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書 評
 
評者坂東 知博


エイミー・ドミニ著/山本利明訳

社会的責任投資
 〜 投資の仕方で社会を変える 〜

(木鐸社 刊、2500円+税)

本書は、世界を持つ者と持たざる者とに二分する現在の市場のあり方を補正しうる手段として、ドミニ2000等の社会的企業評価を作成した著者が社会的責任投資(SRI)について歴史、手法、事例を詳しく紹介したものである。

社会的責任投資とは、社会的評価含めた企業評価を行い、企業に働きかけることで、企業に対して積極的に社会的問題に取り組むことを促すこという。

第一に、社会的企業評価を通じて、環境破壊や劣悪な労働環境などの人権問題を起こしている企業、健康に悪影響を及ぼす商品や兵器、ギャンブル産業などに対してはマイナス評価を行い(ネガティブスクリーニング)、逆に環境問題や人権問題、地域社会への積極的な貢献をしている企業に対してはプラスの評価を行う(ポジティブスクリーニング)。それをもとに企業の株式を購入し、あるいはマイナスの企業ははずし、プラスの企業だけでファンドを構成する。このことでプラス評価を得るために経営戦略として企業倫理の確立や社会貢献、社会問題への取り組みが始まる。

第二に、それらの株式やファンドを購入し、株主となった人々は、一定の条件を満たせば株主総会や株主代表訴訟で経営者と直接、社会的問題を提言・質問することができる。

第三に、地域社会経済を活性化させるための銀行を立ち上げそこに預金や投資することもあげられる。マイノリティや女性など不当な差別や偏見により、貸付を拒否される人々へ低金利で資金を供給し、その返済や活用をNPOなどが指導することで荒廃していた地域社会を活性化している。また、返済率も一般の貸付よりも高いことが示されている。

第四に、世界的に経済活動がおこなわれている現在、企業はさまざまな国々で事業を展開している。そのことが直接的な人権侵害や環境問題を起こしているだけでなく、一律的な基準の適用によってその国の経済や文化、生活・自然環境を破壊し、貧富の急激な拡大をもたらしている。一方でインターネットの普及などにより地元NGOなどからその事実が世界的に発信される。そのような状況において国内だけでなく国外での活動も企業評価の対象とすることで、国際問題の解消に関与することができる。

しかも、それらのことは個人的に、いくらかの株式を持ち、企業やファンドマネージャーに質問することで可能になる。

現在、企業は企業倫理や社会的責任などにかかわり情報公開を通じた信用や企業イメージを上げる経営をとりはじめている。また、社会的責任投資が拡大し、社会性のある企業が支持されはじめている。このことは、企業活動と社会貢献が対立するものではなくなり、よりよい社会の実現に相乗効果を発揮する時代になったといえる。