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評者s.k
研究所通信254号掲載
岡本太一

卒論 若い世代からの発言

「若い世代の被差別部落認識に関する一考察」

(『解放教育』380号、解放教育研究所、1999年8月)

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 本論文は被差別部落出身者が大学の卒業論文で部落問題を取り上げ、筆者の経験をベースに被差別部落の中・高生への聞きとり調査や、教育実習・子ども会へのインタビューを加えた形で論文を構成している。

 若い世代に対して、「被差別の共通した実感がなくなり」「反差別の感性が弱まり」「立場性の自覚への意識が薄らいでいる」といった課題が教育現場などで指摘されているが、その課題に対して疑問を持った筆者が、その現状認識を肯定しつつも、それは一側面でしかない事をいくつかの事例を挙げて指摘している。

 まず、自身の体験を振り返っている。次に、中・高生へのインタビューや聞きとりを取り上げて、見えにくくなっている被差別部落出身者の現状を浮き彫りにしている。反差別の感性が希薄な子もいるが、そうではない、今も昔もかわらない差別の重みを背負っている若い世代も存在している。その現状を把握するともに、中学までの実践の見直し、この課題を明らかにする事が求められると結論付けている。

 若い世代がどのような考え方で、自身について、部落問題について、差別について考えているのか、感じているのか、という事は少なからずとも、子ども会などの取り組みの中で今までも把握されていることではないのだろうか?そのことに対して、どのように対処するのかという具体的な課題も出されて実践されているのではないのだろうか?

 しかし、その前提の部分を、被差別部落出身者から改めて指摘しなければならないというのは、若い世代を取り巻く環境・取り組みが、このままではいけない時期に来ているからだと思う。私自身、中学を卒業したら部落問題に関わりたくないとも思ったことがあった。私自身の心とは別なところに部落問題がプレッシャーになって存在していたからだ。それでも部落問題に関わっているのは、色々な人との関わりがあったからだと思う。若い世代の反差別の感性が希薄になってきている、仲間作りが難しいというが、それは、若い世代を取り巻いている側の感性や関係が希薄になっているのも大きな一因ではないだろうか?