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書 評
 
評者西村寿子
研究所通信267号掲載
森田ゆり

『多様性トレーニング・ガイド─人権啓発参加型学習の理論と実践』

(解放出版社、2000年10月、B5版303頁、定価3600円+税)

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 本書は、月刊誌『ヒューマンライツ』に2年間にわたって連載していた記事に筆者が大幅に加筆修正したものである。

 筆者の森田ゆりさんは、日本に子どもへの暴力防止トレーニング(CAP)の紹介者としてよく知られている。

 森田さんがトレーナーとして活躍していたカリフォルニア大学では、公民権法とアファマティブ・アクション(積極的機会均等政策)という法律にもとづいて、雇用、人事、事業契約、授業研究計画に至るまで指導を行ってきた。そのようなアプローチは、組織が差別問題に迅速に対応するシステムの整備には役立ったけれども、個人の意識を変革するには不十分であるという指摘に応えて、個人が主体的に人権問題を考える職場環境を整備すること、個人の個性を生かしながら共同性を形成するための研修に踏み出そうとしていた。

 本書は、森田さんがカリフォルニア大学でアファマティブ・アクション主任アナリストの職にあって、上のような目的で大学の教職員に差別と偏見、人権問題、多様性・多文化共生社会の研修指導をしていた時に執筆したテキストである。

 また、本書でいう「多様性」とは、人種や民族の違いにとどまらず、ジェンダー障害の有無、年齢、宗教、性的指向、家族形態の違いなども視野に入れた幅広い概念である。

 全体は、大きく理論編と実践編に分かれており、理論編は多様性の理論(第1章)、参加型体験学習の理論(第2章)、さらに実践編はアイス・ブレーカー(第3章)、気づきのトレーニング(第4章)、知識のトレーニング(第5章)、スキル・トレーニング(第6章)から構成されている。

 筆者の『エンパワメントと人権』は、98年4月に刊行以来9刷りと多数の読者に支持されている。本書は筆者のエンパワメントの思想を職場や地域社会で差別や排除ではなく共生のガイドとして具体化したところに大きな魅力がある。

 職場や地域で人権啓発に携わる方々にぜひ手にとっていただきたい。また、啓発の企画者や実践者でなくても『エンパワメントと人権』に魅了された読者にとって、日常の人間関係の結び方などにおいて大いに参考になるだろう。