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「あいりん地区の問題」という大都市に集中的に現れる「日雇労働者・失業・ホームレス」の問題に対し、 1 その実態のみならず、 2 「新しい貧困」問題という世界的視野からも位置づけ、 3 現行制度下でもできることと新たな包括的政策課題を提示し、 4 一方で市民の野宿生活者への偏見と差別的まなざしの形成された要因を分析した貴重な本である。
また同書は、社会構造研究会『あいりん地域日雇労働者調査』1997年、西成労働福祉センター『寄宿舎在籍人員調査報告書』1997、98年、あいりん総合対策検討委員会『あいりん地域における中長期的なあり方』1998年2月、大阪市立大学・都市生活環境問題研究会『大阪市における野宿者概数・概況調査』1998年11月、等々のあいりん地区に関する先行調査や検討書をふまえたものである。
ここでは、紙面の関係もあり 2 と 4 について言及したい。
4 の「偏見と差別的まなざしの形成要因」として次の3点をあげている。
第1に、多くの市民は「まじめに働きさえすれば」「本人の努力が欠けているから」として、野宿生活化の原因を野宿者本人の性格や価値観に求めて「異質」視している。
しかし、建設日雇労働者の業者による拘束時間は1日に12時間以上にも及び、恒常的雇用関係が形成されず人間関係も自ずと希薄化し易いこと、平均1日1500円(月4万5000円)する簡易宿泊所に居住せざるを得ないこと、雨天・求人数の減少等で仕事がないと意志に反して「自由時間」として過ごさざるを得ないこと、政府と建設業界が短期・臨時・日雇労働者のために実施している「建設業退職金共済制度」も加入・掛け金収納義務を負っている公共工事の受注業者がその義務をあまり守っていないこと、大阪市単独負担のため自彊館三徳療「生活ケアセンター」(2週間限度で20名)や「高齢日雇労働者特別清掃事業」(登録労働者が多く事業に従事できるのが1カ月に1度)が極めて弱いこと、高齢化等に伴う建設日雇いからの排除は、簡易宿所・飯場住まいから野宿生活への変化を意味すること、そしてその実態は「失業者」であるのに、「雇用政策上はそのように扱わず、野宿生活者(=不定住者)として社会政策上のあらゆる施策から排除される」こと(P.36)等々の実態を市民は見失っている。
第2に、「単身貧困者に対する戦後日本の社会福祉の展開(広い意味で日本の福祉国家体制)が制度的に単身貧困者を「異質」化する視点をもっていたこと」である(例えば国民皆保険・皆年金は職域か地域の「帰属」証明を必要とし「不定住貧困」者を制度的に排除したことetc.。岩田正美『戦後社会福祉の展開と大都市最低辺』ミネルヴァ書房参照)。
第3は、こうした戦後日本の社会福祉や雇用・教育・住宅政策、そして企業社会の展開と不可分に形成された「生活規範意識」である。即ち大学へ進学し、安定した企業へ就職し、一家を構えて自分の家をもつことが望ましいという生活規範である。問題は、この意識がそうでない階層や集団に対する関心を失い偏見と差別的眼差しで「異質」な存在として認識し関わりを拒絶している、ということである。
2 の「新しい貧困」問題として捉える点では、国連開発計画(『人間開発報告書 1997 貧困と人間開発』1997年)は所得保障のみならず、「ベーシックニーズ」の保障、「能力」(自立生活・社会生活を送る上で必要な人間の機能)の保障を求めていること、特にフランスではホームレスの労働市場、住宅、教育、医療、社会関係等「社会への再参入」を支援するため「社会的排除に抗する法」を1998年7月に可決している。こうした視点はまさに部落解放運動が追求してきた問題意識ともいえる。この点からも興味深く読める書といえる。