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2008.07.23
事業報告


2007年事業報告

2007年度の取り組みの概括


2007年度事業について、その概要を報告します。

I 重点テーマに関連した取り組み

1.「職業と世系に基づく差別」の撤廃にむけた取り組み

 1990年代後半以降、国連は日本の部落差別、インドを始めとした南アジア諸国に存在しているダリットに対する差別、さらにはアフリカのいくつかの国に存在している同様の差別を「世系(descent)」または「職業と世系に基づく差別」と捉え、差別撤廃のための取り組みを積み重ねてきています。その成果の1つが人種差別撤廃委員会で2002年8月採択された「世系に関する一般的勧告XXIV」で、もう1つが人権小委員会のもとに設置された特別報告者による「職業と世系に基づく差別の撤廃に関する原則と指針」のとりまとめです。

 2007年度の研究所事業として、これとの関係では、「職業と世系に基づく差別に関するプロジェクト」を中心に以下の取り組みを実施しました。

  1. 国連人権小委員会のもとに設置された「職業と世系に基づく差別」の撤廃にむけた特別報告者による原則と指針のとりまとめに参画しました。この結果、2007年11月、国連人権理事会に提出された「原則と指針」には、研究所内に設置されたプロジェクトにおける研究にも言及されています。なお、国連人権理事会での上記「原則と指針」の取り扱いは2008年5月時点では不確定です。また、人権小委員会は、2007年6月人権理事会で人権理事会諮問委員会と改組され、2008年8月から活動を開始しますが、18名の委員のなかに、日本の坂元茂樹・神戸大学教授が選出されています。今後、人権理事会または人権理事会諮問委員会で「職業と世系に基づく差別に関する」これまでの取り組みが、何らかの形で継続されるよう働きかけていく必要があります。
  2. 日本、インド、セネガルにおける「職業と世系に基づく差別」撤廃に取り組む女性の当事者を招いた研究会を開催するとともに『「職業と世系に基づく差別」の撤廃に向けて 女性の視点より』を編集・発刊しました。

2.「人権教育のための世界プログラム」を活用した取り組み

 国連は、2005年1月から世界中で人権教育を推進するために「人権教育のための世界プログラム」に取り組んでいます。これは、1995年1月から実施された「人権教育のための国連10年」を継承したもので、2007年12月までの3ヵ年を第1段階と位置づけ、初等・中等学校制度における人権教育の推進をめざしたものです。2007年10月、人権理事会は第1段階を2年間延長し、2009年12月までとすることを決定しました。

 こうした国連の提起をうけて、日本国内においても2008年4月、文部科学省のもとに設置された「人権教育の指導方法に関する調査研究会議」から「人権教育の指導方法等の在り方について(第3次とりまとめ)」が公表されました。

 研究所としては、部落解放人権教育・啓発プロジェクトを中心に、これらの動向と連動した以下の取り組みを実施しました。

  1. 「人権教育のための世界プログラム」の動向の紹介
  2. 「人権教育の指導方法等の在り方について(第3次とりまとめ)」案の検討、意見提出
  3. 「人権教育のための世界プログラム」や「人権教育・啓発推進法」等を踏まえた自治体での取り組みに関するアンケート調査の実施(2008年5月現在集計中、2008年10月を目処に調査結果を公表予定)

3.「人権侵害救済法」(仮称)等の早期制定にむけた取り組み

 2002年3月、日本においても人権侵害の被害者を救済するための人権委員会を設置することなどを盛り込んだ「人権擁護法案」が国会に上程されました。しかしながら、この法案に盛り込まれていた人権委員会の独立性や実効性、さらにはメディア規制についての批判が強く、2003年10月の衆議院の解散に伴って、この法案は自然廃案となりました。それ以降、やがて5年が経過しようとしていますが、事態は良くなるどころか、安倍内閣のもとでは、大きく後退することとなりました。その後、参議院での保革逆転、福田内閣の誕生という情勢の変化をうけて、与党・自民党のなかでも「人権問題等調査会」が再開され、法案の見直しに向けて精力的に会合が積み重ねられています。しかしながら、自民党のなかには法案提出そのものに反対する動きがあり、事態は予断を許さない状況にあります。

 一方、都道府県レベルにおいても人権侵害救済に取り組む必要があるとして、鳥取県においては、2005年9月「鳥取県人権侵害救済条例」が議員提案で制定されました。しかしながら、県弁護士会やメディア関係者からこの条例に対する批判が寄せられ、2006年3月、この条例の施行を凍結し、条例見直し検討委員会を設置する条例が可決されました。その後、条例見直し検討委員会が開催され、2007年11月、条例そのものの必要性を認めた上で、見直しが求められる点を盛り込んだ意見書が県知事に提出されました。

