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書 評
 
評者Ju
研究所通信236号掲載
森田ゆり

エンパワメントと人権

(解放出版社、1998年3月、A5判197頁、1700円)

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 筆者の森田ゆりさんは、子ども虐待、性暴力、家庭内暴力防止に関わる専門家であり、1990年からは7年間にわたってカリフォルニア大学の人権啓発トレーニングの担当者として啓発セミナーを指導してきた。また、現在日本の各地で取り組まれているCAP(子どもへの暴力防止プログラム)の養成講座を指導している。

 本書は、部落解放研究所の月刊誌『ヒューマンライツ』に連載してきたものに大幅に加筆をした本である。 目次を見ると、1.エンパワメントの意味 2.子どもの人権 3.女たちの人権 4.多文化共生 5.癒し:内なる自然と外なる自然、の5章から成り立っている。

 エンパワメントは最近日本でもよく使われだした言葉だが、その理解について筆者は「エンパワメントは力をつけるという意味ではない」とし、「お互いがそれぞれ内に持つ力をいかに発揮しうるのかという関係性」「すべての人がそれぞれの内的な資源(リソース)にアクセスすること」と規定する。アメリカでは1970年代から社会変革の市民運動の中から使われはじめ、今では広く通用しているという。

 筆者は、この内なる力を傷つけるのが暴行、虐待、競争、比較、無視、過剰な期待、差別であるとし、それら否定的な力に対して、知識、経験、技術、援助、共感、信頼、権利意識などの肯定的な力よって取り除くそのプロセスを活性化することもエンパワメントの過程であるとして、具体的な視点や方法論を述べている。 肯定的な力のなかで最も大切なのが権利意識であり、それは自分をかけがいのない存在だと思える心のありようから生まれるとしている。

 本書は、理論的にも新鮮に感じたし、また、今日からの子育てや生き方を考えるうえで大きな力になると思う。また、人権啓発トレーナーとしての経験も随所に生かされており、啓発担当者にとっても参考になる。