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経営にかかわる倫理的な姿勢や行動は、銀行不祥事などが取りざたされたころに比べて少し下火になったとはいえ、なお強く企業に要請されている。一方、何をしてでも自由な経営活動が企業を発展させ、やがて社会を発展させるという考え方も説得力をもって現代社会に存在している。そして「倫理」が経営とは矛盾するもの、足かせとして捉えられている。
しかし、多くの企業においては、これまでにも社是、社訓として公共性や人間尊重といった価値観が経営の指針や企業文化の中心に位置づけられ、実践されてきた。
また、今日のグローバル化、情報化した社会においては、世界的な規模で企業は監視され、ランク付けされている。それは高度な科学技術や国家を超えた経営活動が後戻りできない程の甚大な被害や影響を人権や環境、社会に与えるからである。
あるいは、企業の不祥事が噴出することで、企業はその社会的信用を失墜させ、競争力を失うことになる。
そこで企業は、自ら人権・環境を守り、よい影響を社会に及ぼし、公正な取引をおこなう存在であることを社会に示す必要がある。そして、そのことは不祥事により法的、社会的に被るペナルティを未然に防ぐことにもなり、企業内で働く人々にとっても信頼に値する企業に働いているという自信を形成することにもなる。
アメリカにおいては、1960年代から企業倫理が注目されはじめ、法律やさまざまな制度(児童労働問題にかかわるSA8000など)が実施され、企業内の体制や研修が構築されてきた。しかし、日本においては10年ほど前から注目をされはじめたところで、担当部署のある企業は、まだまだ少ない。
本書は、そのような日本国内の状況をふまえ、麗澤大学において検討、作成された「倫理法令遵守マネジメント・システム規格」を紹介している。略称「ECS2000」というこの規格は、ISOのように計画、実行、監査、見直しのそれぞれが要件事項なっており、その要件を満たすことで企業倫理を確立し、役員をはじめ従業員一人ひとりにまで倫理的な行動を促すことを目的としている。
しかし、このことは企業のみならず、行政をはじめ多くの組織にも今後、求められることになるのではないだろうか。社会との関わりを意識し、倫理に照らして行動の基準を定め、組織内の人々に徹底し、実行されているかをチェックし、社会に対して公開していく。このことが、組織と社会とに適度な緊張感と良好な関係を作り出していくことにつながっていく。