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2004.06.19
書 評
 
評者N

(1)『諸外国の若者就業支援政策の展開-イギリスとスウェーデンを中心に』

資料シリーズNo.131(2003年3月)、日本労働研究機構、B5判、177頁

(2)『諸外国の若者就業支援政策の展開-ドイツとアメリカを中心に』

労働政策研究報告書No.1(2004年2月)、労働政策研究・研修機構、A4判、155頁

深刻化する若年者の失業問題

  昨秋、日本労働研究機構が「独立行政法人 労働政策研究・研修機構」として新たに出発した。標題の二つの図書は、機構改革の時期に前後し相次いで出版されたもので、同一の趣旨に基づくものである。

  周知のように、若年失業率は、1970年代後半より、多くの欧米先進国で上昇傾向を示し、近年のEU加盟国平均で15%程度の水準(2002年)となっている。一方、日本では、つい最近まで若年失業率は4-5%と非常に低い水準で推移してきたが、ここ数年、10%近くにまで上昇し、「フリーター問題」ともあいまって、深刻な社会問題となりつつある。

  欧米では、すでに1980年代前半より、若者の深刻な失業問題に、国を挙げての対策を進めてきた。もちろん、国によって取組の内容も違い、その経緯も異なる。日本の現状にそのまま適用することは当然できない。しかし、日本に20年近くも先行して取組んできたこの問題への具体的な対策のあり方や、キャリア教育の視点については、おおいに学ぶべきであろう。

欧米各国の経験に学ぶことから

  本書で紹介されている4つの国のうち、イギリスとスウェーデンについては、「どちらも90年代後半において若年者の就業状況の改善が大きい国であり、それぞれ独自の積極的な対策をおこなっている国」である。日本が今、両国の政策を批判的に検討し、効果的な対応をとれば、「両国がかつて経験したような若年者問題をひきおこさなくてすむのではないか」とも考えられるのである。

  イギリスでは、失業状態にある若者を「生活保護から職場へ」と復帰させることを目的に多様なプログラムを提供するニューディール政策が有名である。また、13歳-19歳のすべての若者を対象に個人相談員を決めて実施するコネクシオンズサービスが2001年より開始され、注目を集めている。

スウェーデンでは、「地方自治体発達保障プログラム」と称し、失業中の若者に労働市場となんらかのつながりを与えるような行動計画を、地方自治体と職業安定所が各参加者と一緒になって作成する点に特徴がある。

  さて、今回、新たに刊行された「続編」では、学校から職業への組織的な移行支援に取り組み始めたアメリカと、デュアルシステム(職業学校での職業教育と民間企業での実地訓練とを併行して実施する若年者職業訓練システムのこと)という優れた移行支援システムを持つドイツに焦点を当てている。

  アメリカは、包括的な移行システムが長い間存在しない国として知られてきたが、近年その支援の重要性が認識され、連邦レベルでさまざまな施策が実施されてきている。なかでも、ジョブコア制度は、若年者の雇用職業訓練プログラムとして最大の規模であり、高校中退者や人種的マイノリティ等の「不利な立場に置かれた者」を主要対象に、一定の成果を挙げているといわれる。

  ドイツはこれまで、デュアルシステムの成果によって、日本と並んで若年失業率の低い国として知られてきたが、近年、そのデュアルシステムにも入れない、あるいは修了しても就職できない若者の存在が問題となり、これらの若者を対象にして、新たにJUMPプログラムという施策がはじまっている。

「不利な立場」の若者に焦点を当てて

  それぞれの国の若年就業支援政策の詳細は省略せざるをえない。ぜひとも、本書をごらんいただきたい。一点、念頭に置きたいのは、本書が、諸外国の若年就業支援政策のうち、とりわけ、「高等教育に進まない、社会的に不利な立場におかれた若者」を対象にした政策に焦点を当てて研究を進めてきたことである。それは次のような理由による。

…これまで観察されている重要な発見として、失業あるいは不安定な就業状態は、一部の若者に集中しているという点が挙げられる。若者は、誰もが同じような確率で不安定な状況に置かれるわけではない。人種・貧困・学歴・性別によって、若年失業率は大きく異なる。日本においてもフリーター率は、社会的に不利な立場に置かれた若者において高くなっている。

  また、本書では、近年、欧米で急速に問題化している、就業・在学・訓練に参加しない、Not in Employment, Education or Training=NEETに言及し、社会参加の機会を奪われた若者たちへの施策の重要性を喚起している点にも注目したい。

  このような視点から諸外国の政策を概観する場合、そこから日本が学ぶべき点を本書では次のように7点にわたって示唆している。

  1. 地域ごとの若年就業支援政策の重要性
  2. 総合的な相談サービスとワンストップサービスの必要性
  3. 若者に利用されやすい職業訓練のあり方の見直し
  4. 政策評価の難しさ(長期的な評価が不可欠)
  5. 対象者別支援の利点と問題点の克服(烙印効果をもたらさない配慮の必要性)
  6. 「働く」ことに向けたレディネス形成への支援(『ひきこもり』等、"働く"こと自体が難しい若者に対する支援)の必要性
  7. 継続的な若年就業支援政策の必要性

日本のマイノリティ問題への視点を

 抜本的な対策を迫られた日本政府は、昨年、ようやくその重い腰を上げ、経済産業省・厚生労働省・内閣府・文部科学省の四閣僚の主導による「若者自立・挑戦プラン」の策定・実施へと動き始めたところである。

  これらの政策が本当の意味で日本の若者たちの未来を切り拓く支援策となりうるためには、上記7点を参考にていねいな検証をおこないつつ、継続的に実施していくことが求められている。

  その際、日本において「社会的に不利な立場に置かれている若者」やNEETとはどのような背景を持つ若者たちのことを具体的に意味するのか、フリーターと呼ばれる200万人以上の若者たちが置かれている社会的な階層や属性についての質的・量的な調査をおこなうことがぜひとも必要となってくるであろう。

  そこには、高校中退や不登校、「引きこもり」等に苦悩する若者たちの姿とともに、部落をはじめとするさまざまな日本のマイノリティの問題が確実に横たわっているはずである。このことをしっかりと見据えた政策を確立することがいまこそ求められているのではなかろうか。

※ なお、労働政策研究・研修機構のホームページ上においてそれぞれの全文が掲載されている。