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まず最初に本著のメッセージを紹介する。それは、「社会責任を果たしている企業が評価される健全な市場。企業も企業を取り巻く人々もハッピーな社会の形成」をめざしたいとする著者の熱き思いである。
著者は、そのような考えから、企業の社会貢献度調査や格付け機関であるアメリカの経済優先順位研究所(以下CEPと略す)ならびに国際労働規格SA8000を認定する組織SAIのコンサルタントとして2年間勤務し、現在は企業とNPOをつなぐために、ニューヨークでアース・セクターという会社の共同設立者として活躍している。
本著は、企業の社会的責任にかかわる欧米の具体的事例を数多く紹介しながら、日本における新しい企業像を提起している。しかも、声高に企業批判をしたり「倫理観」だけを強調するのでもなく、「社会責任は 競争力になる」ということを具体例で示しているので、ビジネスに携わる者にとっても有用の書であり、一読を勧めたい。以下章を追って概要を記し若干のコメントを付す。
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第1章の「企業を見るモノサシの変化」では、社会的な批判を浴びた日本企業の事例をあげたうえで、「企業の社会責任」について三角形の図式を用いてわかりやすく説明している。その三角形の底辺には、「経済責任」をすえて、営利企業として利益をあげ従業員や株主に対する責任を果たすとともに、消費者には高品質な商品やサービスを安価に提供し併せて納税義務を遂行することが、企業の基本的な責務であるとしている。そして三角形の上部には、「社会責任」を置いて、そのなかを3つのフェーズに区分している。
下から順に「法の順守・企業倫理・情報公開」、「寄付やメセナなどの企業市民活動」、そして最上部である三角形の頂点には「ステークホルダーとのWIN・WINな関係」としている。この「WIN・WINな関係」とは、企業が一方的に寄付などをするだけではなく、企業がステークホルダーと連携し相互にメリットのある関係性を経営戦略として追求することをいう。このような動きは、朝日新聞(2001年4月13日)で「企業、NPOに急接近」と報じられたように、昨今大いに注目されている。
企業の社会貢献活動の新たなあり方を考えるうえでも、示唆するところ大である。また、「企業倫理」や「情報公開」が、「法の順守」とともに企業の「社会責任」のベースに位置付けられているが、これは、法規範だけでなく社会的規範も今日ではコーポレート・ガバナンス(企業統治)において必要不可欠な要素であるとの、著書の主張であろう。
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第2章の「今なぜ企業の社会責任か?」では、この社会責任が注目される理由として、著者は、「企業のグローバル化」や「企業間競争の激化」をはじめ「国際組織による人権や環境への配慮の奨励」、「ステークホルダーの行動の変化」、「欧米的価値観の普及」を列挙している。このような事情から企業は、経済的側面のみならず社会的側面からも評価されるのである。
第3章では、企業のグローバル化の進展などを反映して、「企業とステークホルダ ーとの新しい関係」が生じてきていることを、従業員、投資家・株主、消費者に加えて委託企業(取引先企業)さらにはコミュニティ(地域社会)との関係からさまざまな事例を交えて論じている。
労働問題や人権の一例では、スポーツ用品のナイキがある。同社は、インドネシアでの低賃金労働に端を発し、全世界から厳しい批判を浴び、ボイコットが展開されたのである。「企業のグローバル化」は、下請などサプライ・チェーンを含めてステークホルダーへの対応を誤ると、「企業批判のグローバル化」の危険性を秘めているといえよう。
第4章の「社会責任を促すサポーターの動き」では、企業、NPO・NGO、メディア、コンサルティング会社、広告業界など幅広い分野の支援組織の動向を伝えている。メディアの分野では、商品情報を提供する雑誌「コンシューマー・レポート」がある。広告ページのない同誌は、「テスト・情報公開、消費者保護」をモットーに、投資信託やコンドームを含めて多様な商品のランキングを行っているとのことである。
日本でも、「暮らしの手帖」は良質な商品に関する情報提供で定評があるが、昨年秋号から「良質な企業」、つまり社会性・倫理性の高い企業についての連載企画をはじめて、時代の変化を感じさせる。
第5章の「社会責任を測る指標」では、企業の社会貢献度を評価する仕組みとして、「格付け」と「賞」の具体例を紹介するとともに、各種の「規格」についても説明を加えている。著者の勤務していたCEPは、社会的な格付け機関であり、「より良い社会を作るためのショッピング」というベストセラーを出版していることでも有名である。
この本は、消費者が手軽に活用できるようコンパクトに作られている。そこでは、「情報公開度」、「環境保護度」、「女性の働きやすさ」、「マイノリティの働きやすさ」、「寄付行為」、「ファミリー重視度」と「労働環境への配慮度」の7つの項目で評価され、5段階の格付けがなされる。また、この組織では、「企業良心賞」で社会的に優れた企業を毎年表彰している。
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日本では、朝日新聞文化財団が「有力企業の社会貢献度調査」を実施しており、今年2月には10周年のシンポジウムが開催された。このような「格付け」や「賞」の狙いは、社会的責任をしっかりと果たしている企業がマーケットで高く評価されることである。アメリカでは、消費者むけのガイドブックだけでなく、投資家を対象とした「コーポレート・レポート・カード」という報告書も出版されている。
金融というマーケットで、投資家が自らの価値観で企業を選別して投資するのが、「エコファンド」であり、「社会貢献(SRI)ファンド」である。スーパーマーケットであれ金融マーケットであれ、企業は、購入や投資という行動を通して、その社会性が評価されるのである。著者は、最近あるシンポジウムで、「ショッピングカートは、社会を変えるシンプルな武器」と語っている。つまり、「BOYCOOTT」ならぬ「BUYCOTT」で社会を変えるのである。
「規格」については、国際的な労働規格としてSA8000が紹介されている。SAとは、ソーシャル・アカウンタビリティの略で、この規格は、前述のCEPなどが1997年にまとめたもので、「児童労働の禁止」、「強制労働の禁止」、「差別の禁止」や「労働時間の順守」などの9項目からなり、人権の視点が全体を貫いている。日本でも、麗澤大学の高教授が中心となって策定されたECS2000という倫理・法令順守の規格があり、すでに一部の企業では有効に活用されている。
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最終章の「社会責任企業へ」では、時代を先取るリーダー企業に共通する特徴として、企業の理念や価値観を具現化するスキームづくりと、多様なステークホルダーの声を聴こうとする感性と体制が指摘されている。
著者は、欧米と文化風土を異にする日本においては、一人ひとりの個人が、「自分の幸せ」を大切にし、みずからも変わり、そして日本の心を世界に発信していくことが、企業を変え社会を変えることにつながると、訴えている。
21世紀に生きるわたしたちは、「新しいモノサシ」で人生を、社会を、そして世界を見つめ直したいものである。