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書 評
 
評者N.T
研究所通信272号掲載
富永一夫

多摩ニュータウン発 市民ベ ンチャー NPO「ぽんぽこ」

NPOフュージョン長池(NHK出版、A5判209頁)

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 著者の富永一夫さんは、以前この通信で紹介させていただいた「秋津コミュニティ」の岸裕司さん、また、今回通信で報告させていただいている貝塚北小「ふれあいルーム」の油谷さんとも共通する、自称「地域に帰ってきたお父さん」である。長年勤めていた会社に辞表を出し、現在NPO「フュージョン長池」の初代理事長をしておられる。

 「多摩」「ぽんぽこ」というとアニメ映画の「平成狸合戦ぽんぽこ」(スタジオ・ジブリ制作、高畑勲監督)を想起される方も多いと思うが、まさにそこからネーミングを考えられたそうで、富永さんによると現在進行形で「平成狸合戦ぽんぽこーPART2」を展開されているそうである。

「今、自分たちは、ある意味ではこの多摩丘陵に長年住み続けてきた方々の犠牲と環境破壊のうえに暮らしている。」「でも『その後のぽんぽこ』では、気のいい利他的精神あふれる新しく住みついた人々と、コミュニティの現実を受け入れて共存を図ろうとする先祖代々この地に暮らしてきた人々とが仲良く楽しく暮らしている姿が描かれればいい。」と述べ、事実その事を実現しながら「楽しく活動」しておられるのである。

本書は、そんな富永さんが多摩ニュータウン「せせらぎ団地」に引っ越して来られた1994年から、NPO「フュージョン長池」を立ち上げて現在に至るまでの経過を年代を追ってまとめられた大変読みやすく、読んでいて元気のでてくる本である。そして、人との出会いがどのように連鎖してネットワークに成長していくのか、まちづくりを考えるときにどんなことが大切であるのか、筆者の実践を通して貴重な教訓が語られている。

 秋津コミュニティや、貝塚北小校区の取り組みに重なる点は、参加者が無理をしないで楽しく参加できるスタイルを作る事を大切にしておられる点、しかし、その中でキーパーソンになる方の位置や役割が要所に見えていることであろう。また、学校を地域の貴重な資源としてコミュニティに活かしていこうという発想も共通している。事実「長池小学校」において、「夏休み40日間連続開放講座」という取り組みを成功させておられる。

 また、特筆すべきは「電子井戸端会議」と呼んでおられるインターネットを活用した取り組みである。例えばまつりのテントの位置をどうするかといった問題でも、一度も集まらずにメール交換で解決してしまったという。インターネットの活用が、忙しくて実際上集まるのが難しい方をも巻き込んでの活動を可能にしたのである。地域で酪農を営んでいる方の冷蔵庫が壊れてしまったときは、メーリングリストを活用して即座に冷蔵庫の中身の牛乳を完売してしまったというからすごい機動力である。

 「まちづくり」を考えるときに、或いは「教育コミュニティ」のあり方を考えるときに、その地域の特性を活かし、人のネットワークを大切にすすめることの重要性を本書は提示している。是非一読をおすすめしたい。