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書 評
 
評者中村清二
研究所通信253号掲載
岩田正美

御坊市民の生活実態と自立支援の可能性に関する研究
―御坊市民の生活課題と福祉資源に関する研究報告―

(御坊市、1997年3月、B5判158頁)

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 『部落解放研究』127号(1999年4月)の平山洋介「島団地再生事業の挑戦―まちづくりの新しい方法」で言及されているように、和歌山県御坊市の島団地の再生のため、(1)個別世帯へのソーシャルワーク・プログラム、建て替え事業を基軸としたハウジング・プログラム、地域社会形成を支援するコミュニティプログラム、の3つの領域の施策を包括的に推進すること、(2)そのための組織として「オンサイト」(現地立地)かつ横割の行政組織の設置、そして(3)住民参加、の3点が取り組まれている。

 本書は、その流れの中で実施された調査研究結果をまとめたものであるが、タイトルにもみられるように、部落問題を「市全体の住民生活の把握の中に位置づけ直し、従来とは異なった角度からの福祉支援のアプローチを模索」しようとしている。即ち「問題集中地区という捉え方は、この地区以外の生活問題の所在の関心をどうしても希薄にしてしまう傾向がある」「生活問題集中地区とが集中層という捉え方をする場合、その中での問題や多様性が見失われがちである」「問題の解決=特に福祉行政の課題を考える場合、「問題地区」や「問題層」への支援策の集中的投入は、一方で効果的であるが、他方で他の地域との差異や亀裂を拡大する傾向を持つ。むしろ「問題地区」の問題解決を、その積極的選別による集中的福祉支援策の投入だけでなく、同時に地域全体の福祉課題との共通性の中で模索する方向でこの報告書を模索したい」(5〜6頁)としている。

 調査の具体的特徴としては、(1)御坊市を公共住宅、民間借家その他、3つの居住地域、の5類型とし、補助的な分析区分として世帯類型、職業階層、居住歴、世帯主年齢とし、(2)個別的、自立的な生活の多様性に焦点が当るように、家族、親族や近隣とのインフォーマルな関係と援助のやりとり、社会活動への参加や公的制度利用、生活意識や価値の項目の設定、(3)「福祉資源」の評価、etc.がある。

 さまざまな新しい視点を提起されており、今後の生活調査や行政施策を考える上で、興味深い書である。