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書 評
 
評者
研究所通信236号掲載
福岡正則/金明秀

在日韓国青年の生活と意識

(東大出版、1997年2月、A5判、226頁、5800円)

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  「『1993年在日韓国人青年意識調査』の結果は、ある意味ではすでにわかっていたことを、新鮮な論点として、改めて我々に突きつけた」という「終章」の言葉と、計量統計を駆使し在日韓国青年(18〜30歳、800名、在日本大韓民国青年会名簿より抽出)の意識のち密な分析、この2点が本書を一読した際の強い印象である。また、こうした問題意識に基づいた部落問題調査研究の立遅れも痛感した。

  以下、印象深かった調査結果を羅列的になるがいくつか示したい。

  1. 青年においては在日韓国人と日本人の間に教育水準の差異がない。
    本調査父親の7割強が自営業・経営者だが、青年男子は一般従事者が6割強。
  2. 家庭、地域、民族団体、学校等での「広い意味での民族教育」を受けた割合は4割強で、家庭、民族団体、日本の民族学級、の順。
  3. 本人直接の被差別体験は4割強で、日本社会の偏見は6割強が感じている。民族的劣等感は6割強が過去いだいていたが、調査時点では3割強になっている。
  4. 愛着度では生育地と日本が7割強と一番強く、在日韓国・朝鮮人5割、韓国4割弱、統一祖国2割強、となっている。しかし、日本の植民地支配は「きちんと知っておくべき」が5割強。母国へは1回以上行った人が5割強だが、「複雑な気持・疎外感」が6割弱、「愛着を感じた」が4割強。
  5. 本名使用は2割強で、「本名=本当の自分らしく生きる」論に賛成は2割、反対は4割強。通名使用の理由では「なじんだ名前」感覚が7割強、となっている。
  6. 国籍は、「保持」4割強、「こだわらない」3割、「帰化希望」3割弱で、「帰化=民族性喪失」論には6割強が反対している。
  7. 民族的アイデンティティ形成には、家庭内外の民族教育、民族団体への参加、学歴が主要因としてさまざまに獲得・継承され、出身階層、成育地域内同胞数、被差別体験はほとんど影響がない。
  8. 生き方として、多い順に、個人志向型、葛藤回避型、共生志向型、同胞志向型、帰化志向型、祖国志向型、葛藤型の7タイプがある。

 こうした調査結果(方法)に対する分析も本書では当然のことながら十分に加えられているが、その評価は是非とも一読されて共に考えたい。