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書 評
 
評者安彦忠彦
部落解放研究132号掲載

中野陸夫・長尾彰夫編著

松原市立布忍小学校 21世紀への学びの発信
―地域と結ぶ総合学習 ぬのしょう、タウン・ワークス―

(解放出版社、1999年7月20日、A5判、230頁、2,200円+税)

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 本書は、松原市立布忍(ぬのせ)小学校の長年の実践研究を、21世紀を目前にしている今、日本全国に発信しようとした、極めて意欲的な意図のこもった内容のものである。編著の中野、長尾のお2人は長年布忍小学校に深くかかわって、同校の先生方と討論を重ねてきた点で、本書をまとめるにふさわしい人たちであるといえよう。

 また執筆者の野口克海さんと『21世紀への学びの発信』編集委員会については、後者や委員については知らないが、野口さんという、広い視野と前向きの柔軟で精力的な教育家がリーダーとなっていることから、同校の実態を熟知した上で、その成果を公平にかつ積極的に評価しうる人たちであるといえる。

 最初に、本書のユニークな全体構成を示しておこう。

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はじめに

第1章「タウン・ワークス」始動

  1. 人権学習の歩みのなかで
  2. 人権総合学習「ぬのしょう、タウン・ワークス」

第2章 これが「ぬのしょう、タウン・ワークス」だ

  • 1年 あそび・なかま:めざせ、「あそびのたつじん」
  • 2年 なかま・ちいき:人と人とのつながりいっぱい
  • 3年 福祉・ボランティア:ぬくもりとふれあいを感じて
  • 4年 しごと:わくわくワーク
  • 5年 国際理解:世界を知ろう=『わくわく・ワールド』―世界の人々との出会いを通して
  • 5年 自分史:自分史と夢を語り合おう
  • 6年 進路・夢体験:トライ・トゥ・ザ・フューチャー

第3章 総合学習「タウン・ワークス」から何をどう学ぶか(長尾彰夫)

  1. 総合学習をどうとらえるか
  2. 気がつけば総合学習
  3. 「タウン・ワークス」から何を学ぶのか
  4. 「ぬのしょう、タウン・ワークス」からの学び方

第4章 チャレンジ 学校改革

  1. 布小教育の創造
  2. 授業改革……多様な学びのスタイルを
  3. 中学校区のネットワーク
  4. 情報教育の推進

第5章 授業改革の課題と展望(中野陸夫)

  1. なぜ授業改革か
  2. 授業改革の道程
  3. 個と集団の力を生かした創造的学習

教育改革へのメッセージ(野口克海+中野陸夫+長尾彰夫)

 以上、あえて長々と目次の概略を示したのは、本書が単なる総合学習の実践研究書ではなく、それを一部として含む学校改革および授業改革の書であることを、はっきりさせたかったからである。まさに21世紀を視野に入れた学校創造の実践研究であり、そのモデルたらんとした志を示したものといえる。


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 学校づくりとしてみると、その特徴を評者は次のようにまとめたい。

 第1は「地域との結合・教育ネットワークづくり」、第2は「総合学習」、第3は「個と集団を生かし、習得学習カードを生かした授業づくり」、第4は「情報教育」、そして最後に、これら全体を貫く「人権学習・人権教育」の5つである。

 第1の「地域との結合」による教育ネットワークづくりについては、「ぬのしょうネットワーク」や「コミュニティレッスン」などが組織されていて、これは評者もここ数年事あるごとに学校関係者に勧めていたことで、布小の事例は今後の21世紀の学校の存在価値を固める上で、非常に有益なものと考える。

 第2の「総合学習」については、これが「人権総合学習」であることと、アメリカの「シティ・ワークス」にならった「タウン・ワークス」として具体化されたものだということに、一つの事例としての特性があるということである。これが日本の「総合学習」の典型でも、最善のものでもないということはすでに編者のいうとおりである。

 この場合「地域」と結び付いた「人権総合学習」だからこのように具体化されたことの妥当性があると思われるのであり、別のテーマをもつ場合や、地域に直結しない総合学習を考える場合は、必ずしもこのようにすることがベストであるとはいい切れない。それぞれの作り方があると考えてよい。

 なお、この「総合学習」という用語は、日本ではすでに大正時代から教科を否定する経験主義カリキュラム理論の立場からのものと、戦後は日教組の1976年の教科としての立場から 唱えられたものとがあり、今回の「総合的な学習の時間」とはともにかなり違いがあり、その違いを踏まえてこの用語を使うべきであると思う。

 英語でどう表現するのか分からないが、ある意味では今度の「総合的な学習の時間」に適用できる一つのタイプないし例として、「総合学習」が位置づくのではないか。


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 第3の「授業づくり」については、考え方の上では評者もほぼ全面的に賛成であり、とくに「習得学習ノート」という道具を使って、学校と家庭をつなぐ工夫をした点は他の学校もおおいに真似をしてほしいと思う。

 実際の成果がどれぐらいであるかをぜひ見てみたいと思う。個と集団については、評者は「個別化」による基礎学力の保障を主張してきたが、最近はその裏となる「個を高め合う集団づくり」を強調している。集団を離れて個は成長しないからである。

 第4の「情報教育」については、本書では十分その実際が分からないが、教師全員がほとんど同じ程度のパソコンの指導能力をもっているとは素晴らしい。今後はこの分野のメデイア活用は必要不可欠であり、世界的な学習と交流のネットワークの活用が期待される。

 最後の第5の「人権学習」が、以上のすべての底流にあることは、決して見逃してはならない点である。このような思想性を、すべての日本の学校がもちうるかどうかが、21世紀の日本の学校の存在理由を決めるであろう。

 その際、まさに「地域」ないし「親や保護者」の信頼を得ることが絶対に必要な要件であり、学校完全五日制や教育行政の規制緩和の流れを、そのような要件ないし条件づくりのために、私たち教育関係者や教育権者である国民(親・保護者)一人ひとりが主体的に生かして行かねばならない。

 本書は、実際の具体像については紙幅の関係もあり十分にしめされているとはいえないが、これから21世紀の新しい日本の学校を構築していくための多くのヒントを蔵しており、とくに学校づくりにかかわる人には、ぜひ一読二読していただきたい。