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総合的な学習が2002年度から小中学校で本格化する。それに向けて多くの学校現場では試行錯誤しながら準備に取り組んでいる渦中であろう。そして学校だけではなく、地域が主体となるユニークな取り組みが全国で生まれて来ている。
この本はまさにそういった地域の一つである栃木県の鹿沼市において、学社融合の視点から、先駆的実践として注目されている学校の教職員と地域の住民が開発した事例を編んだ実践集である。
実践の中身は、発想が豊かで斬新かつ魅力に満ちたものが沢山ある。例えば公民館の木工教室をそのまま学校の図工の授業として出前講座にしたり、市民大学の書道講座の方を講師として書写の授業に導入したり、学校と保護者が協力して生活科の年間活動計画を作成し、年間17時間分の活動を家庭に移行したり、消防団と共催で避難訓練をしたり、枚挙に暇がない。
特におもしろいと思ったのはKLV=カリブーと呼ばれる鹿沼図書館ボランティアの活動である。子どもたちの本離れの状況・司書もいないと言った学校図書館の現状(中学校では子どもたちの荒れが原因で図書館には鍵がかかったままになっていたという。)を憂えた母親の「子どもたちを学校図書館に呼び戻そう」という提案から、八年前に生まれた組織である。
「子どもと本をつなぐ人は司書の先生だけでは無理。子どもは大勢なんだからつなぐ人も沢山必要よ。私は司書の資格はないけれど、少しぐらいは役に立つんじゃないかなと思った。」「中学校の図書館のかぎをなんとしても開けたかったの。私たちにできることなら、私たちがやるべきじゃないかと思ったの。たとえそれが学校の図書館のことであっても。」そんな素朴な何人かの声から始まったカリブーは現在250人を超える市内でも最大のボランティア団体になっている。
そして、選書以外、殆どの学校図書館の業務に関わっているという。図書館の模様替え、壁の塗り替えから、街角ライブラリーを作る活動まで。学校から国語授業での調べ学習の支援を依頼された時のことである。
「辞書も引けない子どもの為に学習相談コーナーを設けよう」というカリブー側の提案に最初学校側は「設置の必要はない」と答えたのだが、「母親として子どもの実態を知っているから」というカリブー側の意見に設置することになった。そして結果としてそのことが、一人の子どもの学びを支えたのだという。
「カリブーのアドバイスを受けながら漢和辞典をひいては漢字にルビを打ち、国語辞書をひいてはノートに意味を書き写している姿」から、もし「学習相談コーナー」がなかったら、その子にとって一時間は苦痛になったことだろう。全ての子どもの学びや育ちを支援する意味からも学社が手を携えることが必要であることを示す一例ではないだろうか。
鹿沼市では学社融合を「学校教育と社会教育が重なり合い、学校教育と社会教育が子どもを育てる方向を共有化するとともに、子どもを育てる活動を協働化する作業」と定義している。
学社連携との違いは学校教育と社会教育の双方が主体であり、双方に成果がもたらされる点だという。そして授業は「地域人材を活用する場」ではなく、「地域人材が活動する場」であるという。この発想の転換が重要なポイントではないかと思えるのである。
これまで学校教育は、学校の中だけで完結して進められている所が多かったと思える。しかし、これからは地域と学校が結んで子どもの学びや育ちを促していくことが必要である。学校にも、地域にも、発想転換が必要であることを本書は示してくれているのではないだろうか。