 このような動向を踏まえ、研究所としては以下に紹介するように「マイノリティ研究会」等で研究を深めるとともに『ヒューマンライツ』誌上で、論点整理等に取り組みました。

  1. 「鳥取県人権侵害救済条例」の見直しと早期制定にむけた研究と論点整理(例えば内田博文「鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例の見直しに関する意見について」『ヒューマンライツ』239号、2008年2月号所収)
  2. 「人権侵害救済法」(仮称)の早期制定にむけた論点整理(例えば山崎公士「人権救済制度 - 『人権擁護法案』の主要な論点」『ヒューマンライツ』242号、2008年5月号所収)

4.人権条例制定拡大と、人権のまちづくりにちなんだ取り組み

 2000年4月の「地方分権一括法案」の施行以降、部落問題解決と人権確立にとって自治体の果たす役割は大きくなっています。一方、部落問題を解決していく上で、部落が良くなるとともに部落の隣接地域も良くなっていくための取り組みとして人権のまちづくりはき極めて重要なテーマとなってきています。また、この両者を結びつけるものとして、部落差別撤廃・人権条例の制定と条例を活用した人権のまちづくりの推進があります。

 さらに、人権条例等を活用することによって、人権行政や部落差別撤廃行政の後退を防ぐとともにその内容を明確にすることが求められています。

 このため、研究所としては人権のまちづくりの事例収集と比較検討プロジェクトや行財政部会等を中心に、以下の取り組みを実施しました。

  1. プロジェクトで、大阪府、三重県、大阪府堺市、長野県東御市等からの報告を受けた研究会の開催
  2. 部落解放研究第41回全国集会の特別集会Ⅰ「部落差別撤廃・人権条例の具体化と全国的交流」で、プロジェクトでの研究を踏まえた今後の取り組み等の提起
  3. 大阪市人権行政推進審議会答申や大阪府同和問題解決推進審議会の提言に関する研究や意見表明等の実施

II 部室ごとの主な取り組み

1.啓発企画室関係の主な取り組み

 自主事業としては、部落解放・人権大学講座(3期開催)、第32回部落解放・人権西日本夏期講座、第38回部落解放・人権夏期講座、第20回人権啓発東京講座、第28回人権・同和問題企業啓発講座、第22回人権啓発研究集会等を開催しました。このうち、第32回部落解放・人権西日本夏期講座については、部落解放同盟愛媛県連合会、愛媛県人権対策協議会の多大な協力によって愛媛県ではじめて開催することができました。また、第22回人権啓発研究集会については、部落解放同盟愛知県連合会の全面的な協力で量的・質的にも充実したものにすることができました。

 受託事業としては、大阪人権教育啓発事業推進協議会からの委託を受け「同和問題に関する参加型学習教材開発事業」に取り組み、研究会を踏まえて報告書『学習者ともに考える同和問題に関する参加型学習』を作成しました。

 共同制作事業であるビデオ制作については、『パワー・ハラスメントと人権 - 見直そう、職場と家庭の人間関係』を制作しました。

2.研究部を中心とした取り組み

 大阪府人権教育啓発事業推進協議会からの受託事業の1つとして「人権啓発の現状把握と効果検証指標作成事業」に取り組み、研究会の開催を踏まえ報告書『人権啓発の現状把握と効果検証に向けた指標作成研究事業報告書』を作成しました。また、滋賀県甲賀市・湖南市総合生活実態調査を受託し『湖南市総合実態調査報告書』、『甲賀市総合実態調査報告書』、『甲賀市・湖南市総合生活実態調査報告書(広域就労編)』を作成しました。さらに、補助事業であるホームページ(ウエブサイト)の大幅リニューアルを実施した結果、アクセス数が増加しました。

 自主事業としては、第2次長吏文書研究会で研究会を開催するとともに『悲田院長吏文書』(B5判・約800頁、定価3万2千円)を2008年5月に発刊しました。(なお、この本の出版には四天王寺の助成を得ています)また、部落問題に関する意識調査研究プロジェクトでも研究会の開催を踏まえ、報告書『部落問題に関する意識の変遷と啓発の課題』を作成しました。

3.図書資料室関係の取り組み(補助事業)

