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書 評
 
評者N.T
研究所通信248号掲載
長尾彰夫

「総合学習をたのしむ」 シリーズ
「カリキュラム改革と しての総合学習」1

(アドバンテージサーバー、B5判151頁、定価1600 円)

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 2002年を控えて総合学習をどうしていくのか、不安や狼狽が少なからず蔓延している教育現場にとって、読みやすい、わかりやすいシリーズが出た。

 このシリーズは6冊で成っており、表題どおり総合学習をとおして、「カリキュラム改革」ひいては「学校改革」を促していくといったスタンスで編まれている。そして、その改革のキーワードは、学校を子どもにとってたのしい場所にしていくということである。

 第1巻の「総合学習をたのしむ」。まずこのタイトルがいい。6冊の中で、この巻のみが、長尾彰夫氏単独で書かれたものであり、このシリーズの表玄関として、総合学習とは何かといった総論がわかりやすく述べられている。

 筆者はこれまでの学校観、学習観について、「たのしい将来、明るい未来を手に入れるためには、今、ここでのたのしみを犠牲にしてでも頑張らなければならない」といった「未来投資型」の学校観、学習観であったとし、そのことが子どもたちの「いま」と「ここ」を犠牲に成り立ったのだと述べている。そんな学校を「たのしい場所」に。子どもたちの学びを「ワクワク、ドキドキするような発見と喜びに満ちたものである」ものにしていくためには、大胆な学校改革、カリキュラム改革が必要であり、総合学習は、その改革の焦点になるというのである。

 そのためには、まず教師自身が「総合学習をたのしむ」姿勢でいられる必要があるだろう。しかし勿論、この本の中でも随所で語られているように、総合学習を実践していくには、様々の難しさがあることも事実である。特に危惧されるのは、大幅に時間削減される他の教科学習との関わりであろう。平たく言えば、子どもたちの基礎学力がきちんと保障されるのであろうか、といった問題である。この点で、特に重要な指摘をしているのが、「第5章 私たちのめざす総合学習」である。それは、?興味・関心・経験・体験を大切に、というだけでは戦後の失敗をくり返す、?どのような学習のテーマをどのような立場、視点からとりあげるのかが重要、?教科の学習との接点が大切、?合科学習やクロス・カリキュラムとの違い、の4点を指摘している。

 だが、そんな難しさにただ顔をしかめているより、目の前の子どもの姿を見つめて、その様な困難も含めて改革をたのしむパワーを、学校は持ちたいものである。そこから、困難を克服し、逆に他の教科学習をも変革していく道が開けていくにちがいない。

 解放教育の側からいうと、これまで部落問題学習、人権学習として、地域と結び子どもを中心にした様々の実践を積み上げて来た歴史がある。総合学習によって、それを土台にさらに発展させていく場と時間を、望めば実現できるのである。その可能性をどう見出していくのか。そういった視点で、このシリーズを読み進めていきたい。