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書 評
 
評者中村清二
研究所通信250号掲載
斎藤達三編

実践 自治体政策評価

(ぎょうせい、1999年2月、A5判281頁、定価3000円)

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 昨年6月公布施行した中央省庁等改革基本法は、4条で改革の基本方針の一つとして「政策評価機能の強化」を規定し、29条でそのための措置として 1 各府省での評価部門の確立、 2 府省の枠をこえた政策評価機能の強化、 3 政策評価に関する情報公開の推進と国民に対する説明責任の明確化、を規定した。

 さらには、地方分権化にたえうる自治体の政策形成能力の向上と体制つくりから、既にいくつかの自治体で「政策評価」のシステム化は始まっている。

 そして、部落解放同盟大阪府連の要求書や江橋論文(本通信240号で紹介)でも、その「政策評価システム」の中で基本的指標として「人権」を明確に位置づけることを求めている。

 本書は「人権」という視点に直接、焦点をあてたものではないが、その前提となる、第1に、「政策評価」システムを導入する上で必要とする基礎的な考え方と実践方法(特に「評価指標」の設定etc.)が提案されている。第2に、具体的な事例として、先進的取組みをしている三重県、川崎市、高砂市、そして岐阜県のケースを示している。ただし、前者は、広い分野の事業を一括して対象とするモニタリング(監視)システムで、かつ三重県は約3300に及ぶ事務事業、川崎市は中期計画事業(実施計画)、高砂市は基本計画の施策、とそれぞれ対象が違う。後者の岐阜県は、美術館・博物館という個別政策事業を対象とする特定評価分析である。

 特に三重県の場合、新総合計画「三重のくにづくり宣言」(1997年11月)における政策体系として、基本方向→政策(20)→施策(67)→基本的事務事業(約500)→個々の事務事業(約3300)があり、「政策」の一つに“人権の尊重”が、「施策」でも“人権施策の総合推進”“同和対策の推進”“男女共同参画社会の実現”の三つが明記されている。そして「事務事業目的評価表」で政策評価が具体的になされ、1998年2月には県民に公表されている。また、今後の課題として、指標の精査、評価精度の向上(公共事業、教育、福祉事業など事業別の評価方法と分析方法の検討)、住民参加のモニタリング、データベース化等々が指摘されている。

 現在進行形だが、極めて興味深い試みである。また領域は全く違うが、行政だけでなく、民間組織さらには個人に関しても、政策評価、自己評価のシステムの確立が求められていることを痛感させるものである。