Home書評 > 本文
書 評
 
評者N.S
研究所通信239号掲載
古川孝順・庄司洋子・三本松政之編

社会福祉施設―地域社会コンフリクト

(誠信書房、1993年3月、181頁)

-----------------------------------------------------------------------------

  施設型から在宅型へと福祉の流れが大きく転換すると共に、障害児・者施設や高齢者施設etc.も地域社会において充実が要請されてきている。この中で、これらの施設と地域社会との関係は改めて問われてきている。

 本書は、従来の「施設社会化論」という枠組みの限界と「コンフリクト」(抗争事態、緊張関係)という用語を用いて両者の関係を新たな視点から分析したものである。具体的には、埼玉県の養護施設と横浜市の障害児・者施設(7事例)の開設に際してのコンフリクト事例を中心に分析し、それを裏づけようとしている。

 「施設社会化論」とは、社会福祉施設―地域社会関係における緊張・抗争事態を、社会福祉施設=善、紛争は地域社会の福祉施設に対する偏見・無理解に起因、施設は所有する施設設備や機能を地域社会の利用に開放し、その理解を促していくべき、という考え方である。

 しかし、こうした施設の側からのみの視点だけでは不十分であり、施設と地域社会との間の意識、価値観、あるいは利害の対立とそこから生み出されてくる緊張・抗争関係という、双方向的な事態であり、単に相互に中心をなす組織や集団間に葛藤をもたらすだけでなく、それぞれの組織や集団の内部、さらには構成員の個人の内面にも強い葛藤をもたらすものであり、こうした視点より、「コンフリクト」を時間的、空間的に分析していくことの必要性、そして「コンフリクト」を長期的にみれば両者の間により積極的な良好な関係を発展させる契機としても分析しうる可能性があること、等を提示している。

 部落関係施設(屠場、公営住宅、解放会館、校区編成etc.)をめぐっても、こうした緊張・抗争関係はあったし、現在進行形のものもある。部落問題関係施設の場合、社会福祉施設と比べて、部落解放運動という強力な住民運動の存在と「同対審」答申に基づく差別撤廃のための同和行政の存在、という違った要因があるが、「校区レベルでのまちづくり」を考えた時、こうした視点よりの再整理の必要性を痛感する。