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評者大橋保明・大阪大学大学院生
研究所通信280号掲載
大阪大学大学院人間科学研究科池田寛研究室

協働の教育による学校・地域の再生-大阪府松原市の4つの中学校区から-

(231頁,A4判,実費頒価)

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 《第2回》

―松原第5中学校区に焦点をあてて―

 本調査全体を通じて大切にされたのは、あらゆる実践者との「ラポール」(信頼)である。五中校区調査では、2人の調査者が延べ61回(実働42日)をかけて、学校と地域とが協働して取り組む授業や地域活動に参加するだけでなく、取り組みに向けた準備や合同の会議、飲み会などの打ち上げにも積極的に顔を出しながら、このラポールのもとで五中校区の協働的な実践をさまざまな角度から記述し、分析した。

 本章の構成は次のとおりである。

第1節:校区の概要((1).地域的な特色、(2).地域の学校)、

第2節:地域と学校の史的考察((1).地域の史的考察、(2).学校の史的考察)、

第3節:地域と学校の協働((1).地域からの発信、(2).学校からの発信〜総合学習と地域づくり)、

第4節:まとめ〜課題と展望〜((1).地域と学校の異質性、(2).共感できる「場」としての学校と地域、(3).サークル化への動き)

 大阪府下のどこよりも早く「五中校区地域協議会」(1999年9月)が立ち上がるなど現在では大阪の地域教育をリードしている松原5中校区であるが、「いきいき環境フェスタ」の始まる7年前までは、学校はどこも開かれたと言うにはほど遠い状態にあった。

 各組織あるいは学校が自己完結的に活動するこのような状態を脱却し、学校や地域のさまざまな組織が「つながり」を持ち始めるきっかけとなったのが、1994年度から2年間天美西小で取り組まれた「マイスクール研究推進事業」(松原市教育委員会の研究指定事業)であった。

 総合学習の実施に向けた前身的な取り組みとして、学校と地域とが協力して授業を展開した。1998年度からは天美小でも展開され、その後発展的に継承された天美西小の総合学習「グランドワーク」とともに、五中校区全体のつながりを広げていった。

 その過程において、地域が主体となって始まった学校週5日制事業の「寒餅つき大会」(1995年)や天美西小PTAや地域の人々がスポーツなどの企画をする「おやゆびとまれ」など、学校と地域とが協働しなければ成立しない取り組みが増え始めたのである。

 このように学校と地域とのつながりが広がっていく中で、学校の教師たちの意識も変化し始めた。松原市では、各校の実践を交流し、それぞれの教育活動に生かしていくための校区同和教育研究協議会活動(校区同研)が盛んだが、5中校区同研は形骸化していた。

 当時荒れていた中学校を見、そして中学生の「荒れ」を目の当たりにしたとき、校区同研の建て直しを目指して1995年に立ち上げられたのが「5中校区連絡会」である。

 この校区連絡会の活動、そして各校での学校と地域の協働の取り組みが図られていくことによって、「子どもを幼・小・中11年間の取り組みの中で育てていくのだ」という意識が教師全体へと徐々に浸透していった。

 その他、学校と地域との協働を加速させ、両者の間にあった壁を一挙に取り払うきっかけを与えた「フェスタ」、そのフェスタに向けた共同制作の場面の記述など、現場の生の声を拾いながら松原5中校区の協働的実践の“秘密”の一端を明らかにしたつもりである。

 また、従来までの「地域教育協議会」の取り組みが、地域主導の取り組みへと発展していく兆しが見え(池田寛編『教育コミュニティハンドブック』などにも紹介)、今後の動きからも目が離せない地域である。

 ラポールを大切にしながら長短をハッキリと書かせてもらったこの報告書をもとに、5中校区では新たな提案や活動が展開されている。読者それぞれの地域活動に何がしかのヒントになれば幸いである。