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書 評
 
評者竹下政 行(弁護士)
研究所通信231号掲載
部落解放・人権法令資料集 第二版

(A5判、309頁、2700円+税)

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  私が、本書の第1版を購入したのは、まだ私が部落解放研究所でアルバイトをしているときのことではなかったかと思う。そのときには、法務省人権擁護局監修の「人権擁護六法」の「運動版」として編集されたものかと考え、また、各種研究会などで参考になる法令等が一括されていてコンパクトになっているので、便利だろうと思って手にしたと記憶している。

 それから10年経って、今般、本書の第2版が出版された。個人的には、今昔の感久しく一種の感慨を抱くものがあるのだが、それはともかく、10年の間にこの分野における法令等の進展あるいは蓄積は著しいものがあったのであり、改訂は必然的なことであったと考える。この点、本書が、今後も「法典集」としての意義を担っていくものとされるのであれば、法令等の進展ないし蓄積状況に鑑みて、改訂の頻度をスピードアップさせることが望まれることが望まれるのかもしれない。

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 私は、職業柄、いわゆる「六法全書」等を利用することが多いが、そのような立場から見ても、本書は、一般の「六法」にはない利便性あると思う。

 例えば、本書は、本年5月に成立した「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」が収録されているが、この法典を収録した「六法」は、多分まだないのではないかと思う。また、本書収録の「人権擁護施策推進法」(これは、一般に普及されている「六法」に収録されている模様である)には、法案理由説明及び衆参両議院の附帯決議が添付されているが、これも他の法典集にはないことである。

 これらは、もとより法典そのものではないが、国民の代表たる立法機関の意思の表明であり、解釈運用上の重要な指標であり、参考になるべきことが多いが、一般的な方法で「提案理由」などを参照しようとすると相当の労力を要するからである。さらに、本書には、部落差別の解消等に関わる複数の自治体の条令が収録されているのであるが、これは大変便利である。一般の「六法」には、ごく一部の例外を除いて条令が収録されていることはなく、ある特定の条令を検索して入手しようとすることや、さらには同種の条令を複数の自治体から検索して収録するのは、かなり骨の折れる作業だからである。

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 本書の利用は、解放運動の活動や行政的な実務面での活動のほか、各種の研究会などでの資料として特に有用と思う。先に述べた法典以外の資料にして、法典の解釈や理解に役立つものが厳選されたうえで収録されていて、法典をいわば「立体的」にみることができること、この分野に関して、国連の条約から自治体の条令までを「一覧的」に参照でき、ある問題についての相互の規定のあり方を容易に参照できること、などがその理由である。本書を携えた参加者は、以上のようにして本書を縦横に参照しながら、講演・報告を聞き、問題意識・興味関心を高めていくことが可能となるように思われる。 

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 以上は、「法典集」としての本書の利用・活用を念頭に置いたものであるが、本書の意義は右にとどまらず、コンパクトな「資料集」ということもできるだろう。この分野の諸活動において論及されることの多い行政関係文書や法案等に、簡単にアクセスすることができるし、極々要約的な把握であれば、歴史的な展開過程をも見て取ることができるように思われる。

 多くの方々に本書の参照と活用をお勧めしたい。