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2004.09.13
書 評
 
松下 龍仁

現場からのコミュニティビジネス入門

園 利宗 著、連合出版、2004年7月10日、
A5判、206頁 定価1800円(税別)

   「コミュニティビジネス」という言葉がよく聞かれるようになった。部落解放運動においても「人権のまちづくり」運動の一手法として注目し、関心が持たれるようになってきている。

  本書は、各地で進んでいるコミュニティビジネスから参考事例を紹介、そのプロセスや成果、課題を検討し、「どこでも誰でもできるコミュニティビジネスの進め方と論理」を提案しようとしている。構成としては、第1にコミュニティビジネスの参考事例を紹介、第2にそこから「どこでも、誰でもできるコミュニティビジネス」という問題意識から、各地の試行のプロセスと成果ならびに課題を報告、そして第3に紹介事例から「どこでも、誰でもできるコミュニティビジネス」の進め方と論理を提案している。もくじは以下のとおり。

第1章 変化に対応したコミュニティビジネス事例
第2章 コミュニティビジネスの成功要因
第3章 新しいコミュニティビジネスの構造
第4章 コミュニティビジネスの試行モデル
第5章 現場からのコミュニテイビジネスモデル
第6章 誰でもできるコミュニティビジネス
終章 コミュニティビジネス これからの課題

  本書には、全国各地の多くのコミュニティビジネスの事例が紹介されており、一つひとつに特色があり個性的である。著者はそれらの事例からコミュニティビジネスの成功要因について、組織面と人の面に分けて分析している。

  まず組織面の共通要因について「分野クロス」を指摘している。簡単にいえば福祉・教育・文化・農業・商業などの「分野」が縦割りを超えて協働することであり、そこではそれぞれの市民グループが行政との協働があるという。そしてビジネスであるから当然経済的効果の成功があり、非経済面でもメリットがなければならない。

  次に人の面での共通要因として、コミュニティビジネスの担い手(社会企業家)として市民組織、行政の社会企業家、企業人の社会企業家の3パターンに分類している。市民組織の社会企業家の場合は、コミュニティビジネスのやり方を示した数人の商店主をNPOが応援した事例であり、行政の場合は、首長あるいは職員の問題意識からの事例である。そして企業人(商店主)の場合は、「由緒ある建物を喫茶店に」「学童、高齢者が役に立つ朝市」などの事例が紹介されているが、いずれも組織面での縦割りを超えた「分野クロス」が共通している。

  これらを整理して「<1>縦割りを超えた構想と、<2>分野クロス事業の積み上げ、がありコミュニティに役立つことが理解されると、<3>経済・非経済両面の社会利益が成果として見えてくる。非経済面での社会利益が評価されると行政からの応援が容易になり、経済面での社会利益が評価されると資金援助が容易になり、事業が継続していく」とまとめている。

  本書では「コミュニティビジネス」について「地域の問題解決になるビジネス」と定義しているが、中小企業診断士の高見一夫さんは、概ね「地域にあって、地域課題を解決するために、地域住民自らが、ビジネス手法を使って取り組む事業」と説明されている。そこから考えると「コミュニティビジネス」と「まちづくり」のエリアは同じか、もしくは似通っている。本書の著者もまた、「ただ儲けるから、利益をあげながらコミュニティに役立つ」コミュニティビジネスからのまちづくりを問題意識している。「人権のまちづくり」からみてもコミュニティビジネスは大いに活用できるものがあると思うが、コミュニティビジネスは営利事業なので正確には「人権のまちづくり」のひとつの手法・手段と理解すべきだろう。

 「人権のまちづくり」からみると縦割りを超えた「分野クロス」はすでに部落解放運動が経験していることであり、その成果も大きい。今後としては、周辺地域まで広げた取り組みをどうしていくのか。また、アウトリーチを取り入れた総合相談やそのための相談員のスキル向上、そこから見えてくる地域の課題やニーズをいかにつかんでいくのか、さらに自立・自己実現を地域コミュニティの中で実現したいというシーズ(種)をもった「人(社会企業家)探し」とその育成、そして潜在化している地域資産の再発見などであろう。