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書 評
 
評者渡辺俊雄
研究所通信257号掲載
大阪の部落史委員会編

『大阪の部落史』第7巻(史料編現代1)

(解放出版社、99年12月、A5判485頁、定価12000円)

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 『大阪の部落史』第7巻(史料編現代1)が、このほど刊行を見た。『大阪の部落史』の編纂事業は1995年から始まっていたが、第7巻は第1回の配本となる。

 都府県別の部落史の編纂は、すでに京都・奈良・和歌山などで取り組まれてきた。大阪では各地域ごとの部落史編纂が先行して多くの成果をあげているが、大阪府全域を視野に入れての部落史編纂は今回が初めてのことである。

 ところで、第7巻は1945年の日本の敗戦以降、いわゆる「高度経済成長」が本格的に始まる1960年までの現代を対象とする。これまでに、この時期を対象として、運動史・教育史・行政史と限定した史料集が大阪でも他府県でもいくつか編纂されているが、部落史全般を対象とする本格的な史料集の編纂は、都府県単位では初めてのことである。

 第7巻は、いずれも新規史料を中心に構成されており、9つのテーマで編集されている。これまでの通説にとらわれることなく、多様な現実をできるだけ反映するように、掲載する史料を検討した。部落と在日韓国・朝鮮人や、市町村合併といったテーマを独立させたのも、新しい試みである。従来の通説をくつがえす史料も数多い。

 戦後、1950年代までの大阪の部落は、確かに貧困で不就学も多く、皮革・食肉などの部落産業が存在した。同時に、日本社会全体がそうであったように、部落にも旧来からの共同体が機能していた。また部落に住む人びとの意識も保守・革新など多様だった。また部落には多くの在日朝鮮人が住んでおり、仕事などで重なる部分も多かった。

 部落を取り巻く社会意識には、「部落はこわい」「部落とわかれば、結婚しない」あるいは悪いものを「特殊部落」と比喩するといった、部落差別の歴史を引き継いだ差別意識が、色濃くあった。部落の中では、部落は経済的に貧しいだけでなく、早婚が多いことなど文化的にも低位であるとの認識があった。その他方で、女性や障害者など他の被差別者への差別意識も厳しかった。

 部落差別をなくす運動には、初期には戦前の同和奉公会との連続も認められる。大阪府レベルでは解放委員会や青年同盟、同和事業促進協議会が組織されたが、それぞれの地域では、親睦会や青年会・婦人会・自治会などが地域のさまざまな要求を組織し、地域の利害を体現していた。1950年代の後半になって、ようやく住宅や教育、生業資金を要求する大衆的な運動が始まっていくこととなる。

 同和行政は戦時下の取組みを継承しながら、徐々に始まっていった。同和教育について言えば、大阪は「不毛地帯」と呼ばれながら、各地域では先進的な実践があった。しかし「同和対策審議会答申」が出されるまで、大阪は解放運動や同和行政、同和教育に関して、必ずしも先進地域と言えるものではなかった。差別をなくす文化の営みは、部落の内外で意外と多い。

 そして高度経済成長が始まるにつれて部落の就業構造が変化し、さらに1950年代の後半に進んだ市町村合併の影響もあって、旧来の部落にも変化をもたらし、新たな解放運動や行政・教育の取組みを準備していった。