<<本の紹介>>
『ホームレス中学生』　田村 裕著、ワニブックス

訥々とした著者の文章と、綴られる体験との落差に

まず、驚かされる。著者も、語られる著者の家族もみな、その身に降りかかる困難に対して抗うことなく淡々と受け入れる姿勢にも驚く。父に去られた著者と兄姉は、誰も頼ることなく生きようとし、文字通り「ホームレス」となって公園で暮らす。その後、本当に危ういところで友人の家族や周囲の人々に助けられ、再びきょうだいは共に暮らすことができるようになる。
　著者の父親は、病によって妻を失う。自らも病によって職を失い、経済的に困窮して親戚も頼れず、ついに家族に「解散」を宣言する。このような状態になるまで、なんとか公的な機関に相談できなかったのかと考えてしまいがちであるが、なんの抵抗もなく窮状を打ち明け、助けを求めることができる人は、多くないだろう。
大企業で勤勉に働き、一家を構え、妻と子供に囲まれ幸せな生活を送り、少なからぬ税金を納めて、セーフティネットの一端を支えてきたはずの、著者の父親のような人々にとっては、特に。―「かつて、通常の状態に於て、それを当り前のこととして自己主張した経験が一度もない人々にとって、自らの欲求をそのまま口にすることなどは不可能である。」（橋本治）
　「セーフティネット」はもとより「人権」と呼ばれる機関は、このような、強い立場にあるとされて、誰からもかえりみられず、自らも無自覚であり、弱みを見せることなく人知れず苦しんで力尽きる人達に、どのようにすれば手を差し伸べることができるだろうか。