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書 評
 
評者中村清二
研究所通信256号掲載
労働大臣官房政策調査部編

労働者個人情報保護に関する研究会報告書(抄)

(『部落解放研究』第130号、1999年6月)

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 昨年発覚した差別身元調査事件を機に、改めて(1)採用段階での身元調査の是非、あるいは許される範囲があるのかどうか、(2)企業サイドの身元調査に対する無責任な不透明な体質―興信所との契約書がないこと、興信所へ渡す費用の根拠も不明なままの支出、興信所よりの報告書を処分したり担当者の交代で調査目的や結果が正確にわからない等々―、といった問題が大きくクローズアップされている。

 標記の研究会報告書は、採用段階も含めて「労働者の個人情報保護」の視点から、まとめとして(1)管理体制(責任)の整備、(2)情報の保全措置、(3)適正な情報の処理要件(一般原則と収集・保管・伝達等段階ごとの要件)、(4)センシティブ情報の取り扱い、(5)個人の権利(自己情報コントロール権)の行使、(6)労働組合等の役割、(7)民間の労働力需給調整機関に関する保護対策、(8)情報管理規程の策定と遵守、の8項目を提起している。

 ここでは、上記の差別身元調査事件で問われている点との関連でのみ、同報告書のまとめをみるが、極めて重要な問題提起をしている。

 第1は、いったん収集されてしまうと不適切な利用がなされる危険性が他の情報に比べて極めて高いと考えられる、センシティブ情報は特に収集段階での厳正な制限が必要であるとし、各論を展開している。

 採用段階では、「a.人種、民族、本籍、b.政治的宗教的その他信条、c.犯罪歴、d.性的私生活」に関する個人情報は「法令に特段の規定がある場合、又は雇用上の決定に直接必要であって、労働者の事前の説明を受けた上での明確な同意がある場合を除き、収集してはならない」としている。(下線は文責がつけたもの)

 これで明らかなように、「本籍」をわざわざ明示して日本固有の問題である部落問題も視野に入れ、法令上の特段の規定か雇用上の決定に直接必要で、かつ本人の明確な同意がある場合以外は、そうした個人情報にふれる身元調査は禁止されることになるのではないか。

 第2に、企業責任も明確で、情報管理規定を策定し、文書の形式としては「法的な拘束力により遵守を確保するためには就業規則、労働協約レベルであることが望ましい」としている。

 第3に、「使用者(情報管理者)に対して立場の弱い労働者に係る個人情報を保護するため」、「労働組合等の労働者代表の参加・協力を考える必要」があるとし、労働組合の責任、役割も明記している。

 また、報告書作成に先立ってなされたアンケートによる実態調査結果も興味深いものがあり、是非一読を願いたい。