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『国際人権』を武器として
人権問題に関心は持っていても、「国際法」的な話になると、つい敬遠してしまうという人は結構多いのではないだろうか。本書は、そのように敬遠されがちな「国際人権」のしくみ(本書で使われている「国際人権」という用語は、「国際的人権保障」の略語である)を多くの具体的な事例を交えて、非常にわかりやすく説明してくれる。
ただし、本書は「国際人権」の詳細な解説書を目指したものではない。むしろ、「ただ知識をもっているだけでは不十分」とのスタンスから、様々な人権問題と国際人権との関わりを示すことによって、「読者が問題意識を持ち、自分自身で調べ、さらに考えを深めるきっかけとなること」、さらにそれが行動につながることを目指している。
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副題のとおり、本書は「知る」「調べる」「考える」の3部構成をとっている。
まず第1部「知る」では、前半で日本とアジア・太平洋地域における人身売買、戦闘に巻き込まれる子どもたち、障害者をめぐる人権問題についての具体的な事例が示されている。後半では、そうした人権問題に対処するのに有用な「国際人権」の制度化の道すじ―国連による基準づくりと実施のしくみ―が述べられている。「国際人権」の入門者にとっては、世界人権「宣言」と国際人権「規約(=条約)」との違いがわかるだけでも感動ものである。また、条約を締約国に守らせる仕組みとして、「政府報告制度」や「個人通報制度」が紹介されており、人権状況の改善に取り組みたいと考えている個人にとって重要な情報源となっている。
第2部「調べる」では、第1部で知った事実や制度について、さらなる情報を独力で得るために、どういった方法や手段、道具が有用であるかが説明されている。まず前半では、人身売買や先住民族などの問題を素材として、身近な情報源である活字メディア(新聞・雑誌・NGOのニュースレター・図書資料)の利用方法が示され、後半では、インターネットのホームページを活用して人権関係の情報を得る方法が提示されている。ホームページにアクセスして得られる情報の例なども豊富に紹介されており、実際にパソコンを前にしているかのようなシュミレーション気分が味わえる。
第3部「考える」には、読者が人権問題についてさらに踏み込んで考え、それを行動につなげていくためのヒントがちりばめられている。
たとえば、第1章では、人権侵害状況をなくすためには、国内と国際の双方のレベルで法制度の改革を進めなければならないこと、そのために人権諸条約が有力な理論的・実践的根拠となることが指摘されている。
また、第2章は、日本の批准した条約が法体系のどこに位置付くかを押さえた上で、国内の人権侵害状況の解決のために「国際人権」がどのような効用を持つのかを教えてくれる。
第3章は、1993年の世界人権会議とウィーン宣言の紹介を通して、現代の国際社会における重大な人権問題と人権概念をめぐる争点を明らかにし、終章の第4章は、そうした国際社会の現状を再度踏まえた上で、今後の日本の課題を提示している。
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本書を通読すると、「国際人権」が法律専門家の特権分野ではなく、人権擁護活動を目指す個人こそ学ぶべき重要な分野であることに気づかされる。というのは、「国際人権」をうまく駆使できれば、それが構造的人権侵害に立ち向かう際の有力な武器となりうるからである。
ただ、今の日本社会には、「国際人権」を武器として利用できるだけの十分な素地がない。まずは、そういった基盤づくりに向けて戦略を練り、声を上げていくことが、今後の私たちの活動のあるべき方向の1つと言えるかもしれない。
もはや、構造的な人権問題の根深さに怯んでいる暇はないのだと、大いに勇気づけられる本である。