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2003.05.07
書 評
 
評者中村清二

谷本寛治 著

『企業社会のリコンストラクョン』

(千倉書房 刊、A5判449頁、定価4800円+税)



著者は、本書の中で「市場社会」というキーワードを重視している。すなわち、今日、「市場原理」が重視され、企業や政府も市場に敏感に対応することを求める考え方が強まっている。しかし、現実の市場は社会の動向と表裏一体の関係があり、当然ながら社会の動向や変化を無視して市場は成り立たない。企業はそのことを改めて認識すべきであり、「市場社会」というキーワードにその考え方を託しているのである。


そして、市場社会における企業の役割の変化を以下のように指摘している。

「70年代は、企業の社会的責任の問題はそれを経営政策や実践に組み入れるべきかどうか、社会的責任を果たすべきか否かという議論がなされたが、90年代に入ってからは、いかに社会的責任に取り組むか、ステークホルダーへの配慮を組み込んだ経営をいかに行うか、という議論に変わってきた。さらに90年代終わり頃以降は、社会的に責任ある企業を評価するSRIの広がりや社会的・環境的基準が取引の条件に組み込まれつつある.そこでは社会的に責任ある企業としてのビジョンや原則をもち、組織を建て直し、戦略的な政策を立てていくことが企業の評価を高めることになる。」(416頁)


近年、国際的な動行は言うに及ばず、日本国内においても、新たな企業評価として、「インテグレックス」が企業倫理を、NPO「パブリックリソースセンター」や「日本総合研究所」が社会的責任全般を、「GRI(グローバル・レポ―ティング・イニシアティブ)」が社会的責任全般にわたっての企業報告書のガイドライン2002年版を、「経済同友会」が社会的責任全般にわたっての企業評価基準(評価シート)を、作成し実施している。そしてそれらの結果を活用したさまざまな「社会的責任投資」が検討・作成されつつある。

また国際的にも評価の高い企業ほど、当然ながら海外からの投資対象になり、外国人株主比率も高い。そしてその評価も財務評価だけでなく、社会的責任全般に及んできている。

まさに本書のタイトルどおり企業社会のリコンストラクション(再構築)が求められつつあるし、進みつつあるといえる。そして、これは企業だけの問題ではなく、また企業だけの取り組みで解決するものではない。すなわち「誠実」な企業が評価され、その企業を支援するための社会的仕組み(例えば社会的責任投資やそれへの減税など)が必要である。それは社会(市民)の関心と取り組みによってのみ可能であり、社会(市民)の変革でもある。

こうした問題意識にあふれている本書は450頁という大書であるが、現実に深く関わった実践的分野としては、「9章 企業と社会の新しい枠組み」「11章 企業とNPOのコラボレーション」「12章 企業活動の社会的評価システム」「14章 ソーシャルエンタープライズと新しい事業スタイル」「結章 新しい企業社会システムへの展望」などが興味深い。ぜひ一読をおすすめしたい。

(中村 清二)