 2007年度の来館者数、貸出件数、相談件数等は前年度と比較すると若干減少しました。これは、部落解放・人権大学講座の受講生の減少等の影響によるものと思われます。新刊図書・資料の収集・受入は当初の予定を上回り、今日、当研究所は、部落問題を中心に人権に関わる基礎資料を幅広く収集し、総計約9万3千冊を所蔵した日本有数の人権図書室を有しています。また、本年度も研究所図書資料室が所蔵している未整理状態にあった関係資料について整理し、仮目録を作成しました。この中には、部落解放同盟中央本部関係資料、部落解放同盟大阪府連合会関係資料、同和行政関係資料、三輪嘉男先生寄贈資料、解放出版社・解放新聞社寄贈資料等、8,341点が含まれています。この他、文献データベースと蔵書データベース化にも取り組み、文献データを新たに4,521件作成し(総数38,474件)、ホームページで公開しました。また、蔵書データは、新たに11,041冊追加し総数は93,908冊となりました。蔵書データベースは大阪府立図書館の横断検索に2002年6月より参加していますが、蔵書データへのアクセス件数は269,286件と増加傾向にあります。

4.編集・販売部門の取り組み

 編集部門としては、定期刊行物として『ヒューマンライツ』229-240号、『部落解放研究』(隔月刊)、『全国のあいつぐ差別事件 2007年度版』、『人権年鑑 2008』、『大阪の部落史 第九巻 史料編 補遺』を発刊しました。単行本としては、炭谷茂『私の人権行政論 - ソーシャルインクルージョンの確立に向けて』、奥田均『ヒューマンライツベーシック 結婚差別 データで読む現実と課題』、項陽著・好並隆司訳『楽戸 中国・伝統音楽文化の担い手』など11点を発刊しました。受託出版としては、企同連ブックレット24『改正男女雇用機会均等法 - 企業発展のステップに』などを発刊しました。

 販売部門としては、2007年度は、3部門で104,076,210円の売り上げであり、前年比マイナス19,579,824円(マイナス14%)という昨今の研究所をめぐる状況を反映した数字となりました。2006年度は書籍(直販)、視聴覚(直販)に採用などのプラス要因がありましたが、2007年度は3部門とも特段にプラス要因をあげることができません。

5.国際関係の取り組み

 2007年度は国連機関による日本の人権条約の履行や人権基準の実施の審査が続いた年でした。その1つは、拷問等禁止条約の第1回日本報告の審査(2007年5月)で、拷問禁止委員会はその最終所見において代用監獄の見直しや戦時下の軍性奴隷をはじめとした性暴力の是正などかねてよりの問題について勧告を行いました。2006年12月に政府が提出した市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)の第5回定期報告書の審査が、規約人権委員会第92会期(2008年3月17日-)から始まりました。さらに、国連人権理事会の新しいプログラムである普遍的定期審査(UPR)が本格的に始まり、理事国の1つである日本の審査(2008年5月予定)に向けて2008年3月に政府報告書が提出されました。これらすべてに日本の人権NGOは積極的に関わり、それぞれの立場よりカウンターレポートを国連に提出しました。当研究所は自由権規約の第5回日本報告の審査に向けてNGOの立場より独自の報告書を作成・提出し、UPRに関しては国内NGOネットワークの一員としてNGO報告書の作成に積極的に関わりました。

 国際交流では、日本の自治体による人権教育や差別撤廃に向けた条例制定について韓国国家人権委員会が強い関心を示し、友永所長を報告者として招聘したシンポジウムや研究集会が釜山と晋州で開催され、意見交換が行われました。

 かねてよりの課題であった部落問題に関する海外研究者との研究交流が、2007年具体的に始動しました。2008年7月末から8月初めにかけて若手研究者を中心とした国際ワークショップとシンポジウムの企画が決まり、討議テーマや参加研究者の決定、日時や場所の確保などが進められてきました。この取り組みをきっかけに、若手を中心に部落問題に関する研究者の国際ネットワークの構築が大いに期待されています。(この企画は研究所創立40周年記念事業の一環として開催されます。)なお、「職業と世系に基づく差別」の撤廃にむけた取り組みについては、重要課題に関連した取り組みで報告していますので、ここでは省略します。

6.総務部を中心とした取り組み

 2007年度の会員状況は、正(個人)会員が697名(2006年度707名)、特別(団体)会員444口(2006年度449口)で、いずれも昨年度と比較して微減しました。大阪府等行政関係の事業補助や事業委託の大幅な削減という研究所を取り巻く厳しい状況を直視したとき、正(個人)会員や特別(団体)会員の拡大に取り組む必要があります。

