Home書評 > 本文
書 評
 
評者中島智子
研究所通信249号掲載
三宅都子・長尾彰夫編著

カリキュラム改革としての総合学習2「生きること・働くこと」

(アドバンテージサーバー、1999年、B5判・151頁、定価1650円)

-----------------------------------------------------------------------------

 シリーズの第2冊めは、労働に視点をあてての具体的な展開例の紹介である。第2章で筆者が述べているように、展開例は、従来の教科指導細案の様なものではなく、実践する側が様々に考えて発展させられる要素に満ちている。おおいに可変性のあるものになっているのである。実践者の目の前の子ども、地域に根ざすことが総合学習の土台である以上、可変性があると読み手に感じさせてくれるこのような展開例の表し方は、有効な一例となろう。発展のさせ方なども思わず、自分だったらここをこんなふうにするなと考えてしまった。そうさせるような「しかけ」があるに違いない。

 昨年度より兵庫県が実施している「トライやる・ウィーク」が大きな成功を納めていることは、マスコミ等を通じて周知のことであろう。不登校の生徒が減ったとか、受け入れる側の変化をもたらしたとか、様々な、それこそ学校や教師の心配や想像を越えた成果がもたらされている。表題にあるとおり、働くことは生きることである。「案ずるより産むが易し」という言葉があるが、あれこれ学校や教師が悩むより、まず実施したことで沢山の子どもや地域の人びとの目覚めを引き起こしたこの取り組みは、これから総合学習を始めようとする全国の学校現場に、大きな示唆を与えてくれた。

 本書に述べられているように、現在の子どもたちは、昔に比べて労働の現場から遠ざけられていると言わざるを得ない。また、様々な労働の社会での位置と子どもに対する偏った情報提供によって、子どもたちはある特定の仕事や職種しか知らなかったり、様々な仕事に対して偏見に満ちた価値観で見てしまいがちな現状がある。そんな子どもたちに、いろんな職種の仕事のすばらしさに触れる機会をもたらすことは本当に大切なことであり、「押しつけ」ではなく、子どもたちが考えながら学んでいく「しかけ」は総合学習のなかで極めて大切な一つの視点であると考える。

 ただ、もう一つ大切な要素として、その様な様々な労働に触れたときにそれをまっすぐに受け止められる子どもの感性や価値観が育っていることが重要である。それは、学校だけではなく、家庭や地域で培われるものである。例えば家庭や地域での労働、役割に現在の子どもはどれだけ携わっているのであろうか。しんどいけど、ねばり強くやり遂げた時の達成感、自分も家庭や地域の大切なポジションを担っているという意識、それらの経験が子どもたちには必要なのではないか。

 そういった意味で、本書をただ学校関係者のみではなく、是非親の立場から、また地域を変えていくという立場からも読んでいただきたいと思う。そして、このユニットを家庭や地域に重ねてみたとき、どういったことが考えられるのか、そんな視点での発言がされるとき、本当の意味で地域に根ざした総合学習が可能になるのではないか。