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書 評
 
評者N.T
研究所通信258号掲載
葛上秀文

「子どもたちの生活と自尊感情
—アンケートクロス集計と分析を通じて—」

(『大阪の子どもたち―子どもの生活白書1999年版』
大阪府同和教育研究協議会1999年11月、B5判251頁1500円)

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 本論文は、大阪府同和教育研究協議会が実施した子どもの意識調査のクロス集計と分析である。元になる意識調査は1999年の2月に大阪府内44小学校の1940名の小学6年生、同じく21中学校の1788名の中学3年生を対象に行われたものである。

 論者は、「子どもが自分自身を肯定的にとらえているかどうかによって、学校生活や家庭生活の考え方が異なってくると思われる。」という仮説に基づき、自尊感情に着目した。その際「自尊感情尺度」という一定の「ものさし」をつくることで客観的に自尊感情と子どもたちの生活や人権感覚、或いは社会観との関連について分析しようと試みた。

 この尺度がどれほど有効性のあるものかはわからないのであるが、結果を見渡したときに確かに一定の方向性は示されており、主観的には自尊感情と様々な事項との関連がよく口にされるのであるが、客観的にその関連を解き明かす道筋として成功しているのではないかと思われる。「自尊感情の高い者のほうが、家庭でも学校でも満足感を持って過ごし、将来に対しても肯定的なイメージを持っていたことがわかった。」と結論づけられているがその通りであろうと思われた。

 ただ「いじめ」に関する調査については、アンケートに答えている子どもたち自身がどのような状況について「いじめ」と認識しているかについてかなり個人差があると思われるので、分析結果の信憑性がどうなのであろうかと訝ってしまう。

 結論の部分に対しては2点意見がある。1点目は、女子と男子の違いが少し触れられているのだが、ジェンダーの視点からの分析がもう少しつっこんでほしかったということである。

 2点目は友達関係の問題である。論者は「学校としても、子どもたちの視点に立って、友達関係に気を使っていかないといけないであろうが、一方で、子どもたちの中で同年代の友達と作り出す世界があまりにも強くなりすぎていないか、危惧を覚える。・・・・学校においても、集団づくりは大きな意味を持つが、そこに力点を置きすぎると、子どもを追い込んでしまう危険性もある。」と述べているが、その様な危険性が生まれるのは、集団づくりのありよう、教師の関わり方の問題であろう。むしろ子どもたち同志の関係は希薄になっていて、一人ひとりの子どもが本音でつきあえる友達関係を求めているのではないか。

 人間関係づくりが不得手で、学ぶ場の少なくなっている今の子どもたちに対して今こそ「集団づくり」は大切なのではないのだろうか。そして従来の、それぞれのイメージとして捉えている集団づくりについての議論が大切な時期にきているのではないかと思うのである。

 しかし、現象だけをみるのではなく、このように子どもの自尊感情との関わりに着目しての調査は注目すべきである。更にこのような調査が広く行われることが望まれる。そして、分析の深まりの為には、多くの人がこの結果に実際に目を通し活発な議論として発展することが必要であると思うのである。