現在、企業の活動は、国際化し、時に一国のGDPを越える資産をかかえるほどになっている。そして、企業の振る舞いの一つひとつが、大きな影響を個人から社会、地球全体に与えている。しかし、そのことは1つの商品を作り、販売するためにより多くの人々を経営活動に関係させていることにもなる。
国連における人権・労働・環境をテーマにした「グローバル・コンパクト」(地球契約)の提唱やILO条約の批准、ISO(環境)やSA8000(労働)、AA1000(企業説明責任)、ECS2000(企業倫理)などの国際規格の策定は、企業活動を通じて社会に良い影響を与えるための取り組みといえる。それは、企業が発展する過程で獲得した労働や環境、消費者や株主、地域社会などの関係者との問題解決の取り組みを活用することでもあり、関係者は、企業がそれをより積極的に取り組み、発展させることを望んでいる。
そして、その要望に企業がこたえることは、商品やサービスがつくられる過程についても意識し、企業評価のひとつとして考える人々を味方につけ、競争力につなげることになる。例えば、多くのNPOはそれぞれの問題意識から企業の取り組みを評価し、公開している。これらは、社会的に企業イメージを形成し、購買行動に影響を与える。あるいは、社会責任投資ファンドを通じて投資を行う際の基準にもされている。
また、法律による優遇や規制、行政やNPOによる賞や格付けなどで企業が社会的責任を果たすための環境が整備されてきている。
アメリカの経済優先順位研究所(CEP)では、「企業の良心賞」を設定し、毎年、社会責任を果たしている企業を表彰している。女性に取り組む企業に対しては、カタリストというNPOが賞を設定している。
一方、評価の低い企業に対しては、行動を促すための要請行動がとられている。
以上のような、多方面からの企業への期待と社会的な要請にこたえる企業もたくさんある。自社の経営理念の柱に倫理を位置づけ、差別の禁止や社会貢献などを明文化し、社内システムを改革している。NPOと協力し、マイノリティや地域社会に本当に必要な援助を行う。機会を捉えて、人権について発信をしていく。
これから企業が社会的責任に取り組むことは、恩恵的な施策や単なるイメージアップではなく、企業も関係者もプラスになる社会システムの構築につながっていく。本書のメッセージにいかに応えていくかが問われている。