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研究所通信283号掲載

自治労 自治体入札・委託契約制度研究会

『社会的価値の実現をめざす自治体契約制度の提言−入札で地域を変える』

(2001年10月、A5判、37頁)

 本「提言」の「はじめに」で提言の問題意識が触れられており、少し長くなるが引用したい。

「自治体は住民生活に不可欠な地域公共サービスを担っているが、財政状況の悪化を主たる理由として、これらの地域公共サービスの外部化、民間委託化が進められている。」「委託契約の相手を選ぶ方法が入札であるが、現在の入札制度は価格が安ければよいという価格重視の入札制度となっている。そのため、いわゆる「不当廉売」を許容することになり、地域公共サービスの質と公正労働基準の確立(労働者保護)が保障されないと思われる金額で落札されるケースが増加している。また談合事件もあとを断たない。」

「公契約における公正労働基準の確保については、国際的にはILO94号条約があるが、日本政府は批准をしないまま今日に到っている。」

「自治省(現総務省)は99年2月に地方自治法施行令改正を行い地方自治体においても、価格とその他の要素を総合的に判断する「総合評価方式」が可能となった。しかし現実にはまだ総合評価方式による入札が一般的な方式として確立される状況にはない。即ち、政府調達の入札という貴重な機会を活用して、公正労働基準や環境、人権、男女平等参画などの価格以外の社会的価値を追究することが行なわれていない。自治の現場において、入札・契約制度の改善がきわめて重要かつ緊急の課題となっている。」

 2000年度で国・地方をあわせると少なくとも65兆円を超える「政府調達」。特殊法人や許可法人、政府系公益法人を加えればもっと膨大な金額になるこの政府調達の「入札」という機会を活用して、自治体が追求すべき「社会的価値」の実現をいかに図っていくのかを鋭く提起しているのが、この「提言」である。

 こうした考えを企業サイドからみると、自治体と委託契約を結んでいる企業や補助金を受けたり税の優遇を受けている企業は、税の支払いで利益を得ているという点で、そうでない企業より重い社会的責任を負っているといえる。したがって、自治体はそうした企業に対し社会的価値の実現についてより高い基準を設定することができるし、そうすべきである、としている。逆にいえば、社会的責任を誠実に追求している企業こそが、一定、優先的に自治体契約に参加できる、ということである。そして、こうした企業を契約において優遇することは、結果的には、公正労働、環境、人権などの分野における税の支出を抑制することにもつながる。

 地域社会がより良い方向に向けて変化することを促す実効性の高い手段として、「自治体契約」をどう実現していくか、一考すべきテーマである。