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研究所通信244号掲載
早稲田いのちのまちづくり実行委員会編

ゼロエミッションからのまちづくり

(?日報、1998年7月刊、A5判207頁、定価2000円)

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 「ゼロエミッション」とは国連大学が提唱した概念で、「地域や事業所から出るごみをリサイクルなどで減量し極力ゼロに近づけること」を意味している。

 早稲田大学を中心にした7つの商店街では、96年8月の「エコ・サマーフェスティバル・イン早稲田」の取り組みをきっかけに、リサイクルを中心としたユニークな循環型まちづくりが積極的に進められている。本書はその取り組み内容をまとめたものであるが、早稲田という地域特性はあるものの、それぞれの地域での「まちづくり」や「環境問題」について大いに参考になると思われる。

 早稲田では、大学周辺の企業人(焦点経営者)有志が街を活性化することを目的に仕掛けた活動に多くの人(他の市民や企業、行政)を巻き込んできたという特長があり、早稲田に住んでいない人も一部に参加している。結果として地域社会に役立てばいいという気楽さを持ちながら、何かを実行するに際しても、手続きや順序はあまり気にせず、やるとなったら翌日からでも取り組むという足腰の身軽さがある。この軽快さを保障している大きな一因として、パソコンとEメールが見事なまでに活用されており、その活動範囲は海外にまで及んでいる。

 おもな活動は、リサイクル部会、情報部会、震災部会、地域教育部会、バリアフリー部会、元気なお店部会の6つの部会を中心にそれぞれユニークな取り組みが展開されている。とくに「商店街ごみゼロ平常時実験」は、学者がおこなう実験や行政のモデル事業的な実験でもない「社会実験」という範疇に近い取り組みがされており、地域教育やバリアフリーの部会ではバリアフリーをさらに一歩進めた「ユニバーサルデザイン」の研究など、実に内容も豊かである。

 とにかく、読んでいて「人」の元気さが感じられ、なによりもいろいろな情報を流して全員で「共有」しようとしているところに感心させられる。環境問題やまちづくりの取り組みは、地域によっていろいろな可能性があるものの、結局は、人と情報、そしてそれを有機的につなげていける自発的な楽しい組織がキーポイントなのだ、というところであろうか。