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書 評
 
評者N.S
研究所通信237号掲載
苅谷剛彦

教育における不平等と<差別>
―不平等問題のダブルスタンダードと「能力主義的差別」―

『解放教育のアイデンティティ』
(明治図書、1997年3月)

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 著者は『大衆教育社会のゆくえ』(中公新書)で、?日本の教育界の差別のとらえ方=「能力主義的差別」は欧米の「社会的カテゴリーに基づく不当な差異的処遇」という差別の本来のとらえ方とは全く異質であり、?学力格差の背景には子どもの家庭的背景がある以上、学校はさまざまな階層間格差、不平等を再生産するにもかかわらず、「能力主義的差別」(=成績による序列化)さえなければ階層上昇はありうるという学校への“平等神話”、を明らかにした。

  本論文は、こうした問題意識の下、部落の生活実態や社会の差別意識と結びつけて認識してきた、解放教育における差別のとらえ方と、上記の日本の教育界の差別のとらえ方との矛盾をどう調和されてきたのか、その影響(解放教育へも含めて)はどういうものか、を鋭く指摘している。

  第1に、教育の不平等を部落問題に限定し、他の不平等問題を隠蔽するという不平等問題のダブルスタンダードを作ったこと、第2に、部落と部落外との簡単な比較だけで部落差別の問題性を“十分”告発できたのみならず、これまでの学力調査が結果的にはダブルスタンダードを“補強”しかねないこと、ということである。そして、不平等問題のダブルスタンダードを突き崩していく厳密な実態分析―学力差のうち、どれだけが「差別」によって生じ、どれだけが親の学歴や職業などの「単なる階層差」から生じたのか、部落外の子どもも家庭状況によって大きな学力差の存在していることetc.―が重要な課題としている。

 ただ最後に、部落と部落外との学力差「(差別)はなくなっても、教育における不平等は残る可能性が高い」という指摘には、疑問が残った。