 機関活動としては、2007年度は理事会を4回(2007年5月26日(土)、9月15日(土)、12月25日(火)、2008年2月25日(月))、総会を2回(第66回・2007年6月26日(火)、第67回・2008年2月25日(月))開催しました。総会の記念講演では、時々の重要なテーマを取り上げた講演をお願いしました。とくに第67回総会では、「『部落解放運動への提言 - 一連の不祥事の分析と部落解放運動の再生に向けて』について」をテーマに、上田正昭・京都大学名誉教授にご講演いただきました。

 この他、総務部が事務局を担当して2回の関西学長、人権・同和問題担当者懇談会と2008年新春マスコミ懇談会を開催しました。

 職員研修としては、セクシュアル・ハラスメントと精神障害者に対する差別についての研修に取り組みました。とくに、精神障害者に対する差別についての研修のきっかけは、研究所ホームページのサイト内に掲載していた民法の改正に基づいて理事会ならびに総会で変更された「定款」第3章第8条第2項の会員資格について、変更以前のまま掲載していたことに対して大阪精神障害者連絡会から指摘・抗議を受けたことによります。

7.研究所創立40周年記念事業に関連した取り組み

 2008年8月で、研究所創立40周年を迎えるため、以下の記念事業に取り組んでいます。

  1. 『部落史研究からの発信』(仮)全3巻の編集
  2. 「部落問題の今をめぐる若手研究者のワークショップ・シンポジウム」の開催に向けた取り組み
  3. 部落解放・人権研究所40周年記念CD-ROM作成に向けた取り組み
  4. この他、2008年2月総会以降研究所が主催する主な事業に「部落解放・人権研究所創立40周年記念」であることを明記して事業を実施している。

III 研究所が事務局を担当している主な取り組み

1.大阪の部落史編纂事業の取り組み

 2007年度(13年度目)の取り組みとしては、『大阪の部落史 第九巻 史料編 補遺』を編集・発刊しました。『大阪の部落史通信』40号で、その特徴点を紹介するとともに、歴史部会でも報告を行いました。また、『大阪の部落史 第九巻 史料編 補遺』は毎日新聞(2008年5月2日夕刊)でも紹介されました。

 この他、『大阪の部落史 第10巻 通史編』の発刊に向けた準備を重ねています。なお、月1回の事務局会議と第18回企画委員会(2007年5月27日(土))を開催しました。

2.国際人権大学院大学(夜間)の実現をめざす大阪府民会議の取り組み

 2007年度は、事務局会議を9回、総会を2007年6月20日(水)に開催しました。総会の記念講演としては、「国際人権大学院大学に期待するもの-成人教育の立場から」をテーマに上杉孝實・畿央大学教授にお願いしました。

 また、プレ国際人権大学講座として「法律からみた人権」コース(10回)、「インターネットと人権」コース(10回)を開催しました。

 この他、阿久澤麻理子・兵庫県立大学准教授に、世界の大学院レベルにおける人権コースの開催状況の調査(ウエブサイト上での情報提供をもとにした)を依頼しました。

3.マイノリティ研究会の取り組み

 2007年度は、2回研究会を開催しました。研究会のテーマとしては、「鳥取県の人権侵害救済条例見直しの現状と課題」、「日本の人権確立と松本精神の継承」、「マイノリティの権利と普遍的人権概念」等を取り上げました。

 また、マイノリティ研究会発足以来の会員である高野眞澄先生の退職を記念した『これからの人権保障』(有信堂)の出版記念祝賀会を開催(2007年7月28日(土))しました。

4.原田伴彦記念基金の取り組み

 2007年度としては、以下の事業を実施しました。

  1. 第8回原田伴彦・部落史研究奨励金の募集と選考
  2. 部落史関係文献目録の作成への助成
  3. マイノリティ研究会への一部研究助成

 なお、従来実施してきた国際人権人材養成事業については、受け入れ団体であるIMADRジュネーブ事務所の担当者が急逝された関係で事業を実施することができませんでした。運営委員会は、2007年6月12日(火)に開催しました。

5.部落解放・人権研究所識字活動支援「安田識字基金」の取り組み

 2007年度事業として、第3回助成対象事業の募集と選考を行いました。その結果は、以下の通りです。

  1. 国外からは3件の応募があり、1件に対して助成を決定しました。
  2. 国内からは8件の応募があり、6件に対して助成を決定しました。

 なお、2007年12月に運営委員会が開催され、同年10月末に逝去された内山一雄委員の後任として岩槻知也・京都女子大学准教授が運営委員に選ばれました。