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書 評
 
評者N.T
研究所通信268号掲載
鈴木みどり(立命館大学)編

Study Guide メディア・リテラシー[入門編]

(リベルタ出版、2000年8月22日、B5版126頁)

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 本書は、これからメディア・リテラシーを実践したいと考えている者や、メディア・リテラシーに関心のある者にとってはまさに入門書である。実践の為のワークも豊富な中身をコンパクトにまとめてある。また、それぞれの章に記入シートや分析シートがついているのも使いやすい。立命館大学でメディア・リテラシーを研究する大学院生を中心に運営されている「メディア・リテラシーの世界」というインターネット上のサイトを活用することで、それぞれの章に展開されている内容が一層深め広げられるという仕組みになっているのもおもしろい。

 しかし、何よりもメディア・リテラシーという言葉の意味、その基本概念など学習の基礎となる枠組みがやはりコンパクトにわかりやすくまとめられていることが、初心者にとってはありがたい。

 「メディア・リテラシー」という言葉が、単にパソコンを使いこなす力、キーボードがうてる力等の意味で使われている場面にしばしば出くわす。しかし、本書によるとそうではなく、「メディア・リテラシーとは、市民がメディアを社会的文脈でクリティカルに分析し、評価し、メディアにアクセスし、多様な形態でコミュニケーションをつくりだす力をさす。また、その様な力の獲得をめざす取り組みもメディア・リテラシーという。」と定義している。そして「クリティカル」な「読み」とは、やたらにメディアを批判してあたかも「敵」であるかのように全て否定していくようなそういった見方ではなく、「客観的かつ分析的に読み解くことによって、自己の判断にもとづいた自立的読みを導き出すことを意味している。」と明言している。更にその様なメディアに対するクリティカルな読みを深めていく為にはマイノリティ市民の視座が必要であるとしている。

 2002年から小・中学校では総合的な学習が導入され、指導要領によるとテーマとして「情報」も例示されている。また、2003年からは高等学校で総合的な学習、更には情報教育が開始されることになっている。各地の小・中学校、高等学校で、続々とインターネットに接続し、パソコンを使い始めている。その様な状況に振り回されることのない、子どもの成長や学びを見通した学習を進めていくことが必要だろう。その為には子ども以前に教師自身がメディアをクリティカルに読み解く視点を磨くことが必要であるかもしれない。

 研究所の高校部会でもメディア・リテラシーと結んだ総合学習の展開や、人権教材の開発ということで、回を重ねてきた。学ぶに連れて、メディア・リテラシーの中身が人権教育と深い関わりを持っていると感じるのである。本書に示されているワークをそのまま小・中・高の教育現場で実践するには少し難があるかもしれないが、まず教師や大人が実践してみてはどうか。そこからきっと気づきが生まれると思う。

 「メディア・リテラシーとは、メディアとの関わりが不可欠なメディア社会における『生きる力』であり、多様な価値観をもつ人々から成り立つ民主社会を健全に発展させるために不可欠なものである。」と本書のまえがきにある。メディアの洪水におぼれてしまわない為にも、人権という視点からメディア・リテラシーと結んだ取り組みを展開することが、教育現場でも、その他の人権学習の場面でも求められているのではないだろうか