広く府民への周知を行う。
    7. 市町村・人権文化センター・市民学習センター・各大学図書館・学校への宣伝を強化する。
    8. また、利用者の拡大を図るために部落解放・人権大学受講者、学校教育関係、市民、企業関係者など利用者のニーズに応じた企画を実施する。(例:情報検索の仕方の実習など)
    9. レファレンス機能の強化
    10. 個人情報保護の規程制定に伴う利用制限及び非公開図書・資料の選定。
    11. 資料室の整理。
    12. 新刊図書・寄贈図書などのニュースの定期的発行(新着図書No.35-No.46発行)、寄贈頂いた図書を毎月ホームページに掲載
    13. 文献データベース、蔵書データベースの更新
    14. りぶら友の会の開催(利用者としての意見・提言を受ける。人権図書館めぐりなど年1回会合をもつ)。
    15. 史資料の保存対策の行う。
    16. 史資料の整理。
    17. 廃棄資料の有効活用。
    18. テーマを設定し期間を定めた図書資料の特別開架。
  2. 図書・資料委員会の開催
  3. 専門図書館協議会、日本図書館協会との連携を深める。
  4. 全国図書館大会への参加。
  5. 関係団体・施設とのネットワーク構築に取り組む。
  6. 人権展示ネットワーク総会への参加。
  7. 各種実績の作成4月-2006年3月
  8. 年鑑の編集
  9. 大阪府人権協会よりの啓発活動委託事業に取り組む。

5 編集販売部

  1. 定期刊行物の内容充実と普及に務める。
    1. 『ヒューマンライツ』(205号-216号)
    2. 『人権年鑑2005』
    3. 『部落解放研究』(163号-168号)
    4. 『全国のあいつぐ差別事件2005年度版』
    5. 『大阪の部落史第2巻』
  2. 研究所活動の総合力を企画に活かし、内容の充実を図る。
  3. 新 編集委員会など企画のための仕組みを設置する。
  4. 販売部門については、引き続き販売経理・販売管理の整理と業務の円滑化に努める。
  5. 編集販売部の職員体制の整備に努める。

6 国際関係

  1. 英文ニュースの充実と定期的に発行する。
  2. 部落問題に関する英文の出版物の発行を追求する。
  3. 韓国、中国、インドとの連携を強化する。
  4. 国連の人権活動との連携を強化する。
    1. 人権小委員会の「職業と世系に基づく差別」に関する原則と指針策定に協力していく。
    2. 自由権規約に関する第5回日本政府報告書の提出に関連した取り組み等に参加していく。
  5. 反差別国際運動(IMADR)、同日本委員会(IMADR-JC)、世界人権宣言中央実行委員会、同大阪連絡会議等の活動に積極的に参加していく。
  6. SOSトーチャー翻訳委員会の事務局を担当する。
  7. 英語のホームページ内容充実、国外の団体や研究者への情報提供促進
  8. パネル貸し出し・冊子販売の普及・宣伝に取り組む。
    1. 「日本の部落差別」
    2. 「インドのダリット(被差別カースト)差別」
    3. 「朝鮮の被差別民衆『白丁』」
    4. 「写真でみる戦後60年部落解放運動の?み」

7 原田伴彦記念基金

  1. 2005年度についても、以下の3事業に取り組む。
    1. 第6回原田伴彦・部落史研究奨励金
    2. マイノリティ研究会への助成
    3. 国連・人権小委員会等の実情研究に若手の研究者を派遣
  2. 第20回原田伴彦記念基金運営委員会を開催する。

8 大阪の部落史委員会

  1. 残された4巻を、年1巻ずつ発刊していく。(史料編前近代2巻、3巻、補遺1巻、通史1巻)2005年度は、『大阪の部落史第2巻』(近世中期)を編集・発刊する。
  2. これまでの史料収集で集められてきた重要な史料の別途発刊を追求する。(旧長吏文書研究会)
  3. 大阪の部落史普及版プロジェクトに参加する。
  4. 大阪の部落史企画委員会を開催する。

9 国際人権大学院大学(夜間)の設立に向けて

  1. 「国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議」の活動に積極的に参加し、設立をめざす。

10 その他