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書 評
 
評者今西 一
部落解放研究235号掲載
『近代日本の差別と性文化』

(雄山閣出版、1998年1月、A5判、219頁、2700円)

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  今日の近代史研究のテーマの1つが、明治以後の「国民国家」の形成をどう評価するかにあることは言うまでもない。今西氏は本書「序章」でその研究の流れを概括している。まず、「国民国家」を相対化する視点が哲学者(中村雄一郎)や、構造主義の影響を受けた歴史家(川田順造、二宮宏之)、言語学者(田中克彦)などから提起されたこと。現時点では、安丸良夫らが「国民国家」の抑圧的構造を重視し、西川長夫が近代「国民」国家が「国民」を生み出し被差別者を排除するなかで生まれたことを指摘している、とする。

  本書は以下の各章で被差別民、漂白民、女性を検討し、さらに文明がもたらした<まなざし>として「裸体」の禁止(違式カイ違条例)、民衆運動の「暴力」(「解放令」反対一揆)、<時間>の習俗を取り上げている。部落問題に直接言及した論は少ないが、部落史を考える上で、いま何が近代の日本史で何が議論されているかを知ることができる。