「部落民とは、何か」「何をもって部落民と規定するのか」、経済的・社会的・文化的に部落民を規定するとどうなるのか。また、部落解放が実現された社会とは、どういう状態なのか、議論は、百家争鳴である。
他方、現実の日々の部落解放運動のなかで、そのこたえを模索しながら運動は、進められている。
本稿は、解放理論をめぐって、現在どのような内容で議論がなされているのかを、代表的な意見3つをとりあげて、秋定嘉和・野口道彦・北口末広・渡辺俊雄の四氏で検討している。
その1つは、奥田均さんの『人権のステ−ジ』(解放出版社、1998年)で展開されている「心理面」「実態面」における「加差別」の視点。2つめが、藤田敬一さんをはじめとする「こぺる」の議論(『「部落民」とは何か』阿吽社、1998年)。
差別・被差別の関係を絶対化しない、組織も団体も何も代表せず個人として部落問題にかかわり、立場を問わず議論し、「両側から越える」という視点である。
3つめが、杉之原寿一さんをはじめとする融合論の考え方。「『新たな解放理論の創造』を放棄した解同」『部落問題研究』142輯、(部落問題研究所、1997年)である。
論点は、以下の5点である。
「部落民としての解放」か「部落民からの解放か」について。
部落民概念について。
部落民の規定については、先住民族を規定する4つの指標を部落問題にあてはめると、属地性(地縁)、属人性、自己認定性と被差別性という指標で見ることができるのではないか。しかし、自己認定性という概念が、非常に重要になって来る。
部落の完全解放された社会とは?また、どんな社会をめざすのか。
制度的差別----社会的差別-----個人的差別というスケ−ルで見ると差別を支持する社会規範があるかないかによって、差別の位置が決まる。
社会システムと意識について。
差別する側にまわったら損をするような社会システムをどうつくるか。
部落民のアイデンティティについて。
部落解放がなされた状態がどういうものなのか理論的に明確になっていない状況の下では、理論より運動・実践が先行することも多々あると思われるが、本稿を一読いただき、「部落民とは」を考える機会にしていただきたい。