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書 評
 
評者村上民雄
研究所通信235号掲載
『多様な他者との出会いを求めて 〜これからの同和教育と地域教育運動の課題』

(自費出版)

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 1990年代に入って、大阪では地域の教育改革の取組みが始まり出し、地域・家庭の子育ての力が問われ出した。しかし、学校分野に比べ、家庭・地域の課題の分析を目的にした調査は極めて少ない。

 本書は、こうした点に対し、生活史(ライフ・ヒストリー)の聞き取り調査という手法で、数世代にわたって同一家族、親族に属する人を調査、分析した初めての書といえる。

 本書では、調査時(1995年)、40歳代以上、30歳代、20歳代の3世代に大きく区分し、世代ごとの自己認識、アイデンティティ、社会観、そしてそれらに裏づいた教育戦略とその達成度およびその世代間の変化を中心に分析している。

 ここには、当然ながら教育上の課題だけでなく、今後の解放運動のあり方に関わる示唆も含まれている。特に20歳代の分析を通じて、行政闘争や差別糾弾闘争のような、「部落アイデンティティを『唯一』の基盤としたそうした集合的戦略」から、「多様なアイデンティティの1つとしての部落アイデンティティ」を個人の意志と責任で選択していく私的戦略に、部落の青年の意識変化が生じていること、したがって、「『他者』との関係性の再編と新たな関係性の構築こそが、今後の同和地区の教育運動や学校教育の課題を考える上での最も重要な柱である」という指摘は印象的である。

(参照)「家族・親族の生活史からみた 教育の課題」『地域の教育改革と学力保障』部落解放研究所、1996年9月