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書 評
 
評者柴田昌美
研究所通信240号掲載
平山洋介

ワークショップ・ハウジング
―島団地再生事業のプロセスとその意味―

(御坊市、1998年3月、B5判237頁)
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 本冊子の主題は、和歌山県御坊市の日高川沿いの同和地区内に位置する島団地(223戸、建設時期1959年〜69年)が、住民参加による建て替え・再生事業の実施にむけて取り組んだワークショップについての考察である。

 居住者の多くは生活基盤が不安定であり、住宅のハード面の老朽化と居住空間の混乱、コミュニティ機能と自律性の減退、公的施策の空回りなど、多くの困難を抱える地域でこそ、住民参加による再生事業に着手された意義は大きい。しかし克服すべき課題もまた大きい。

 そうした中で、本再生事業に専念すべく“オンサイト”かつ“横割り”の行政組織として御坊市が設置した「島団地対策室」と、既存の街づくり委員会を改組して発足した住民組織「みなおし会」に建築専門家が加わっての計画づくりにおいて、ワークショップを「結節点」と位置づけ、1995年度から10期にわたる建て替え事業のうち、すでに実施した1〜3期のワークショップ(住戸空間と共用空間を含む)のプロセスを意味について分析している。

 ワークショップが「結節点」であるとの意味は、?住宅の建て替え計画そのものへの寄与を直接の目的としつつ住民の生活実態に合致したケースワークおよびコミュニティ・プログラムとの連動、?再生事業に関与する主体―住民・行政・専門家―間の関係形成と深化、?順次着手する期ごとの成果と経験の総括と継承の三点から位置づけられるとともに、そのプロセスは現実の居住空間に存在する矛盾・対立・緊張―制度空間と非制度空間、行政の権限と住民参加、公的空間と私的空間、等々―を可視化した上でそれらの臨界点を見出していく営みだとしている。

 したがってそこでのワークショップは「(住民参加を標榜するための)手続きのための演出」ではなく、具体的な問題状況に向き合う中から上記の矛盾・対立・緊張を明らかにした上で、それらの相互貫入と、分離した役割分担の中断、越境、関係づくりを意味するのだという。

 既存の「団地」のリニューアルにとどまるのではなく、(ハードとソフト、公と私、多様性と統一性を併せ持った)「立体の街」の創出をめざす本再生事業は、その舞台がこれまで大きな課題を抱えてきた中での挑戦だけに、同和地区をはじめとするさまざまな地域の再生を目指す街づくりの取り組みにとって大きな示唆を得ることができる。関係者の努力に声援を送りつつ今後の展開に注目していきたい。

参照:平山洋介『公営・改良住宅のスラム化とその再生計画の展望』(御坊市、1991年3月)