「学校を地域の活動の拠点にすることで、学校づくりや次代を担う人育てから、生涯学習のコミュニティづくりにまでしていける。私はこの本で、どうしてこんなまちになってきたのかを、『学校の記憶』と『地域の記憶』との紡ぎあいの経験から綴りたいと思います。そして『きっとあなたのまちでもできますよ!』と、その可能性を実際の活動事例をとおして伝えたいと思います。」
著者の言葉を借りるならば、本文中に書かれているこの一節こそが『「地域暮らし」宣言 』の要約であり、すべてである。
そしてこの凝縮された箇所を解凍した本文は思った以上にボリュームがある。それは、著者が伝えたい対象者がPTAや地域の人、学校関係者や社会教育関係者をはじめとした行政関係者などさまざまな立場の人に対して、それぞれ具体的かつていねいに書かれているからである。しかしながら、かといって読むのにたいへんということもなく、とくに読者の関心のある章・コラムだけ読んでもこの本の概要が十分に理解できるという構成になっている。
著者は1993年3月に同じ太郎次郎社から『学校を基地に<お父さんの>まちづくり - 元気コミュニティ!秋津』を出版されているが、それが活動事例中心にまとめられているのに対して、本書ではその活動事例を「学社融合」の視点から理論的に整理されている。そして「きっとあなたのまちでもできますよ」と書かれているとおり、それら活動事例から導き出してきた要点整理がマニュアル的にいくつかのコラムで紹介されている。
「学社融合」について、1996年の生涯学習審議会答申には、「学社融合は、学校教育と社会教育がそれぞれの役割分担を前提とした上で、そこから一歩進んで、学習の場や活動など両者の要素を部分的に重ね合わせながら、一体となって子供たちの教育に取り組んでいこうという考え方であり、学社連携の最も進んだ形態と見ることもできる」と述べられているが、著者は自身の経験から「学社連携をいくら積んでも学社融合にはならない」と考え、「はじめから双方にメリットを生みだすように仕掛けないとダメ」、「自然に任せていても連携から融合にはならない」とし、「学社融合」と「学社連携」とは似て非なるものととらえている。この考え方については、著者も参画している「学校と地域の融合教育研究会」のホームページ(http://www.yu-go.info/)に詳しく紹介されている。
本書で紹介されている豊かな活動事例や「学社融合」の考え方、それらのすべてのスタートはPTAの「飼育小屋づくり」からであり、「つぎは、なにをつくるの?」とつづき、「保護者と先生双方が喜ぶことを学校ですればよいんだ!」と発見する。きっかけ自体はどこにでもある内容であるが、「次の提案」につなげていく工夫やテーマ探しをいかに問題意識をもってコーディネイトしていくかがポイントであり、「ホップ、ステップ、ジャンプ」と創造していくことが肝要である。
また、これらの実践や理論的な整理点は、部落解放運動から言えば、これからの重要な取り組みのひとつとして位置づけている「人権のまちづくり」、とくに教育コミュニティを中心とした人権のまちづくりにとって大いに参考となりうるものである。
ただ、部落の場合はこういったまちづくりの中心となる30-40歳代の、経済的にも比較的安定した中堅層の比率が低く、高齢者や生活に困難な人の比率が高いという状況があり、そこを考慮した取り組みがすすめられなければならない。これまでに培ってきた部落のコミュニティや施設などのハード面における実績という貴重な財産、それをどう活かしていくのかが部落の場合にはとくに問われることになる。