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部落解放運動の識字においては、「運動の原点」と呼ばれるような思想性が強調され、識字の教材や教授法などの体系化の試みはほとんどなされてこなかった。
本書は識字の「方法を体系的にまとめたものではない」と断られているが、「学習者の特徴診断」「目的・目標の設定」「評価の計画」「学習方法の計画」「組織化の計画」「資源の計画」「学習の統合」「総合評価」「修正」という、一つの流れのうえに組み立てられた指導モデルに沿って実際に試みられた具体的な方法の数々は、実際的であるだけでなく十分に体系的なものと映る。
アメリカでは識字教育の条件が格段に整備されていること(裏返せば、それだけ非識字の問題が深刻だともいえるが)に羨望の念を抱かされる。と同時に、学習者の生活や心理的背景を知り、ひとりの人格として尊重すること、講師の考え方・やり方を押しつけるのではなく、学習者の関心やニーズにもとづいてカリキュラムをつくることなど、言語や文化の違いを差し引いても、基本的なところで共有できることが多々あることに驚かされる。急増する日本語を母語としない人たちのための日本語教室でも、きっと役立つに違いない。
個人的に興味を引かれたのが、部落の識字では、生い立ちを綴ることに象徴されるように「自らの言葉で綴る」ことを重視してきたのに対し、本書は「読む」ことを通じて、語彙や表現を学ぶこと、「書く」ための基礎をつくることを重視している点であった。これはある面では社会適応的な観点からくるものかもしれず、どちらかといえば「読む」ことは受動的な行為と見なされるのだが、「読む」ことを通じて世界を広げ豊かにしていく、という「読む」ことの積極的な側面をもっと取り入れてよいのではないかと感じた。